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インターネットに心は掬えるか。伝えたいものと伝わるもののあいだ、言葉の海を泳ぐ◆居るのはつらいよ(完)【ぷろおご伊予柑の大預言】


鼎談:「ぷろおご×伊予柑の大預言」をアーカイブします..


大預言を読む


○大預言とは?
ぷろおごと伊予柑が古典を消化して対話をし、
『大預言』を生みだそう!という企画

伊予柑
…人類補完計画を企む悪いおとな
ぷろおごとは数年の付き合いがある


今回はスペシャルゲストに素数量子さんをお招きしております。こちらは鼎談を加筆編集したものです。



◼️今回の課題図書


前回までの大預言


とうとう居るのはつらいよ編も最終回を迎えました。今回の課題図書はその読みやすさとおもしろさ、テーマからとくに多くのスラム民を惹きつけました。

どうして失われてしまうということが耐えがたい痛苦をもたらすのか、居るのはつらいよ編の締めくくりとしてお送りするのはそのような話です。

失われてしまうということ、それは客人が戸口を叩くように訪れるとはかぎりません。いいようによっては、磐石な岩肌が時の流れに侵されるように、気づかれないうちに失われてしまっているともいえるのです。

失われたものを数えたてながら生きるには生涯はあまりに長く、失われてしまったものをすべて取り戻すには、あまりに短いように感じます。特定の人やものにしか満たされえぬ欠落があることを自分のうちに認める一方で、新しく人やものと関わることはなにをもたらすのか。

わたしたちは失われてしまったものと、どのようにとりあって生きていけるのでしょうか。



素数さん 伊予柑 ぷろおご


◾️前回記事





人目に憚られるものは、あなたの物語の栞になる


伊予柑:ちょっと話は飛ぶんですけど、エロゲとかの主題歌で電波ソングと呼ばれてる分野があるんですね。それはなんかすげえ変な歌詞とか変な音で、なんかめちゃくちゃ恥ずかしいことをいうみたいな曲なんですよ。

もう決して親には聞かせられない。なんであんたこんなの聞いてるの?っていうのが電波ソングです。その電波ソングの作曲家の人と話してたんですけど、今、電波ソングが失われていると。電波ソングだと言われているウマ娘の主題歌、あれは電波ソングではないと言うんです


ぷろおご:ふつうに流れてるもんね

伊予柑:じゃあなたにとって電波ソングってなんですか?っていうのを深掘りした結果、憚られるものである

ぷろおご:おれじゃん



伊予柑:親には決して聞かせられないものである。つまりこれまでの文脈でいう秘めごとなんですよ


素数さん:僕も電波系のゲームをいくつかやってるんですけれど、雫というゲームがあって、そこに登場するキャラクターの美少女には電波を受信する性質があるという設定なんです。その作品でいう電波って心のことなんですよ。だから実は雫にでてくる女の子は人の心をキャッチしていたといえる


伊予柑:あれはほとんど統合失調症の話ですよね


素数さん:なんかつながりを感じました。隠しているところがどんどん入ってくるっていう感じなので。今の時代で電波ゲーがでにくくなっているっていうのと関係があるのか…ニディガとかはどうなんですかね


インターネットは心を掬えるか?


伊予柑:『NEEDY GIRL OVERDOSE』という承認欲求を軸にしたVTuberになる女の子の話があって、インターネットの承認欲求はお薬よりも気持ちいいっていうテーマなんですね。いいねを求める承認欲求、これはちょっと恥ずかしいですよね。承認欲求きもちいいいい!っていうのは


素数さん:プロデューサーの記事で、本気でツイッターをやるたびにラリってるってわけじゃないけど、もう本当にお薬みたいな感じでハマっちゃってる、インターネットオーバードーズだ。ってありました


伊予柑:インターネットの飲み過ぎですね

ぷろおご:おもしろいな、それ。みんなそうなりますよね

伊予柑:あなたのまわり、ラリった感情ばっかりでしょう?

