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アイスケース炎上
ネットに問題発言、法律に反するような行為、動画、写真、大勢が怒るような内容を投稿した結果、たくさんの人をワッと集めてしまい、フクロ叩きになる、これがインターネットの炎上です。皆さんこのイラストに見覚えはありませんか?
もう何年も前の6月18日、高知県のコンビニで、アルバイトがお店のアイスケースの中にもぐり込み、その画像をネットに投稿した「炎上事件」。お客さんが食べるアイスの上に、アルバイトが寝っ転がったんですね。
実はこの出来事、「ネット炎上」という単語が、ワイドショーや雑誌なんかで普通に使われるようになったキッカケになったと言われています。
最初、この写真はフェイスブックに投稿され、それがツイッターに流れだし、ほぼ1か月後の7月14日、「2ちゃんねる」にたどり着きました。当時のネット炎上は、2ちゃんねると呼ばれる巨大なネット掲示板にたどり着くことで、大騒ぎになるケースが多かったんです。7月14日、2ちゃんねるの人たちが、この写真を見つけて怒り出します。
「汚ねえなあ、この店のアイス、絶対に買わねえ」
「このコンビニチェーン、利用するのやめよう」
「どこの店か知らんが、もう買わん」
みんな怒ってる、当たり前です。「こいつの個人情報、まだ特定されてないの?」。そのうち特定されるんでしょ、っていう感じですね。「この店の経営者、かわいそうになあ」。そりゃそうですよ。アルバイトにこんなことされてしまったら、経営者もたまったモンじゃありません。が……実は違ったんですよ。
「こいつ、この店の経営者の息子だってよ!」。彼、お父ちゃんの店でアルバイトしていたんです。お父ちゃんの店で、アレを撮ったんです。「保健所に通報しろ」なんていう書き込みもありますね。これが7月14日。そして2日後、新聞にも載ってしまいます。
「コンビニ店員、冷蔵庫内で横になる」、残念な見出しです。“写真を見た一般の人からの指摘で発覚”。これは先ほどの2ちゃんねるの人たちです。大勢でコンビニのお客様センターにクレーム電話を入れたんですね。「アンタら何考えてるの?」「あの店、どうするつもりなの?」……数百件以上のクレームが寄せられました。
実はこの時、コンビニチェーンの本部は、この炎上に対し「伝説的」な早さで対処しました。新聞記事が出る前日、7月13日のうちに、あのお店をきれいサッパリ潰したのです。
本部の社員が大勢、高知県に押し掛けました。店に到着するや否や、駐車場にカラーコーンを並べ始め、お客さんが入って来られないようにします。お店を封鎖、営業停止です。店内の商品は運び出され、空っぽになったお店にはブルーシートが貼られ、店内は目隠しされました。
これ全部、新聞が出る「前の日」の出来事ですよ。たった数時間で店が1件、消えて無くなったんです。このコンビニ、彼のお父さんが9年がんばって営業してきたお店でした。その苦労がたった数枚の写真でぜんぶ消えて無くなってしまったのです。
まあそれだけの大ゴトになったということですよね。それだけ、大ゴトになったのに……その後、真似する人たちが大勢現れました。
真似してアイスケースに入る。真似してお店の食材で遊ぶ・真似して大勢が怒るような内容をネットに投稿する。たとえば大手ハンバーガーチェーンのアルバイトは、ハンバーガーのバンズに寝っころがった画像を投稿。群馬県の調理師学校に通う学生は、高知のコンビニを真似してアイスケースに。東京ではお蕎麦屋さんのアルバイトが、お店の食器洗い機の中に入り込んで投稿。いずれも大炎上です。ハンバーガーチェーンは店舗を閉鎖、群馬県の学生はすぐに退学、お蕎麦屋さんは潰れてしまいました。
そしてこの人たち、皆ビックリするくらいの早さで身元がバレています。早いって1日、2日じゃないですよ。たいてい3~4時間。もっと早いと数十分で「コイツは●●だ」と言う正確な個人情報がネットに投稿されます。なんでそんな短時間で身元がばれてしまうのか。実はこれ、ちゃんと理由が説明できるんです。
筑摩書房「大人を黙らせるインターネットの歩き方」より抜粋
①「私のことは忘れてください」
②「ツイッターでヘリが来た」
③「アイスケース炎上」
④「なぜ身元がバレるのか」
⑤「個人情報は載せていなかったけど」
⑥「こんな投稿もヤバい」
⑦「すぐに消すから大丈夫?」
⑧「炎上の本当の恐ろしさ」
⑨「ネットで絶対に失敗しない方法とは」
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