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No.472 小黒恵子詩集の紹介記事-38 (ホラ耳をすまして)
こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。
様々な新聞記事等をご紹介しています。今回は、小黒恵子詩集に関する記事 をご紹介します。尚、詩集は絶版ですが、当館でお読みいただくことができます。また、貸出も行っています。
小黒恵子著 ホラ耳をすまして (B6変型
・1500円 現幻社)
★童心の本質を再考させる
「先ず童話とは芸術的な匂の高い子供の唄であって、それには美しい取り止めもないような、まだ見た事もない世界に対する限りないあこがれの心を子供の興味にしっくりと添ふように、そして遂にそれが一つに仲好く溶け合ってしまふ程、巧みに、といって飾らずありのままに、丁度野の鳥が奇麗に晴れ渡った青い空を見てゐると、いつか好い声で歌はずには居られないで歌ふといふのと同じやうに自然に無理をせないで歌はれた子供の詩を童謡と名づけてあるのです」
これは『童謡作法問答』における野口雨情の言葉だが、今日、この本質を見事に現代に還元させている童謡が、どれほどあるだろうか。曲のリズムにおんぶしなければ聞かれないような陳腐な言葉、ゴロ合わせのように調子のよい言葉だけを並べたポエジー忘れの歌、こんなものは詩ではなく作詞にすぎない。どのような童謡であれ、まずは曲なしでも充分に鑑賞に耐え得るものでなければならないはずである。
「大人な全力をふるって、しかしその苦心のあとはきれいに消して、うまくしあげた童謡」と、清岡卓行がいうように、この童謡集には、自然の不思議さに目を見はる幼児心象が、素朴にみずみずしく表現されている。
とりわけ、簡潔な言葉で、虫をユーモラスに擬人化した「虫のつぶやき」はこの詩人の非凡な才を感じさせる佳品だ。
悪いことは/できないな/銀色の足あとが/しょうこになる(ナメクジ)
どこまで/のびるの/はかるたんびに 伸びてる/朝顔のつる/きりがな
いけど/それがおいらの/商売さ(シャクトリムシ)
さりげなく虫の生態をとらえて、ファンタジックなイメージの中に幼児の心を見事にうたいあげている。
このすぐれた個性は、定型的な童謡にあっても、ほとんど変わることがない。
ハダシはいいね/ムカデだもん/もしも80 90 100足の/靴をはいたら/
足音うるさくて/
あるけない/ハダシでハダシで/よかったね(ハダシはいいね)
ぼくはしんまい/測量士/くたびれちゃって/ひるねです/小枝をまねて
/ねむったら/テントウムシが/背中にとまった/目方はどうやって/は
かるのかな(シャクトリムシは測量士)
甘美な詩情に流れることなく、生活(靴)や仕事(測量)といった日常性まで盛り込んで生きることの幸福、生命あるものへのやさしさが、生き生きと表現されている。戦後の子供の本の中で、あまりにも手あかのついてしまった童心の本質をもう一度考えなおさせてくれる楽しい童謡集だ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は、月刊絵本ニュースに紹介された記事をご紹介します。(S)
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