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人生に彩りを。北極を歩いた20年のグラデーション

今日は冒険研究所でオンラインでの打ち合わせを行った。初めてお会いする(オンラインなので画面越しだが)方なのだが、このご時世なので、本来なら直接会いたいところをネット経由で話をした。

ネット経由でも、そんなに違和感はない。直接会うべき場面も多々あるが、そうでもない時にはこれで充分だ。

さて、今日も先方から色々と私に対してご質問をいただいたりして、何で北極歩いてるのか?とか、ざっくばらんに話をさせてもらった。

その中で、昨年の若者たちを連れての北極行に関しての質問において、こんなことを聞かれた。

「全く素人の若者たちと一緒に北極を旅して、何か発見とか、気付いたこととかってありますか?」

私はこう答えた。

「私の20年という時間ですかね」

このnoteでも、以前の記事で昨年の北極行に関してのエピソードをいくつも紹介してきた。

とか。

など。

なぜ若者たちとの北極行を計画したかと言えば、私自身のスタートが20年前に、冒険家の大場満郎さんが主催した冒険行に参加したことがきっかけだった。当時の私は22歳。アウトドア経験も海外旅行経験もゼロで、初海外、初アウトドアで初北極の初冒険だった。それ以来、北極通いが続いている。

昨年の若者たちも、初海外、初アウトドア、というメンバーばかりだった。

そんな彼らと一緒に旅を行い、私が何に気付いたか?何を発見したかと言えば、それはこの「20年」という時間であったと言える。

人は常に変化している。「変化」という表現が適切かどうかはさておき、つまりは常に移ろいながら、常に以前の自分ではない自分として、揺らぎの中で生きている。それは、細胞が入れ替わっていって、数ヶ月も経てばかつての自分はもう入れ替わって物質的に変化している、という意味においてもそうだし、精神的にも様々な出会いや別れや喜怒哀楽を経て変化しているという意味においてもそう。知識も経験も、全てが変わりつつ変わらず、また変わらずに変わっていく。

そんな日々に生きていると、なかなか自分自身が「変わった!」と自覚する瞬間は訪れない。「今日のこの経験によって、俺は明らかなバージョンアップを果たしたぜ!」と思えるようなことはまずないし、もしそう思ったとしても多くの場合は思い違いや過信であったりする。もしくは、小手先の知恵や小細工でメッキを頭から被って違う色に染まったつもりになっているだけで、ちょっと洗剤で擦れば元の下地が露わになるようなことも日常の一つだ。

でも、そんなことも全てひっくるめて経験として、着実に人は揺らぎ移ろいながら変化をしていく。それはまるで、白が黒へと、果てしないグラデーションの先に緩やかに変わっていくようなものだ。そのグラデーションの最中に、どこからが白で、どこからが黒であるとかを判断することはできない。「昨日までは白だったけど、今日を境に俺は黒になった!」と言うこともできない。

しかし、その長い時間をかけたグラデーションの最前線にいる自分が、はたとその歴史を振り返れば、確かに自分は白だったわけであり、その記憶もあり、その時の自分と今を見比べてみれば、確かに変わっている。

昨年、私は真っ白な経験ゼロの若者たちと旅をした。それはまるで、20年前の自分と旅をしているような感覚でもあった。

この20年で、私は北極や南極を歩き回り、初めの自分と今では明らかに変化を遂げている。しかし、ではその20年の「どこの時点において」変わったと言えるのか問われれば、それは「点」ではなく、グラデーションという緩やかな段階の連続性の全てとしか言えない。

「ゼノンの矢」という古代ギリシャの時間の矛盾を語った逸話があるが、飛んでいる矢を、細かい時間で区切って見れば、その瞬間の矢は止まっているように見える。ということは、飛んでいる矢は飛んでいないわけである、というもの。

この逸話と私の話はちょっと違う性質のものだが、つまりは全体の中で「点」に着目するのではなく、あくまでも「全体性」で私は考えたい、ということだ。

私には20年前の記憶がある。真っ白だった時のことも覚えている。その時から、「極地冒険」という世界にグラデーションを描き続けた私は、20年前の自分自身のように真っ白な若者たちと旅をすることで、初めて自分の描いてきた20年という時間を自覚したと言える。

これは、何事にも共通するはずだ。仕事においても、勉強においても、恋人や友人との関係においても、常に人は毎日の経験を通して、新しいグラデーションを描き続けている。

白と黒、という表現は、わかりやすく書くための表現でしかない。黄色から緑かもしれないし、赤から紫でも良い。彩りのグラデーションには終わりは無い。無限に続くし、その種類も無限に存在する。どれだけ自分の人生に彩りを描けるか、そしてそのグラデーションに気付ける瞬間を得られるか、私は極地冒険を通してそれを試しているとも言える。

この4月から新しい人生が始まる人も多いことだろう。新社会人、新入生。大変の時期ではあるが、好むと好まざるとに無関係に、人は常に移ろい、色彩は人それぞれ異なりながら彩り豊かな人生になります。

将来に期待せず、過去に執着せず、今の瞬間を大事にしながら、全体を俯瞰していく視野を大切にしてください。

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