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キッチンから

綺麗に晴れた平日の午後、キッチンで調理をしている時、白いスピッツは僕に近づいてくる。物欲しそうなそのブラウンの眼差しに見つめられて、つい台所に置いていた新鮮な春キャベツをあげてしまった。

黙々と食べ続ける彼の姿を見ては、いまこの白いスピッツと彼女と共に生活をしているのだと実感する。

以前とは違う生活。それは以前よりずっと新鮮で幸せな生活だ。まるで寒い冬をようやく超え、煌びやかな桜の季節を過ぎた五月の春に似合うような。
包み込むような風と、新緑の緑。そんな季節に今僕たちは同じ屋根の下で暮らし始めている。

暖かなスープが出来上がる頃、「ただいまー」という彼女の元気な声が聞こえた。僕は少し大きな声で「おかえりー」と言う。この部屋は少し声が通りづらいのだ。白のスピッツは彼女周りをグルグルと回っては彼なりのおかえりを表現していた。

出来立ての夕食を食べ、白のスピッツと彼女と夜の散歩に出かける。お互いに服装は白のスウェット生地のTシャツと余裕のあるワイドデニム。夏に向けて2人で揃えたものだ。肌寒い夜でも、三人で歩いているうちに暖かくなる。

僕らは今日一日の出来事を話しながら、近くの大きな公園を一周する。僕は平日休みのこと、彼女は今日の仕事のことを。


彼女と出会ってからちょうど一年になる。本当のことを言うと6年前に一度だけ会ったことがあり、その2年後にもう一度会っている。

僕らは同じ高校の同級生だった。高校の時はお互いに同じクラスにはなれなかったから、初めて会話をしたのは高校生活最後の卒業式。最後に写真を一緒に撮ったのが初めての出会いだ。

卒業してから、二回目の出会いがあった。それは何千人もいる成人式で偶然出会った。その時も写真を撮って、いつかまた出会ったら写真を撮ろうねと約束をした。

次に会った時、それはお互いがもう大人になった24才の時。僕らはお互いに小さく音楽活動をしていたのがきっかけで出会う。今でもこの出会いを不思議に感じる。生きているとこんなにもドラマチックな出会いに巡れ合えるのだなと、ふと今でも思い巡らせることがあるくらいに。

そんな出会いに感謝しながら、僕はまたキッチンで今日の晩御飯を作る。今日は彼女の好きな、少し甘めのカレー。

白のスピッツは玄関の前で彼女の帰りを待っている。僕もその帰りを待つ。今日の終わりを楽しく過ごせる様に、そして明日また元気で暮らせる様に、ずっとこの先も緩やかに生きていける様にと願いながら。






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