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エッセイのご紹介410 お正月はミノムシになって(小黒恵子著)

 こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。

 今までは、神奈川新聞のリレーエッセイをご紹介してきましたが、今回からは、神奈川新聞のサンデーブレイクに掲載されたエッセイをご紹介いたします。

 記念館には、自筆の原稿が残っており、ここでは、原稿の方をご紹介します。実際の記事は、校正を重ね、少し異なっています。
 詩人の書いたエッセイ、独特の言葉選び等を感じていただけると幸いです。

エッセイ タイトル一覧(小黒恵子自筆の原稿より)

「お正月はミノムシになって」
                    詩人・童謡作家 小黒恵子

 今年はとりどし。ヒマラヤを飛ぶ鶴の美しい姿を、ふと思い浮かべた。
 そしてその麓の大自然の平原に生きる遊牧の家族を幸せと思った。
 現代社会の組織の中に生きている私達は、目に見えないストレスのくさりにつながれている。
 そこで私は毎年お正月には、ミノムシになる。
 門を閉ざして誰にも逢わず受話器もとらない。
 自由な時間を自由に使って、三匹一羽一人の三種類の家族で幸せをわかちあう。
 そんなわけでお正月は、一年を通して最高な日々だ。
 ミノムシと言えば、時代と共に、ミノムシの家も新建材に変った。赤や青のビニールや毛糸の切れはし等を使って雨風に強く派手な家になった。
 目立つけれど鳥はミノムシと気付かず、かえって安全なのかもしれない。
 鳥と言えばこの季節には毎年、多摩川にカモの群が飛来するが、岸辺を歩いているカモの姿は、決して美しいとは言えない。体重が一寸重すぎるような感じのこの鳥たちが、遥かな地から飛来するのを思うと、尊敬の気持が湧いてくる。
 そして世界中が鳥獣保護の国々であって欲しいと思う。
 地球は一つ。鳥には国境も狩猟地も関係ないのだ。
 人も鳥も動物も昆虫も、みんな一つしかない大切な生命、私達が守ってあげねばと思った。
 静かなお正月にわたしはミノムシになって、そんなことを考えていた。

1993(平成5)年1月10日 神奈川新聞サンデーブレイク掲載の原稿

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 次回も、小黒恵子の神奈川新聞のサンデーブレイク原稿をご紹介します。(S)

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