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エッセイのご紹介413 ふしぎなトンボ(小黒恵子著)

 こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。

 今までは、神奈川新聞のリレーエッセイをご紹介してきましたが、今回は、神奈川新聞のサンデーブレイクに掲載されたエッセイをご紹介いたします。

 記念館には、自筆の原稿が残っており、ここでは、原稿の方をご紹介します。実際の記事は、校正を重ね、少し異なっています。
 詩人の書いたエッセイ、独特の言葉選び等を感じていただけると幸いです。

エッセイ タイトル一覧(小黒恵子自筆の原稿より)

「ふしぎなトンボ」
                    詩人・童謡作家 小黒恵子

 梅雨の晴れ間の七月の日曜日、朝から庭の緑の間をシオカラトンボがスイスイ飛んでいた。
 その日、月刊「川柳東京」の“庭の会”の方々が三十余名、私の童謡館に来られ、ピアニストの伴奏で童謡や唱歌を合唱した。
 そのあと展示物をご覧になったり、手巻蓄音機で七八回転の童謡レコードやオルゴールを聞かれた。
 お茶を召し上がったりして、二時間程して庭に出られた時「トンボ、トンボがいる」と言う声がした。私達も見送りがてら庭に出た。
 その時歓声がして、ご年配の男性が髙くあげた指に、シオカラトンボがピタリと止まっていた。
 「トンボ、トンボこの指とーまれ」。みんな童心にかえって無心の表情で、指を髙く立てていた。
 すると今度は年配の女性の指にピタリと止まった。
みんな感動して拍手の音の波が続いた。
 「ああ幸運でした。いい川柳が書けますよ。八月号をお送りします」とおっしゃって帰られた。
 それにしても来館の人達に、なんとすてきなプレゼントをしてくれた珍しいトンボだろうと思った。
 ふと見ると小さな池の上に張り出した五葉松の枝に、クモが大きなテントをかけていた。
 あっタイヘン! わたしは一瞬ドキッとした。
 ―トンボさん気をつけて― 祈る心がふつふつと湧きあがった。

1993(平成5)年7月18日 神奈川新聞サンデーブレイク掲載の原稿

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 次回も、小黒恵子の神奈川新聞のサンデーブレイク原稿をご紹介します。(S)

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