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ブルーインパクト

あの日は唾を10ℓくらい飲んだ。

隣にいる彼女に悟られないように。


夢にまで見たBlue Note Tokyoに行った時の話。

予約を取った後と公演前日、家を出る前と会場に入る前の計4回予約が取れている事を確認した。

普段は専らクラシックジャズばかり聴いているので正直、最近の曲はまるで知らない。
つまりは知らないアーティストの公演に行った。

ああいう場所は敷居が高いイメージが強い為、正装というのがある程度あると思っていた。ホームページには正装はありませんと書いていて懐の広さを感じたけれど、私の気持ちの問題なので結局綺麗な洋服で身を包んだ。

会場に着くと早速席に案内された。普段は深く座る筈のソファーにも浅く背筋を伸ばしてしか座れなかった。1杯軽く2000円を超える飲み物達を頼んで今日は金額を見ないでおこうと予め決めておいた約束を彼女と再確認する。自分に言い聞かせる為に。

周囲の人達があまりにも軽装だった事に驚きつつ、公演開始までの約1時間は久保建英に張り合える程に周りをただただ見渡していた。

明らかに慣れている老夫婦、彼氏側が明らかジャズに興味無いカップル、品格高そうな家族、騒がしい成金、外国人と客層も様々だった。

公演時間になるとアーティスト達は私達の後方から続々と歩いてステージに上がった。会場の盛り上がりに必死に着いて行こうとしたが、私が目線を向けていたのは彼らが出てきたタイミングでトイレから帰ってきた客だった。あまりにも堂々と歩いているものだから完全にそっち側だと勘違いしてしまった。

ステージに上がったヴォーカルの白人が何か喋っているが、それが英語である事しか分からなかった。私の積もり積もった緊張をドラムの音が一瞬で溶かす。音楽が始まった。

金額に目をつぶって頼んだ食事達も届いたが正直味を覚えていない。普段はピアノやサックスが光る音楽を好む傾向がある私だが、あまりの格好良さでドラムとギターに目覚めてしまった。と言うより目覚めさせられた。

周りの歓声に乗っかりたいのに感動で声がなかなか出ない。あんまり仲良くない知り合いに会った時位の声量で"うぇい"しか言えなかった。

公演が終わって会計を済ます。月初めのクレジットカードを持っていたからか大してビビらなかった。

会場を出てもこの熱を冷ましたく無かった。すぐ電車に乗る気ににもなれず2、3時間ほど歩いて終電で帰った。

また一緒に行こうと誓いを立てながら。

次に伺うのはいつになるだろうか。楽しみで仕方が無い。あの青い衝撃をまた味わえるのだから。

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