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エッセイのご紹介405  ガラスの列車(小黒恵子著)

 こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。

 今までは、毎日、詩をご紹介してきましたが、今回は、神奈川新聞のリレーエッセイに掲載されたエッセイをご紹介いたします。

 記念館には、自筆の原稿が残っており、ここでは、原稿の方をご紹介します。実際の記事は、校正を重ね、少し異なっています。
 詩人の書いたエッセイ、独特の言葉選び等を感じていただけると幸いです。

エッセイ タイトル一覧(小黒恵子自筆の原稿より)

「ガラスの列車」
                    詩人・童謡作家 小黒恵子

 お正月と思うまもなく、節分が過ぎて、梅の花が移ろい、桜が咲いて、時間という見えないガラスの列車は、容赦なく走っている。町を過ぎ野を過ぎ、山を越え海を渡って、幾つも幾つもの、人生の駅を通り過ぎながら。
 時には薔薇につつまれて、時には嵐にたたかれて、泣いて笑って、それぞれの人生の旅に向かって―。
 過日「人生いろいろ」というタイトルでおしゃべりをした。なんでこんなタイトルを選んで了ったのか、私自身分からないのだが。
 その対象は、七十名ほどの女性であったが、三十代後半から五十代後半までの、最高のキャリアウーマンであった。
 国会議員、弁護士、大学教授等々。その顔ぶれに圧倒されたが、私なりに長い歳月、戰争を通して時の流れに、紆余曲折しながら生きて来たこと、今考えていること、仕事のこと、これからの人生の集大成に向かって、燃えていること等々を話した。だれでも一生懸命に積重ねてきた経験が、自信となるのではないかと思う。
 慰め心もあるが、人それぞれ自分の人生に、誇りを持っているのではないだろうか。然し若い頃、もっと勉強すべきだったと思うのは、私だけではないと思う。近ごろはやりのトラバーユも時にはいい。いろんな世界を見ることも必要と思う。
 然し忍耐も必要であることを、今どきの若者に伝えたい。気がついた時、終着駅が目前というのでは遅すぎるのだ。時間というガラスの列車は、今も走り続けている。

1992(平成4)年2月20日 神奈川新聞リレーエッセー掲載の原稿

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 次回は、小黒恵子の神奈川新聞のサンデーブレイク原稿をご紹介します。(S)

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