どんな印象ですか?『君たちはどう生きるか』をめぐって。◆ネタバレ『君たちはどう生きるか』
対談:ぷろおご伊予柑の大預言のアーカイブをしています
大預言を読む
こちらは動画;ぷろおご伊予柑の大預言を加筆編集したものです。
『君たちはどう生きるか』
今回は映画『君たちはどう生きるか』のネタバレを含みます。
予めご了承ください。
消費された映画はどこへいった・・?
伊予柑:今回はネタバレ。君たちはどう生きるか、駿の映画だよ
ぷろおご:いえあ
伊予柑:見たんですか?
ぷろおご:見ました
伊予柑:そもそもジブリの映画はどれほど、ご覧になってます?
ぷろおご:ジブリは観てたんですけど、観てないというか。おれって、発達障害じゃないですか。だから、なにもわからないままただ100回見る、みたいな。わかります?観てたのに覚えてないんですよ。内容はわかんないんだけど、セリフとかだけ覚えてる。音楽をたのしむタイプのキッズだったから。
たぶん観てるんですけど、なんにも覚えてない。トトロとかも、たぶんすごい観てるのにトトロがでてくるシーンは覚えてない。なにも受け取らない。ジブリのいちばん正しい消費の仕方をたぶんしていて、
伊予柑:そうですね
ぷろおご:いい映画ってそうじゃないですか。子どもがぼーっと観て、おもしろい、っておもえる。かつ大人が見ても、ああ考えさせられるな、って。
ぷろおご:ジブリだと10作品とかは観てるんじゃないですか
伊予柑:そのなかで好きランキング上位のものは?
ぷろおご:映像としてでてくるのはトトロですかね、ネコバスとか。もののけ姫とか、ほかのもたぶん観てるんだけど、全部なにもわからないぐらいのかんじだった。こわいジブリとやさしいジブリみたいなそれぐらいの解像度で。だからちゃんと大人になってから観たのは、『君たちはどう生きるか』がはじめてかもしれない。
DVDは一回借りたことある。ジブリってサブスクにないじゃないですか。おれも一回はジブリ観なきゃなとおもって借りたんだけど、DVDを観る習慣がなくて、そのまま返すという…
そうね。やはり、ちゃんと大人になってから観たのははじめてかもしれない
言葉にできない感想を他者と共有するにはどうすればよいか
伊予柑:どうでしたか?
ぷろおご:おれはすごいよかった、うん
伊予柑:どんなところが?
ぷろおご:なんかね、感想を言いたくない映画だなとおもいました
伊予柑:わかります
ぷろおご:そういう気持ちにさせられる映画
伊予柑:めずらしいですよね
ぷろおご:おれは映画にかぎらず、ほんとうに気持ちのいい思いをしたときは誰にも言いたくないんですよ。なんていうのかな、売りたくないというか。もちろんそれを誰かに美味しく消費してもらえるんだったらいいんだけど、まだおれには手に負えないなっておもえるよさっていうのがあるじゃないですか。
漁師でいうと、いつもだしてるマグロが釣れたら、それはいつも通りだすし、いつも通り捌くんだけど、なんか今日はえらいの釣れちゃったなっていうときはとりあえず見る、みたいな。こころがまえをするというか
伊予柑:お客さんは舌が肥えてないとわからないですよね
ぷろおご:そうなのよ。これをおれはポップにできるかっていったときに、いまのおれにはむりだから置いとこう。もしかしたら5年後にくるかもしれないなあ、みたいな
伊予柑:シン・エヴァと比べてどうですか?
ぷろおご:シン・エヴァは、エヴァンゲリヲンっていう文脈がある。エヴァンゲリヲン自体がポップじゃないですか。アニメとかも含めてね。だから、その文脈でしゃべることはできるけど、たぶん、いちばんシン・エヴァっぽくて、どうしても観たくなるところとかはしゃべりたくないんですよ。
庵野さんが卒業されてよかったねえとか、エヴァンゲリヲンの文脈における、わかりやすくてポップなところはもちろん共有できるけど、ジブリは1本の作品で、それぞれが独立しているから隠せないじゃないですか。だから、ただ黙ることになる。コミュニケーションが不可能になる、ひどい映画だった。
現代に求められているコミュニケーションとしての映画の機能は損なわれていて、美術品だった。美術展にいった後はつまらなかった人もたのしんだ人もみんな黙ってますよね。それとおなじで、美術館のオープンスペースって静かじゃん
伊予柑:宮崎駿がドーンとでてきて、「君はどう生きる?」って説教してくれる映画かと思ったら、そうじゃなかった。っていう感想をツイッターで見たんですけど、むしろそういう映画では?っていう
ぷろおご:わからなかったんだろうね、説教ではなかったから
伊予柑:あれは駿との対話では?
