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小説『ずっとモノローグ』


 5人のカラフルな彼らに勧められて、人生を逆走してみることにしました。
 タイムリープではなく一歩づつ過去に向かって逆走するのです。僕は帰り道を逆走して会社に向かう事にしました。会社に着くともちろん真っ暗で誰もおらず、仕方がないので出勤を逆走しようと思った時にはもう終電がありませんでした。
 どうしたものかと思っていたら大学の友人から電話があり、今からオールでカラオケでもしないかという誘いをいただきました。これは乗るしかない、と思い最寄りのカラオケ屋まで走ります。合流しローな会話を交わしながら近くのスーパーで安いワインを2・3本とツマミのチーズを買い込み、カラオケスタッフにバレないようこっそり持ち込みます。ワインをラッパ飲みしながらメロディに合わせて全身で叫ぶと声を出さぬものもその場の波に体を任せ命を揺らし始めます。朝が来ると、一生創作をしていよう、などと薄っぺらい口約束を交わしながらそれぞれの家に帰って行きます。
 自身の部屋に入ると急に眠気に襲われました。この状態になるとどうしても高校に登校することが億劫に感じてしまい、オールなどしてしまったことを酷く後悔してしまいます。
 行くか行くまいか悩んだ結果、家を出るのがギリギリになってしまいました。途中何度も車に轢かれそうになりながら大急ぎで自転車を漕ぎます。途中、一回閉まると15〜20分は開かない踏切が待っており、僕が遅刻するかどうかは大体その踏切にかかっていました。その日も踏切は当たり前かのようにしまっていました、しばらくして友人から担任が出欠を取り始めたとの連絡が来ましたが当然僕はまだ踏切の前にいました。
 学校に着くと心臓がギュッとなります。クラスメイト一人一人の動き全てが僕の心臓に影響するのです。友人が1人もいないと言うことは学校で気が休まる時間が全くないと言うことで、そんな場所で何かミスをすることはそれすなわち死を意味します。それゆえ中学校で僕は常に肩が上がった生徒でした。
 教室に入ると誰もおらず、今の時間が体育だったことを思い出します、そして、自分が体操着を持ってきていないことに気がついてしまいました。
 処刑を待つかのような時間を僕はただひたすら机に突っ伏して耐えていました。しかし、クラスメイトが教室に戻ってくる時間が近づくにつれて吐き気が増していき耐えきれず僕は学校を出ました。
 歩いて帰っているうちに罪悪感に支配されます。家に着くとまだ誰も帰ってきておらず、僕はベッドに突っ伏して火傷みたいな鈍い痛みを心臓に感じながら眠りに落ちます。
 浅い眠りから目を覚ますと時計の針は六を刺していました。行きたくない、行きたくないけど行くしかない、そう自分に鞭を打ち制服を着て顔を洗います、ネクタイをしめて洗面所から出ると母親と目が合い
 「何やってるの?」
 と、言われます。
 よくよく周りを見渡すと今が朝の6時ではなく、夕方の6時であることに気づくことが出来ました。気持ち悪い安心感で力が抜けます。涙が出るかと思いましたが出ることはありませんでした。
 何にせよ気分が悪かったので仮病を使って休むことにしました。学校は嫌いではなかったけど行きたくはなかったのでよくこうやって仮病を使って休みます。家で1人の間、何回も同じ幼児アニメの劇場版を見るのが日課でした。繰り返し繰り返し、ずっと同じものを見ます。こうしていると時間を感じずに済むので、時間を感じずに済むと自分は人間ではないような気がしてきてなんとなく安心するのです。
 「アオイ_____」
 呼ぶ声がします。そういえば、この名前だったせいで嫌なことを沢山言われました。
 「アオイ____」
 もう母親が帰ってきたのでしょうか。家にはなるべく居たがらないのに、こんなに早く帰ってくるのは珍しいですね。
 「アオイ____」
 家族が揃うのは好きじゃないありません。僕に戻ってしまうから、肺を通る空気を感じられなくなってしまうから、神様がいなくなってしまうから。
 「アオイ____」
 違う。母親じゃない。誰?
 「アオイ__________」
 カナ?カナなの?
 「アオイ____________________」
 カナ、どこに行ってしまったの?
 「アオイ______________________________」
 早く僕を助けて____________________

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