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【歴史に学ぶエネルギー】26.ロシアから石油を輸入していた?

こんにちは。エネルギー・文化研究所の前田章雄です。
「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えています。じつは、日本がロシアから石油の供給を受けていた時期があります。しかし、その後は巧妙な手口で供給停止に追い込まれてしまいました。現代でも繰り返されるかもしれない、忘れてはいけないできごととしてチェックしておきたいと思います。
 

1)サハリンの石油

戦時中の日本が、ロシアから石油供給を受けていた事実に目をむけてみましょう。
サハリン島にガス油田があることは、現代の私たちも知っています。天然ガスについては、現在の日本もロシアからの供給を受けています。
このガス油田の存在をはじめて知ったのは、日露戦争で樺太全島を占領した日本軍でした。ロシア革命の直後だったソビエト連邦は経済的に困窮する状況だったため、自前で石油開発をおこなう余力はなく、かといって武力で日本占領軍を撤兵させることもできませんでした。
 
そこで、日本とソ連の間で石油資源に関するある条約を締結することになりました。99年間の独占的利権を日本が得て、産油量のわずか5パーセントをソ連が受領するという、日本にかなり有利な条件でした。それほど当時のソ連は困窮していたというわけです。
背景にどのような理由があったとしても、日本がはじめて自らの力でもって海外で開発・生産した「日の丸油田」となったのです。一般的には、アラビア石油の山下太郎が成功させたカフジ油田が初めての日の丸油田だといわれていますが、それに先立つこと34年も前に成功させていたのです。
そうして日本に搬出されるようになった北樺太産原油は、日本の軍事や産業を支える重要なものとなっていきます。一時は、日本の石油消費量の5パーセントをまかっていました。
 
しかし、日本の生産が軌道に乗りはじめると、ソ連は日本排除に動きだしたのです。ロシア革命の混乱から抜け出したソ連は、ソ連労働者の労働条件の改善を掲げて、ほぼ言いがかりに近いような妨害工作までおこなわれました。
日本から派遣されていた技術者たちはソ連の非道な扱いに耐え忍ぶも、ある外交の一幕で彼らの努力が水泡に帰すことになります。それは、日ソ中立条約です。満州を欲していた日本にとって、ソ連との中立条約は必要不可欠なものでした。しかしその内容は、巧妙に偽装されていました。
条約によれば、鉱区を碁盤目に区切り、日本とソ連が平等に掘削すると定められていたのです。すると、日本が成功した鉱区の隣でソ連が掘削をします。このような後出しジャンケンであれば、確実に石油が出てきます。もちろん、日本が失敗した鉱区の周辺では絶対に掘削しません。
一見すると平等と思える契約によって、掘削の現場では不平等そのものの仕打ちを受けていたわけです。
 
かくて、北樺太における日本の利権も命運がつき、タダ同然でソ連に譲渡することになりました。石油に瀕していた日本にとって、明らかに外交の失敗でした。戦争中の1944年、ここに日本の北樺太油田は終焉を迎えたのです。
 

2)日本とロシアの問題

もちろん、平和のための条約であれば、石油利権を手放すことも許されるでしょう。しかし、歴史の結果として日ソ中立条約は反故にされ、のちに日本は北方領土を侵略されています。
日本が無条件降伏を呑むことを内外に宣言した8月15日の玉音放送のあと、ソ連はアメリカと交わした密約にのっとって北方四島に攻め込みます。日本からすれば条約を反故にした侵略そのものと受けとられていますが、ロシア側の言い分では「日本がドイツと手を組んだ時点で、日本が日ソ中立条約を破った」ことになっています。
また、8月15日は日本が敗戦を認めただけで、国際法的にはポツダム宣言を受諾調印した9月2日が本当の終戦とされています。そのため8月15日以降の侵攻は、人道的な問題はともかくとして、法的には日本の言い分はとても弱い状況です。
一方で、日本側の記録では9月3日以降もソ連が侵攻してきています。日本はここを強く主張していますが、ソ連側の公式記録では9月2日までにすべての侵攻が終了したことになっています。
つまり、ソ連としては「北方領土は合法的にソ連の領地となっている」というわけなので、いつまでたっても平行線が歩み寄ることがありません。
ここで互いの正当性を議論するつもりはありませんが、その地に暮らしていた日本人が追い出された歴史があり、今まさにその地で暮らしているロシア人たちがいるという現実があります。パレスチナ紛争のように、先の読めない問題を日本も抱えています。
 
近年、サハリン1の天然ガス開発においても、日本の技術や資金によって開発が進んだとたん、環境問題を盾に利権をロシア企業に戻すよう一方的な勧告をされました。ロシアが契約を無視して一方的に無茶難題を吹っかけて収奪した論調のニュースが飛び交いました。
しかし、実情はまったく違っています。共同出資者だったアメリカ企業2社が撤退したため、その分の増資が必要となりました。資源掘削の世界では、1社が多額の資金を供出するのではなく、ほかの事業に出資してリスク分散することが一般的です。そのため、共同出資という形態がとられています。
このタイミングでロシア企業が参画を申し出てくれたため、シェルや日本企業は正当な対価を受け取って安堵したという一面もあります。
契約を無視する行為は国際社会から締め出されてしまうことを意味しますので、さすがのロシアもそこまでのことはしておりません。ただし、法スレスレの嫌がらせや巧妙な手口はお手のものですので、歴史に学んだ細心の注意は必要です。
  
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。


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