ぷろおご:すごい濃度でしたけどね。そのものみたいな。映画を観にきたのに映画になるものを観せられた。これがこれから映画になるんだ・・って
ぷろおご:駿がやってきて、これから映画をつくるんだが、ちょっとこれをみてほしいって言ったみたいに。体験としてすごいよかったですよね。映画としてどうかって言われたらちょっとむずかしいけど、作品とかジブリとか観る人にとってはすごいよかった。少なくともまったく損をしてない
伊予柑:あれを宣伝なしで公開するときめたやつはすごい
ぷろおご:予算がなかったのでは?みたいなコメントも見ましたけど
伊予柑:そんなことはない。まったくない
ぷろおご:結局戻りがあるからね
口を閉じれば主人公になれる?!
ぷろおご:前回の対談のテーマが父性だったと思うんですけど、『君たちは、どう生きるか』を父性というテーマでみると、どういう文脈になるんですか?
伊予柑:俺はジブリをだいたい観ていて、もののけ姫とかがとくに好きなんですけど、今回のは、「男の子」をちゃんとやったなっていうイメージなんです
ぷろおご:主人公とお父さんと概念おじいちゃんですかね
伊予柑:そうです
伊予柑:お父さんの態度がでかいところとか、めっちゃイラッとくるじゃないですか
ぷろおご:イラッと?
伊予柑:小学校に車で乗りつけたり、子どもからしたら、こんなのやらなくていいのに、ってなるじゃないですか。オレ、目立っちゃうじゃん、みたいな
ぷろおご:オレが倒してやるからなあ、とかね
伊予柑:そう。「100円払ったから」とか。あれを木村拓哉、いかにもチンコがでかい男に言われると、オレ、そうじゃないんだけど、って微妙な気持ちになる
伊予柑:あとあの映画の主人公は、全然自分の気持ちを説明しないんですよ。やるって言われたらただやる、みたいな
ぷろおご:ある種、すごく記号的な主人公ですよね
伊予柑:実は日本の少年マンガってそういう主人公がほとんどで、ルフィも何を考えてるのかわからないですよね
ぷろおご:心理描写をしていないって言いますもんね
伊予柑:そう。悟空も何考えてるのかわからない。なんか戦ってる
ぷろおご:体が強いアスペがね
伊予柑:だからアメリカのスパイダーマンとか見ると、お前、やたらしゃべるなあ…ってなる
ぷろおご:アメリカの正義は語りますよね
伊予柑:ね。なぜこうなんだ、とかちゃんと語るんですよ、アメリカって
ぷろおご:たしかに
伊予柑:日本は全然語らない
ぷろおご:無口が多いね
伊予柑:そういう、日本型の主人公だなと思いましたね
ぷろおご:最近の主人公は口がうるせえですからね。饒舌なやつが多い
伊予柑:チェンソーマンはあんまりしゃべらないですね
ぷろおご:たしかに、ルフィっぽいですね
感情移入するためには、現実的で身近な設定が必要か
伊予柑:あと主人公がけっこうえっちなんですよ。わりとまじで。なぜか知らんけど、着替えシーンが2回ぐらいあるの。冒頭、火事のお母ちゃんのところに行くときとか、なぜか丁寧な着替えのシーンがあって、こんなの要らんやろ、なんで?って。着替えのシーンが2回ぐらい差し込んであって、男性を性的に描いていると感じた
ぷろおご:なるほどね、おもしろい
伊予柑:今までそんなことなかったのに、という
ぷろおご:ジブリにとっては非常にめずらしいシーンなんだ
伊予柑:そう、めずらしい。今までは女の子の主人公が多かった。サツキとメイにしろナウシカとかシータとか
ぷろおご:たしかに。女の子が多いイメージがあるね
伊予柑:これまでは女の子が代弁して語っていたのに、ついに男にちゃんと語らせたな、と思った
ぷろおご:ジブリで男が主人公の作品ってほかになにがあるんですか?