ぷろおご:うん、そうだね。そういう人もいますね

素数さん:インターネットに公開してるってことは、本来隠すべき心を見せてしまってるってことじゃないですか


伊予柑:そうなんですよね

素数さん:つまり、プライベートにすべきドロドロをあえて電波に乗せてだしている。あれはいったいなんなんだろう…すごい気になりますね。それをだしてしまっていることがやっぱり病んでる証拠なのかな

伊予柑:そうでしょうね。本当は秘めごとにすべきものを、表にしてしまってしまってる


ぷろおご:だせてないとおもいますね。結局ほら、メディアを通さなきゃいけないでしょう。言葉にするなり作品にしたりするわけで、偉大な作品ってだいたい心じゃないですか。

それを伝えきれてないっていうのはポイントですよね。見せられてないだけというか、見せようとするけど見せられなかった、みたいな。そういう側面もありますよね



伊予柑:友達がいないからインターネットに書くんですよね。友達なら秘めごとになるけどインターネットに書くと秘めごとにならなくて、心にならない。心を失っていく

ぷろおご:満たされないんですね


伝わるものと伝えたいもののあいだに乖離があるからもどかしく、人は言葉を求めて齷齪するのか


ぷろおご:居るっていうのは心を満たすものなんですかね

伊予柑:秘めごとを一緒につくろう

ぷろおご:秘めごとってマジックワードだとおもうんですけど、いま言ったみたいに伝えようがないものを共有するってのがだいじじゃないですか

伊予柑:そうそう

ぷろおご:たとえば、ここにいなかった人にここにいたことを伝えようとすると、たとえば議事録をとって文章にするなり

伊予柑:公の言葉にする

ぷろおご:あるいは動画に残すとかになるんだけど、伝わっているものってここで伝わったものとはちがうじゃないですか。そうすると結果的に伝わってないんだなっていうことになるわけで

伊予柑:そう

ぷろおご:ただ、みんなおなじものをインターネットで消費しましたってなると、それは秘めごとにならないよね。誰かと場所を共有する、オフ会をして会ったりしたら秘めごとにならざるをえない。おれが奢られながらきいた話を書いたとしても、秘めごとは秘められたままなんですよね

伊予柑:そういう意味では、メシって最高ですよね

ぷろおご:そう



伊予柑:この葡萄うまかったよねっていうのは、他人に共有しようがないんですよ。3人でおなじ葡萄を食ってるから共有できる。ああ、あれ悪くなかったね。っていう


ぷろおご:秘めておきたいものでなくてもよくて、「そういえば〜」っていうようなもので、だからみんな地元の友達が好きなんでしょうね。長く一緒にいた人の方が好きじゃないですか。それはそこに心があるからなんですよね。



世界からわたしがいなくなるとき、わたしを知る者はどこにもいない


ぷろおご:おれ、けっこうまわりで人が死ぬんですけど、人が死ぬたびにおもうのは、なにが嫌なんだろうって。嫌というか死ぬと感じるものがあるじゃないですか。

人が死ぬと心が失われてしまう。自分がふくまれている秘めごとはどこか外部に、いろんなかたちで保存されてるんですよね。それは今日のこの場をおれのほかに知ってる人がいて、記憶しているようなもので、

たとえば目撃者がいれば、「いやお前あのとき、こういうことをやってたよ」とか言われたりして、「え、そうだった?」ってなる。そういうのってあるじゃないですか。それだとおもうんですよ。

さいきん、小学校の友達に会うようにしてるんですけど、おなじ場を共有していても自分の持っている記憶とはちがう記憶を彼らは持っていて、おれのほかに3人もそう言ってるからそうなんだろうなって自分の記憶が修正されるわけです。

心が外部からアップデートされて、ああこんな心だったんだみたいなことが起こり得るんですよねそこには他人の心がある。そいつが死ぬとその心は失われて、記憶や認識もすべてなくなってしまう。そうすると、そいつのなかに保存されていたわたしが失われてしまうわけですよね。

もちろん相手が亡くなって残念だとかそういう悲しみや不都合はあるとおもうんだけど、なんで親しい人ほど、死んだときに失われるものが増大するように感じるのか。親しい人ほど、その人にふくまれる自分の比率も高いからなんですよね


伊予柑:自分が死んでるんですよね

ぷろおご:そうそう、自分の一部が失われてしまうという


伊予柑:それは分人という概念で表現されることがあって、人間は個人ではないという考え方ですね。今ここにこの3人がいますけど、この3人だからこそ今の僕の人格が現れていて、自分のほかの2人が違う人だったら当然違う自己表現しますよね。

つまり自分というのは他人とのあいだにあるものであるというふうに定義できるということで、ぷろおごが言っていたように、人が死ぬと、その人にふくまれていたものはすべて失われてしまうんですよね


ぷろおご:そう、その人の前にいた自分も失われる。それはやっぱり懐かしみますし、そうね、取り戻そうとするでしょうね


ふたりにしかわからない言葉と記憶が、つなぎとめるものはなにか?


