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短編小説集《note版》

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2015年3月の記事一覧

見送りなんてしないけど。

 普段ほとんど接点もなくて、喋る機会さえまるでないあのひとに、片想いを始めて三年。何とか連絡先を交換してLINE友だちになって半年とちょっと。まだ告白する勇気も持てないままの三月の始めに、辞令が出た。異動。しかも他県の支店勤務だって。どんだけ離れてるのかGoogleマップで調べてみて、思わず笑ってしまった。

* * *

「いつ引っ越すの?」
『二十九日の朝九時半の予定』
「準備進んでる?」

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まちわびるのは、うましはる。

 昨今の小学四年生は、思った以上に忙しい、らしい。

 琴音もまた、ご多分に漏れずなかなかに多忙な小学四年生だ。学校以外にピアノと英会話の教室にも通っているから、なおさら。だから今日――三月三日のこんな時間に家でぶらぶらしてるなんて、奇跡だ。僕はむりやり仕事に一段落つけて、リビングでDVDを観ようとしていた琴音に声をかけた。
「パパとデートしようよ?」
 琴音が訝しげに眉をひそめる。ママと同じ癖だ

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ありがとう、たくさん。

 私のキャリアにとって、結婚やら妊娠やら出産なんて、はっきり言って余計な回り道でしかないと思ってた。

* * *

 ルームシェアしていた郁生となんとなくそういう関係になって、妊娠が発覚したときには、しまった、としか思えず。やっぱりピルを飲んでおくべきだったと後悔しても遅かった。
 だけど郁生が泣きながら喜んで、すぐに籍入れようなんて言い出すから、堕ろしたいって言えなくなってしまった。本当は子ど

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真夜中に。

 真夜中に目が覚める。
 きみのことを考える。

 ちゃんと眠ってるかな。
 幸せな夢を見てるかな。
 ━━あたしこのまま、きみに恋をしていてもいいのかな。

 大好きで━━大好きで大好きで。
 ひたすらなこの大好きが、きみにはきっと届かないのも、解ってる。
 解ってるよ。
 けど、大好きなんだ。

 今夜もまた、目が覚めた。
 どうかきみが、温かなお布団と、幸せな夢に包まれていますように。
 き

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