伊予柑:もののけ姫とかポニョとか。ポニョも一応男だけどあれは性別以前の年齢で、あとは風立ちぬ、紅の豚とか。男の子が映画を見ていて素直に感情移入できる主人公というと、ラピュタのパズーとかかな。あそこからけっこうとんでいる印象があります。
もののけ姫の主人公のアシタカは村の勇者なので、感情移入できない。今回は明らかに主人公に感情移入しやすい設定だった。突然田舎に行かなきゃいけない、お父さんが母親の妹を孕ませていた、なんだこれ・・っていうところでおばあちゃんに囲まれて、どうやって生きていけばいいんだ・・・みたいな。そのうえ、めちゃくちゃこわいサギがくる・・・
ぷろおご:冒頭からね
伊予柑:だから男の子をちゃんと描いたな、という感想がありますね
ぷろおご:非常にジブリの文脈がある人の見方ですね。おれはあんまりそういうのがなかった。なるほど、ジブリがああいうものを描いているというところに意味があるんだ。おもしろいな
演出・効果の良し悪しは観客とキャラクターの距離がきめる
伊予柑:サギこわくないですか?
ぷろおご:こわい?なにか不可解なものでしたね
伊予柑:どう見えました?
ぷろおご:サギねえ・・
伊予柑:変なキャラじゃん、最初めっちゃサギだったのに、突然笑って肉がギョ〜っとでて、最終的におっさんじゃん。なんだこれ?って
ぷろおご:おれ多分、めっちゃかわいいなとおもって見てた。愛嬌がある
伊予柑:ありましたけど、
ぷろおご:なんていうんだろう、デフォルメされたものって、デフォルメされたものだ〜ってなっちゃうけど、かわいらしさがあった。なんか見ちゃってたね。なにを?ってきかれたらわからないけど。あの映画でかわいらしいのはサギぐらい
伊予柑:ペリカンとかインコとか全部キモかったですもんね
ぷろおご:アオサギとなんかふわふわしたかわいいやつ、食べられるやつはかわいかったなとおもったけど、こわいっていうのはどういう文脈なんですか?たんに見た目が?
伊予柑:ひとりで田舎の家に行って、アオサギが屋根の上にいて、ギシギシって足音をたてる瞬間がめっちゃこわかったんですよ。嫌だな・・・って感じがすごいした
ぷろおご:不穏な、
伊予柑:そう、不穏な
ぷろおご:おもしろいなあ、おれはすごい全体的にかわいいなあって。窓をトントンってやったのもかわいい
同質的な集団のなかに、おもに身を置いていると、異質なものによって脅かされやすい
ぷろおご:ああいう不気味さ、一般的に不気味といわれているものはなんの表現なんですかね
伊予柑:それこそ知らない人の家に泊まって、家が古くてギシギシと風に揺られて音を立てているみたいなものに近い
ぷろおご:まあ、知らない家に引っ越してきたばっかですもんね
伊予柑:それはトトロとシチュエーションが近いんだけど、トトロはそんなに家がこわくないの
ぷろおご:作品はメタファーじゃないですか。自分のなかにあるものが映画にあるメタファーに投影される。こわさっていうのは理解できないもの、体験してないものの象徴ですよね。
おれはどっちかっていうと、駿の生きてた時代に近い環境で育ったんですけど、おれのなかで、アオサギの感触っていうのは家に知らないおじさんがいるときのかんじとおなじなんですよ
伊予柑:なるほど
ぷろおご:それはね、どっちかっていうと「かわいい」なんですよ。結局ほら、家族の知り合いだから、悪い人がいるわけじゃないじゃん。侵入者でもない。だからこわくないんですよ、知らないけどきっといい人だし、家まで呼んでるんだからおもしろい人なんだろうな、ってなる
伊予柑:おじさんの親戚みたいななにかですよね
ネットワークが日常への闖入者の安全性を保証する
ぷろおご:おれのなかで、今はっきりしたんだけど、家に知らない人がいる、なんか不思議なことを言う人が居る日っていうのは、「変化が生まれてワクワクする日」なんですよ。要は外圧ですね。日常への安全な侵入者。それで、ちょっと悪いこと教えてくれたりするんですよ。これ行ってこいよ、とか、ここに行ったらお小遣いくれるよ、とかね。監督にとっては余計なことを吹き込みやがって、というかんじなんだけどね
