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【放クラ・短編小説】俺は後で反省した

 サクマのドロップスを貰った。顔合わせをしたデザイナーからだ。最近は缶入りの菓子をノベルティにすることができるらしい。パッケージは贈り主のセンスを広告しつつ、中身は昔ながらの色とりどりだ。
 しかしこういった飴の類を俺は子供の頃から食い切った試しがないし、義務感で一日一粒くらい、三分もしゃぶっては口に飽きてがりがりと噛み砕く日々はやるせない。そこで俺はこの多色ドロップスを、それと似たような放課後の五人にくれることにした。

 事務所には彼女達のうち四人が居たが、その中で果穂は缶のドロップスを知らなかった。もう最近の小学生には骨董品なのかもしれない。他の三人はそれぞれの事情で知ってはいたが、樹里は実際に食べたことはないそうだ。俺は夏葉の分はとっておいて、五人で分けて食べなさいとからんからんさせて机に置いた。あと、絶対に爪で蓋を開けるな、指の肉でつまんで開けろと言いながら、缶の蓋をあえて浅く閉めた。怪我が恐いからだ。
 俺は次の打ち合わせがあったから四人と別れた。

 あたしは飴といえば、夏休みのラジオ体操の後に未来ちゃんのお父さんがくれた大玉を思い浮かべます。それは月の表面みたいにざらざらしたラムネ味で、しばらく口に含んでいると中心部から炭酸ジュースみたいなしゅわしゅわが飛び出す仕掛けになっていて、あたしは口の中がすーっとおいしくてあわんと笑いました。
 だからプロデューサーさんがくれた缶は、あたしにとって新しい出会いでした。からん、からんと振ると、神社でお参りした時と同じ音がします。かぽと蓋を開けたら、少しだけ果物の匂いがしました。
 智代子さんはお皿にあけようといって戸棚に向かいました。いつも智代子さんなんて呼ばないから、やっぱりちょこ先輩とします。ちょこ先輩はみずみずしい食べ物に気をつけています。いい写真を撮るためです。
 ドロップは甘いから、お茶をいれましょう、と、凛世さんははりきりました。あたしは凛世さんの淹れてくれるお茶が好きだから、嬉しかったです。
 樹里ちゃんはあたしに、どの色がいいか聞きました。あたしは樹里ちゃんだけ樹里ちゃんと呼んでいます。
 赤はイチゴ、黄色はパイン、透明はレモン、だいだいはオレンジ、ピンクはリンゴ、緑はメロン、青はスモモ、白はハッカ、ねえ樹里ちゃん、ハッカって何ですか?あー、すーすーするんだよたしかと樹里ちゃんは言いました。
 すーすーする飴と聞いて、あたしはがぜん興味が湧いてきました。ちょこ先輩が缶から飴をあけてくれました。お皿の上でどの色もみんなきらきら瞬きました。ハッカという飴の白さはあの日のおおきなおおきな雲と同じでした。夏葉さんにも見せてあげたいなと思った矢先、ちょこ先輩はさすがの手際で写真をぽんととってくれました。
 ちょこ先輩が夏葉さんに写真を送っている傍らで、あたしはもう白い粒をとってしまいました。そこに凛世さんが、ちょうどお茶を一式もってきてくれたところで、あっと言いましたけど、はやっているあたしはもうハッカ味を口に含んでしまいました。

 あたしはわあんと泣きました。

まんがを読んでくださいね。