M-1はどう生きるか

M-1グランプリ2023で令和ロマンは素晴らしい漫才を披露し優勝しました。
ただ、全体としてみると重かったなという印象でした。3組目のさや香が信じられない完成度の漫才を披露した時点でピークが来てしまいました。出順の妙が今年は強かったことは確かです。
しかしそれ以上に数年間垣間見えていた懸念点が顕在化したことが大きな要因ではないでしょうか。
「競技漫才とテレビショー」「硬直化する審査」「予選からのネタ公開」の3点から見ていきます。

M-1は競技なのか、テレビショーなのか
「M-1は競技漫才である」ということはある程度通説化しているように思います。昨年スポーツ雑誌であるNumberがM-1特集を組んだことが一部で話題になりました。


ナイツの塙が2018年ギャロップの審査コメントで「4分間の体力」という言葉を残したころからそれが意識されるようになりました。
また、その後出された単著「言い訳」ではより深くその点に言及しています。
2022年からは、オール巨人に代わって博多大吉が審査員になりました。彼はとりわけM-1が競技であることに意識的です。彼はラジオで審査基準を明確にしています。また真空ジェシカに対してネタ時間の長さが減点対象になったことを明言しています。
しかし、本来はオーディション型テレビショーとしての性質が強かったはずです。M-1チャンピオンはその肩書を引っ提げて1年間あらゆるテレビ番組に出演します。フットボールアワー、チュートリアルなどがその代表ですが、そういった芸人がMCクラスに抜擢されスターとなっていくことがM-1の1つの役割でした。
その、漫才日本一を決める大会とテレビショー、この二つの性質を併せ持つM-1グランプリ
から後者の性質が後景化しているように感じます。本来真剣勝負にエンタメは不要です。真剣に人を笑わせるという奇妙な実践がこの番組の魅力ですが、M-1が競技に近づくほどテレビとしての面白さは削られていくように思います。

審査員に向けられる厳しい目線
ここ数年は審査員交代の過渡期でした。先述したオール巨人のみならず上沼恵美子、立川志らくが審査員を卒業しそれぞれ山田邦子、海原ともこが加わりました。上沼恵美子は2007年から審査員になりました。ネタを披露したコンビに対する歯に衣着せぬ言動は番組の名物となっていました。M-1の競技性が注目される前から審査をやっていた彼女は一見、ネタそのものより個人の好みを偏重するようなコメントを残しています。関西で数多くの冠番組を持ってきた彼女の、バラエティ適性を加味した嗅覚による審査とも言えます。しかし感覚的に見える部分が少なからずあり理解されにくかったのは事実です。バックラッシュは芸人界からも少なからず起こりました。立川志らくは落語家という権威を身にまとってジャルジャルに99点を与えたりランジャタイを高く評価するなど、いわゆる正統派から外れたネタに高得点をつける審査員でした。この2名が勇退したことにより審査に「面白み」が減っていったのではないでしょうか。
ここ数年、当日のXではトレンドワードのほとんどがM-1関係で埋められることが恒例となっています。注目度が高い分新しい審査員には厳しい目が向けられます。2022年から加わった山田邦子は1番目のカベポスターに84点、2番手の真空ジェシカに95点をつけました。結果で見ると1番低く評価したコンビがたまたま1番手、1番高く評価したコンビがたまたま2番手だったという程度の差でしたが、初審査ということもありそのことが過剰に注目されました。以上のような審査員への過剰な反応により、硬直化が進んでいるように思います。

観客の目を隠せるか
少なくとも2019年の段階では準決勝が見られる機会は現場とパブリックビューイングだったように思います。しかしコロナ禍における密集回避の目的から2020年にはよしもとオンラインにて配信が行われ、以後配信が定番となっていきました。
もちろん、決勝の観客のうちどれほどの人数が準決勝を配信で見ていたかはわかりませんが、見ることのハードルは非常に低くなっているのは確かです。
勝負ネタを温存できる漫才師は限られています。(だからこそ今年の令和ロマンのすごさが際立つわけですが。)多くの漫才師は準決勝を通過した強いネタをブラッシュアップして望みます。見たことあるネタに対する反応が少し鈍っていたとしても不思議ではありません。芸人あってのM-1グランプリです。運営上の方策がウケの障壁になるようであれば今後、思い切って準決勝を非公開にすることも必要となってくるのではないでしょうか。

変化に迫られるM-1
奇しくもそういった懸念が顕在化したタイミングで週刊文春における松本人志のスキャンダルが報じられました。このことがどれほど芸能界に波及するか現段階では未知数ですが、松本人志あってのM-1グランプリであり番組存続も含めて来年以降、大きく変容する可能性は大いに考えられます。また芸歴16年以上の芸人が出場するTHE SECONDにてマシンガンズがのびのびとネタを披露したことが賞レースのあり方に一石を投じたことも個人的には大きなトピックでした。
今後のM-1がどうなっていくか注目していきたいです。


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