伊予柑:そして、最後に「オレたち友達」みたいなことを言って居なくなる
ぷろおご:そう。それで次いつ会えるのかはわからない
伊予柑:なるほどね、
ぷろおご:おれはそういう文脈でかわいいっていうかちょっとワクワクする
伊予柑:親戚のよくわからないおじさん
ぷろおご:あの変な人今日いるんだ、みたいなかんじ。主人公が無機質だからそういうふうに描写はされてないけど、おれはそういうキャラクターとしてアオサギを見ちゃうんですよ。異物ではあるんだけど、それを受け入れている。なんかおるなあ、倒しに行くか、って。
おれがスマブラしに行くときと似てる。おれの実家は従兄弟が上に住んでいて、従兄弟の友達の高校生とかが64のスマブラをベッドの上でやってるんですよ。それをいかに倒すかみたいなもので。遊戯王とかやってたら、「あいつ見てたらああいうデッキ使ってるから、あれを作ってギャフンと言わしてやろう」とか、そういうのに似てる。弓をつくって外へ持っていくときのシーンとかとくにね
伊予柑:それでそのあと仲良くなる
ぷろおご:そうそう、それもなんとなくわかってるんですよね。だからそういうふうに観ちゃった。主人公は、無機質的のまま物語は進んでるじゃないですか。それがあたりまえだし、止められているから止まっているけどべつにこわくないよ、みたいな。葛藤するシーンもない。おれのなかではそういうところが投影されている
境界とその往来を描写すると、性的な表現になりやすい?!
伊予柑:アオサギと主人公がケンカして仲良くなったのってすごい古典的な男の子感ありますよね
ぷろおご:ね。まあ、ケンカっていっても儀式的じゃないですか。直接的になにかされたんでしたっけ?
伊予柑:窓から脅されたぐらい
ぷろおご:おれはけっこうアオサギをかわいいとおもって観ていたから、アオサギというキャラクターの捉え方というか、メタファーとしてのアオサギへの印象が一般の層とは少しずれているんだとおもいますけど
伊予柑:あれは見る人によってかなり景色が異なる、万華鏡のような映画なので、だいたい自分型になる。でもね、一個だけ。母がえろいっていうのはけっこうみんなが言ってるんですよ。ジブリのなかでもめずらしく性を真正面に描いていて。
つまりお父ちゃんが夏子さんを孕ませたのは明確ですよね。夜中にお父ちゃんが帰ってきて、夏子さんといちゃついてるシーンもあったり、ジブリなのに性的なニュアンスがある
ぷろおご:現実的なんだ
伊予柑:そういうののはけっこう話題にはなっていた。82のじいちゃんがこれを描くのか・・・みたいな
ぷろおご:おれは全然なかったな。あの映画にエロスみたいなものは見られなかった。おれの体験としてはもっと無垢なものだった
伊予柑:カエルがめちゃめちゃ集まってくるとかは性的
ぷろおご:ああ、なるほどね
伊予柑:描写がちょっとねっとりしてるんですよ。なんかえっちだなあ、って
ぷろおご:最初のシーンから身体感覚はありましたね
伊予柑:炎のなかに行くシーンとか。あの映画ってすごい主観的なんですよね。いやあもう一回ぐらい見たいなあと思いながら
ぷろおご:そうですね、時間をあけてね、忘れたころに見るとたのしいかもしれない
伊予柑:まあそんな感じで『君たちはどう生きるのか』みなさんも自分の感想を大事にしてみてください
次回、インスタ攻略
この対談を動画で見る、対談について語り合うには「ぷろおごマガジン」の購読が必要です。マガジン購読後、slackコミュニティ「三ツ星スラム」に入ることで最新情報や、記事についての議論を読むことができます。
◾️「三つ星スラムの」入口はこちら
この記事が参加している募集
こちらのアカウントへのサポートは、スラム編集部への支援となります。よろしければ感想やご要望なども頂けると嬉しいです!