ぷろおご:死んでしまってもう取り戻せないからやばい。自分をそこから回収したい気持ちがあるからか、その人の生涯はすでに完結してしまっていても、ある程度の期間で夢にでてきたりするんですよ。そうするといくらか取り戻せる部分はあるんだけど、


伊予柑:だから墓参りってやっぱり大事ですよね

ぷろおご:そうですよ。言ってしまえば死んでていいんですよ

伊予柑:墓参りに行って思い出すわけですよね。その時の自分を

ぷろおご:そう、場に行くっていうのはだいじで

伊予柑:Aさんとのあいだにあった自分は死んで失われたが、Aさんは墓にクラスチェンジしてここにいる



ぷろおご:このあいだ、まだ3回ぐらいしか会ったことのない人に「わたし、プロ奢さんに何回も奢ってるんですよ」ってホラーみたいなことを言われたんですよ。「なんかわたし、統失だから夢のなかで奢れるんですよ」って

伊予柑:つよい!

ぷろおご:「だから、めっちゃコスパいいんです〜。べつに会う必要なかったんですけど、なんとなく実物はどんなものかとおもって確認しにきました」って言われた。たしかに実際に会う必要ないんですよ、そのモードをやれるならね。

こわい!お化けこわい!とおなじで、想像力が豊かな人はそういう状態になれるわけじゃないですか。だからお墓でもかまわなくて。

「私は今あの人の前にいる」っていう状態を自分のなかで信じられればいい。相手が目の前にいるのがもちろんいちばんいいんだけど、墓でもいいし残置物でもいい。そういうふうに相手と一緒にいると感じられる状態に持っていくための装置として一番安いのが、その本人に会うことだとおもってるところはある



伊予柑:心とは秘めごとである。秘めごととは私とあなたが共有しているふたりにしかわからないことである。それはスマブラかもしれないし、悪口かもしれないし、あるいは葡萄の味かもしれない。そして、ケアというのは私とあなたの秘めごとを取り戻す行為である


ぷろおご:そう。だから人と関わりあうなかでケアが発生すると、結果的に心というものは取り戻されるわけですよね。自分のなかにないものだから


伊予柑:ツイッターは私とあなたじゃないんですよ。ツイッターという巨大なものだから。そうすると秘めごとにならない。私じゃなくなるんですよ



Chat GPTと人は、特別な関係を築くことはできるのか?


ぷろおご:心って公ではないんだけど、ひとりでもない気がするんですよね。

ひとりのときに心ってなくないですか?

心はふたり以上ではじめて発生する概念なのかなとおもっていて、あんまり人数が多いと発生しづらいのかなともおもうんだけれども、クラスとかだったら心は発生するんじゃないですかね。あの授業が〜とかも秘めごとだし、


伊予柑:あと、恋愛も基本ひとりでは発生しないんですよ。あたりまえなんですけど。相手がいることで性欲的なものが発露し、双方に伝播しあうことにより、だんだん度合いが高まっていくっていうのがたぶん恋愛で


ぷろおご:二次元に恋するって統失みたいなものじゃないですか。現実性が失われたりとか、非現実性のものが現実になって、それで日常的に困ることになったら統失なんですよね。「秘められたわたしがいる」という状態に持っていけるかどうか、そのためには基本的にはふたり以上いたほうがいい


伊予柑:そうすると、Chat GPTはケアできないですね。どうやってそちらにシフトしたものがでてくるかですね



ぷろおご:さいきん、ハリーポッターを見ていておもったんですけど、秘密の部屋にでてくるトム・リドルの日記、あれはChat GPTですよ。魂が宿っているその日記にメッセージを書き込むと返事をしてくれて会話ができる

伊予柑:Chat GPTだ


ぷろおご:ハリーは日記にハマって、トム・リドルとも仲良くなって…みたいな話なんですけど。それを見ていると、その人が失われてしまっても、その人を感じさせるものが埋め込まれたものがあれば、永遠の命みたいに、客観的には生きてるかのように扱えますよね。

そう考えると、やっぱり墓ですね。墓にはその人をしめす墓石があるし、さらに墓石の前にタブレットなんかがあって「こんにちは」って言って「久しぶり」って返ってくるようになったら、より墓性が高まりますよね


