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No.519 小黒恵子氏の紹介記事-85 (自然の大切さを肌で 労働通し情操教育を計画)

 こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。

 様々な新聞記事等をご紹介しています。今回は、新聞に掲載された小黒恵子氏の記事 をご紹介します。

「自然の大切さを肌で 労働通し情操教育を計画」
                  詩人 童謡作家 小黒恵子

 近ごろ私が心を痛めている一つに、テグス(釣り糸)の問題がある。
 釣り人が心なく捨てるテグス。そのテグスが水鳥やハトなどの野鳥の足や指に絡んで、足首を失ったり、テグスの針をのみ込んで死を招いたりする。この悲惨な実態をどのようにしたらよいのだろうか。
 川辺でも海辺でもテグスの被害にあう野鳥は、増加の一途という野鳥保護団体の報告も出ている。
 釣り人は、足指の欠落した野鳥を目の当たりに見て、何と思うのだろう。こんな恐ろしい実態を知らないはずはないのだが。
 マナーもモラルも、軽いテグスと一緒にポイと捨てる。こんな現実をどうしたら解決できるのだろう。
 また海や山や野原などで、ビニールやプラスチック製品やポリ袋などを捨てないことだ。死んだ野性動物や野鳥を解剖すると、それらが胃や腸につまって死因をなしている。
 これらの問題は、マナーとモラル以前の情操教育にあると思うのだが、マスコミでも大きく取り上げてほしいと思う。
 近年緑の自然がすべての生物にとって必要不可欠であることが、ようやく一般に浸透してきた感がある。
 しかし中には、葉が茂ってくると虫が落ちるとか、枝が邪魔とか陰になるとか、苦情を訴える人がいて、緑の大切さが十分理解されていない。
 その果ては木を切ってほしいと、署名運動まで起こして役所を動かし、かけがえのない大木を伐採させてしまった幾つかの例を思い起こす。
 こうして緑の問題を考えると、子供のころから木に対する関心や、隣人愛を育てることが肝要であると思う。
 杉花粉にしても木と親しむことによって、必要以上の恐怖感が薄らぎ、やがて花粉症から解放される時がくると思っている。
 私は昨夏自宅を改装して童謡記念館を開館したが、その敷地に樹齢三百年ほどのケヤキの木が十本ほどある。
 枯れ葉の季節には落ち葉の海となり、歩くとザブザブと波の音が聞こえてくるような気がする。
 そこで子供たちに、熊手(くまで)やほうきを使って落ち葉の掃除や落ち葉たきをして、青空の下で体験教室を実現させたいと企画している。
 労働という体験を通して、木や自然に対する親しみ、大切さを、肌で感じとるのではないかと思う。
 人間より何倍も長生きしてる大木に、尊敬の気持を持つことができるようになる。
 人も動物も植物も昆虫も、みんなこの地球に同じように生きている友達なんだ、という意識が芽生えると思う。
 情操教育の一助として、自然を通してその大切な心を、次の世代をつなぐ子供たちに、ぜひ伝えたいと願っている。

神奈川新聞 平成4年(1992年)1月1日 新春提言

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 次回は、1992(平成4)年の紹介記事をご紹介します。(S)

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