エッセイのご紹介420 卒寿のイメージ(小黒恵子著)
こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。
今までは、神奈川新聞のリレーエッセイをご紹介してきましたが、今回は、神奈川新聞のサンデーブレイクに掲載されたエッセイをご紹介いたします。
記念館には、多くの自筆の原稿が残っているのですが、今回のエッセイは掲載文しか残っていないので、掲載文をご紹介します。
詩人の書いたエッセイ、独特の言葉選び等を感じていただけると幸いです。
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「卒寿のイメージ」
神奈川新聞 平成6年10月2日 サンデーブレイク
詩人・童謡作家 小黒恵子
長寿を祝う行事は、室町時代から今日に至るまで受け継がれているという。
家族や後輩がそれを祝うのは、温かく美しいことだ。人生の幾多の嵐(あらし)を通り抜けて、健康で長生きしている人はすばらしい。
今夏七月に横浜で、作曲家の高木東六先生の「卒寿記念コンサート」が盛大に催された。また六月には合唱団とともに、オーストラリアのオペラハウスで、「人生とハーモニー」の公演をされた。七月末には私の童謡記念館で、ピアノとトークをお願いした。その妙(たえ)なる音いろは感動的だった。
九十歳にして今なお年間を通し大変たくさんの仕事をされている。「卒寿」で思ったのは、“卒”の字のイメージが芳しくないということだ。最近では九十歳の祝いにふさわしく“きゅうじゅう”をもじって「久寿」と言っているところもあるという。
また、“鳩寿”と書いて“はとじゅ”と言ったのは、漫画家の故田河水泡氏が「卒寿」を迎えた時に考えたそうだ。今夏六月に九十歳を迎えた田河夫人の劇作家高見沢潤子さんが、“鳩寿”の祝いを都内のホテルで盛大に開かれたそうだ。広い分野で九十歳を迎えてなお活躍している方々に、心より脱帽のほかはない。
これを考えても“卒”ではなく“久”か“鳩”がいい。私は平和を象徴する“鳩”を選びたい。
九十歳までは大分間があるが、歳月の列車は速い。いずれ私も健康な社会人として“鳩寿”を迎えることができれば幸いと思っている。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回も、小黒恵子の神奈川新聞のサンデーブレイク原稿をご紹介します。(S)
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