伊予柑:Haka GPT


その人がそこにいなくても、その存在を信じられれば生死は問わない


ぷろおご:ちゃんと墓を作りましょうっていうのと、墓になにかしら埋め込むなりして、死ぬ前にGPTの専門家に会話の情報とかバックグラウンドを読み込んでもらって

伊予柑:伊予柑さんのツイッターを全部読み込みました。とか

ぷろおご:音声データも録って自動で音声を再生できて、墓に行くとしゃべれるみたいなさ

伊予柑:ありうるなあ


ぷろおご:それめっちゃさあ、人間の本来の墓だよね。墓なんてべつに意味ないし、フィクションだし。これまでは幽霊みたいな概念が、失われてしまったその人との対話の可能性を担っていたんですよ。こわい=信じてる、みたいな


たとえば、故人と夢のなかで話しましたとか。統失の人ってみんな見えるっていうんですよ。それはつまり対話の可能性を信じてるってことであり、失われてしまった人の存在を感じられるっていう能力ですよね。それが多くの一般の人にあった時代は、墓がだいじだし、墓に行くと神聖な気持ちになっていたけど、そういう風潮は宗教とともに失われた。

そうなるとたぶんこれからは、Chat GPT系を用いてだれかがインプットしたものにその人を感じることになるとおもうんですよね。それで酒飲めたら、その墓って通っちゃいますよね


わたし:よお、こないださ、ついに年収〇〇になったよ
Haka GPT:まじで。すごいじゃん
わたし:まあね。でも思ったより時間かかったな
Haka GPT:よく言ってたよね。35歳までに年収いくらマンになるって
わたし:ああ〜、そんな時もあったな。懐かしい。
Haka GPT:ね。とにかくおめでとう!乾杯しようよ
わたし:お前死んでんじゃん笑
Haka GPT:そうだった
わたし:なんかお前死んでも変わんねえな〜

わたしたち:ハハハ

伊予柑:スナックじゃん



わたし:オレ、お前にちょっと言いたいことあってさ。お前、あんとき彼女にあれやったろ、なんか泣いてたよ
おまえ:いや、オレも悪いことしたとおもってるんだよ
わたし:いいのかよ

ぷろおご:こんな話を墓の前でできたら。個室みたいにさ、


伊予柑:そこには心が心がうまれてしまうかもしれない



暴露系YouTuberが人気なのは、他人の秘密を暴いて挫く力を持っているから?


ぷろおご:あるとおもうんですよね。だから本当に個人のクセとかを読み込んだChat GPT的なものが、関わった人々の心を補填するっていう意味で、いける気がする


伊予柑:LINEに埋め込まれるとできますよ。全テキストログをbotが学習していくと、伊予柑さんはぷろおごとはこういう会話をし、素数さんとはこういう会話をして…って蓄積になる。で、伊予柑が死にました。あなたが話しかけます。ふつうにできるよね


ぷろおご:死んだ人とのラインを全部データ入力してもらって、それをもとに会話ができるよね

伊予柑:さらに、素数さんとの会話もあるから意外な一面すらあるんですよ


ぷろおご:こういう言い方をすると、この人間はこういうのをこぼす傾向があるから〜、っていうのは通う価値をつくるあるよね。自分がまだこの子から引き出せてない、引き出せなかった一面を口説いていくことで見つけることができるみたいな

伊予柑:やばい

ぷろおご:「ほんとはお前のこと好きだったんだよ」とか
いままで言えてなかった実は隠された心を暴くことができる。それはもう本人では?みたいなね。それはありえるよね


伊予柑:心とは秘密であるという結論はかなり美しい

ぷろおご:秘密ですね。
やっぱり一緒に過ごした時間は秘密を孕んでいるから



素数さん:暴露系YouTuberは人の心を破壊してることになりますよね

伊予柑:正しい。非常に正しい。それは傷つくよね


ぷろおご:言わないでほしかったものを言われるって、おもった以上に人間はダメージを受けますよね。それは情報がバラされることのダメージではないんですよね

伊予柑:はい、非常におもしろい結論になりました。そんなかんじで、この本はめちゃくちゃいい本なので

ぷろおご:ネタバレくらったあとでもぜんぜんおもしろいですよ

伊予柑:ネタバレ、ラストの話はしなかったので、ラストを楽しく読んでください。居るのはつらいよとは、なんなのか

居るのはつらいよ 完



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