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神保町裏路地日記(9)

2024/11/05

毎年恒例行事の話

 神保町にお店を開いてからと言うものの、毎年11月3日の文化の日は杉玉作りの日と決めています。千葉県の旭鶴という酒蔵さんと地元の工房が主催して下さるイベントで、僕達はかれこれ6回目の参加になるのかな。
 会場には青々とした杉っぱ(杉の葉)が山のように積まれていて、それを使って自分達で一から杉玉を作り上げます。最初は勝手が全然わからないのですが、周りには何度も参加している熟練の方達も多く、分からないことがあれば初対面などお構いなく色々とアドバイスをしてくれます。

 そもそも杉玉とは何かという話をすると、日本酒の酒蔵さんの軒先に必ずと言っていいほど飾られているボール状の杉の玉です。ただの飾りというわけではなく、『新酒が出来たことを知らせる』『良いお酒が出来るようにと願掛けする』意味が込められています。10月から醸造年度が変わって各蔵お酒造りが始まり、11月に新酒が出来てくると杉玉を取り替えて「今年もお酒が出来ましたー」とお知らせするのです。

 杉玉は最初は鮮やかな緑色ですが、時が経つにつれて枯れることで色合いは茶色に変わっていきます。よく見かける茶色い杉玉は、あれは最終形態です。本来の意味は色が変わるにつれて味わいも円熟味を増していくよと言う意味で、杉玉の色と熟成の具合をリンクさせているようです。

 杉玉の意味はそれとして、由来として最も知られているのは奈良県の大神神社に関するものだそうです。お酒の神様を祀る神社として有名な大神神社では、毎年11月14日に酒造りの安全を祈願するお祭りが開かれるそうです。

大神神社のある三輪山の杉には神様が宿っていると信じられ、その杉を酒造りに使わせて頂くことで「良いお酒が造れますように」と願いを込めたのが杉玉の風習の始まりだと言われます。その風習が江戸時代に奈良から全国に広まって、今ではどこの酒蔵も杉玉を飾るようになったのだとか。

 今はステンレス製のものが主流となっていますが、酒造りに使う麹蓋や貯蔵用の木桶は元々杉が使われていました。時代の変化とともに素材はステンレスに移行しましたが、最近では原点回帰ということで杉樽を復活させる蔵も少なくなく、『日本酒文化』がここ数年で改めて見直されていると感じます。

 じゃあ、僕達は杉玉をどういう意味合いで作っているだろう?と自問してみると、どうだろう?「良いお酒を飲んでもらえますように」とは思いますが、それ以上に「今年も宜しくお願いしますね」的な意味も強いかも知れない。日本酒を扱う店なので、日本酒の味ばかりではなくそのものの文化を皆で知れたら良いなという思いもあります。だから、年中茶色い杉玉をただぶら下げるのではなく、きちんと新しいものと取り替えたいし、何なら自分で作る大変さも知っていたい。

 長々杉玉について書きましたが、なるほどそう言う事かという発見はいつでもあるもので、書いている自分も勉強になります。
 何にせよ、杉玉造りは楽しい。一緒に作る顔馴染の人も、初めましての人も、皆で作ってご飯を食べて、「今年も無事作れたね。じゃあ、また来年!」と言って別れるのもすごく好き。日本酒が一年に一度の機会を繋いでくれている。そう言う時間が、大人になってもいつまでも続くということが素敵。沢山の人にそう言う時間があるよということを、知って貰えたら良いなあ。

ちなみに、杉玉の出来る過程はこんな感じ。

最初はこんなにボサボサ
剪定バサミでカットカット
切っては杉っぱを差し込んで密度を高め形をまとめる
杉玉の下は切った杉っぱでびっしり
今年の仕上がりはこんな感じ

そういうわけで、今年も新しい杉玉、宜しく!

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