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【歴史に学ぶエネルギー】30.ニュー・パーレビの誕生

こんにちは。エネルギー・文化研究所の前田章雄です。
「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えています。イギリスはイランの石油利権を独占していましたが、政治的な失敗によって、その権利を失います。その一瞬の隙につけこんだのが、アメリカでした。
 

1)パーレビの変貌

のちのイラン革命で失脚したイランのパーレビ国王の本名は、モハンムド・レザー・シャー・パフラヴィーです。長い名前なので、日本で一般的に呼ばれているパーレビで統一することにします。
パーレビは、軍人だった父のもとで双子の妹アシュラフとともにテヘランで生まれました。やがて父が皇帝に即位し、皇太子となったパーレビは上流階級の子弟が通うスイスの寄宿学校ル・ロゼへ留学します。そこで英語や仏語が堪能になるとともに、多くの欧米人と友好関係を結ぶ親米派でもありました。
先代の皇帝レザー・シャー(息子と同名)の退位により即位したパーレビは、白色革命を推してイランの近代化を進めます。彼はのちのイラン革命により失脚し亡命しますが、現在のイランの反米感情はこの時代の反動だともいわれています。
 
じつは、若き日のパーレビは崇拝するアメリカの言いなりでした。おとなしくて前面にでることもありません。
そのお飾り同然だったパーレビが、いきなり豹変したのです。この豹変劇は、アメリカCIAによる教育の賜物でした。
「国王自らが強力な指導力を発揮しなければ、いつまた暴動が起きるかわからないぞ。アメリカがバックについているから安心しろ」
パーレビの教育には、男勝りの性格ともいわれたアシュラフ王女も一翼を担っていたに違いありません。
アメリカのCIAが動きはじめたと知ったモサデグは、強行突破を図ります。イラン議会の廃止を宣言したのです。そして、より強力な権力が必要であることを民衆に訴えます。
ここで突然、パーレビがアクションを起こすのです。イランの法律では、議会廃止の権限はモサデグ首相にはありません。パーレビは国王権限でモサデグを罷免します。もちろん、黙って従うモサデグではありません。テヘランはモサデグが率いる暴徒に占領されます。
ここで、CIAによるアジャックス作戦が始動します。当時のイランは、デモや暴動はカネさえ出せば買えたのです。モサデグとアメリカ政府、どちらが勝つかは明白です。
 
モサデグを罷免したパーレビには、以前の気弱な国王のイメージはなくなっていました。生まれ変わったニュー・パーレビは宣言します。
「石油はイランのものである。以後、どこの国にも石油の独占コントロールはさせない」
かつてモサデグが叫び続けたことを、今度はパーレビが口にしたのです。これでアングロ・イラニアン社の過去10年にわたる独占支配も、すべて吹っ飛んでしまいました。

 2)イランにも食い込んだアメリカ

一連の事件でほくそえんだのは、アメリカです。
これまでイギリスが独占していたイランに、はいり込む隙ができたわけです。長年にわたって気弱な国王を裏で支援し続けた成果でした。
 
イギリスにとって、もはや選択の余地はどこにもありませんでした。
アメリカにより、すぐさま国際企業連合体インターナショナル・コンソーシアムが提唱されました。利権オーナーのイラン国営会社が石油収益の50パーセントをとることになり、残りが米英仏蘭の企業によって振り分けられたのです。これによりイランのオーナーシップは確実なものとなって、イギリスをはじめとしたどの国も独占的なコントロールは不可能となりました。
ちなみに、この転覆劇で一番の功労者はCIAのエージェントとして動いたカーミット・ルーズベルトという男でした。モサデグが起こした暴動の際にイランに潜入した彼は、イラン人のなかからレスラーやボディビル選手、体操選手など体格がよい男たちに多額のおカネを支払ってかき集め、「パーレビ!」と叫ぶ行進を成功させています。この行進にテヘランの人々が集まって、熱狂的な転覆劇へと拡大したのです。この事件のすぐあと、彼はガルフに入社して数年のうちに副社長に昇格しています。
コンソーシアムが成立した1954年、英アングロ・イラニアン社はその名をブリティッシュ・ペトロリアム(通称BP)と改名します。
 
今回のコンソーシアムによって最大の恩恵を受けたのは、もちろんアメリカです。赤線協定に続いてイラク、アラビア半島、そしてイランの大油田地帯すべてに手を広げることができたのです。
同時に、中東に対するアメリカの責任も倍増することになります。その責任の重さを20年後のキッシンジャーが痛切に感じることになるのですが、その物語はまだ先のことです。
 
 
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。


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