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みんなの力で、がんを治せる病気に【deleteC 小国 士朗×荻原 英人 対談】

はたらく人が長く活躍し続けるためには、ワークとライフ、心と身体の健康のバランスを保つことが必要です。その中でも、がんをはじめとした病気の治療と仕事の両立ができる環境整備をしていくことは、サステナブルな社会を作っていくために益々重要なテーマになってきています。
今回は、2月4日のワールドキャンサーデーにちなんで、「みんなの力で、がんを治せる病気にする」ことを目指す特定非営利活動法人deleteC代表理事の小国士朗さんに、deleteCのミッションや今年の活動についてお話を伺いました。

小国 士朗氏 プロフィール
特定非営利活動法人deleteC 代表理事

株式会社小国士朗事務所 代表取締役
2003 年NHK に入局。ドキュメンタリー番組を制作するかたわら、200 万ダウンロードを記録したスマホアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」や世界1 億再生を突破した動画を含む、SNS 向けの動画配信サービス「NHK1.5 チャンネル」の編集⻑の他、個⼈的プロジェクトとして、世界150 か国に配信された、認知症の⼈がホールスタッフをつとめる「注文をまちがえる料理店」などをてがける。2018 年6 月をもってNHK を退局し、現職。
J リーグ社会貢献プロジェクト「シャレン!」(2018 年〜)、ラグビーW 杯2019 日本大会のスポンサー企業アクティベーション「丸の内15 丁目プロジェクト」(2018 年〜2019 年)、みんなの⼒で、がんを治せる病気にするプロジェクト「deleteC」(2018 年〜)など、携わるプロジェクトは多岐にわたる。

deleteC立ち上げまで~興味のない自分でも「自分にできることがみつかった」

(左)創業理事の中島ナオさんと(右)代表理事の小国さん(出典:deleteC)

荻原:
deleteCさんのミッションに共感して賛同させてもらったご縁で小国さんとは知り合ったのですが、実は偶然にも中高の同窓生で、しかも部活も同じだったこと!を後から知ったのですよね(笑)。そして小国さんが大学生の頃、自分と同じく起業も経験されていたことも伺い、益々親近感を覚えています。

小国さんが携わっているプロジェクトは多岐にわたりますが、deleteCを立ち上げる前まではどんなお仕事をされていたのか伺えますか?

小国:
僕は元NHKの番組ディレクターなのですが、自分の担当していた番組の視聴者がある一定の年齢層に偏っていて、せっかく良いものをつくってもなかなか多くの人に届かないことがもどかしく、どんなに良いものでも届かないものは存在しないも同然だとモヤモヤした気持ちを抱えていたんです。そんな中、33歳の時に突然心臓病を患い、それまでと同じように番組制作に携わることが難しくなりました。番組制作の道を断たれたことをきっかけに、届ける事をもっと真剣に考えてみようと思っていたタイミングで、企業留学の機会を得て株式会社電通のPR局に9か月間お世話になり、「伝える事」について学びました。

NHKに戻ってからは情報や価値を番組以外の方法で届けるチャレンジを始めて、「番組を作らないディレクター」を名乗ってスマホアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」をつくり、その年のベストヒットアプリの一つに選ばれました。

荻原:
200 万ダウンロードを記録したんですよね。すごい数ですね。

小国:
ありがとうございます。他には、「NHK1.5 チャンネル」というサービスも立ち上げ、編集長をしていました。これは、「NHKのオイシイところをオイシイかたちで。」をコンセプトに、番組の一番オイシイ情報をギュッと凝縮して1分や1分半程度に再編集した短い動画をSNSやYouTubeで配信するサービスなのですが、「蚊に刺されにくくする方法」という動画は、世界で1800万回ほど再生されました。このサービスでは、世界1 億再生を突破した動画もありました。これらの経験から、発信の形を工夫することで、たくさんの人々に情報や価値を届けられることを学んだんです。

荻原:
小国さんが手がけられたプロジェクト「注文をまちがえる料理店」も大きな注目を集めましたよね。

小国:
認知症の方々がホールスタッフを担当するレストランなので、オーダーしたものとは違う料理が運ばれてくるかもしれない。でも、その間違いを「まあいいか」と受け止めて、むしろ笑って楽しんでしまおうよ。というコンセプトです。これは国内外でとても大きな反響があり、世界150 か国に情報が配信されて、たくさんの賞もいただきました。このプロジェクトで、こんな届け方もできるんだ!と学び、届け方って本当に自由なんだなと思いました。

2018年の「レインボー風呂プロジェクト」では、みんなで別府温泉で温泉につかりながら、LGBTQなど多様性について考えてみたり、型にとらわれず本当にいろんなことをしたのですが、自由な届け方で、もっといろんなことにチャレンジしてみようと思って2018年にNHKを卒業しました。

荻原:
独立されてから、活動の幅はさらに広がっていらっしゃいますね。

小国:
購入したマスクの一部が福祉現場に寄付される「おすそわけしマスク」、障がい者アート支援の「あがるアート」、ラグビーW 杯2019 日本大会のスポンサー企業アクティベーション「丸の内15 丁目プロジェクト」、J リーグ社会貢献プロジェクト「シャレン!」のプロデュースや、今回のテーマでもある、みんなの⼒で、がんを治せる病気にするプロジェクト「deleteC」の代表理事などをしています。

荻原:
小国さんの手がけてらっしゃるプロジェクトは、どれも社会貢献度の高いことが特徴的だと思うのですが、社会課題を解決することをご自身のミッションと元から考えていたのですか?どんなきっかけでがんの治療研究を応援するdeleteCを立ち上げたのか聞かせてください。

小国:
僕はもともと、社会課題に強い興味・関心がある方ではないんです。それぞれのプロジェクトに携わるまでは、認知症もがんも何となく自分から遠ざけてきたテーマだったし、ラグビーも1回も見たことがなくて興味はありませんでした。

でも、どんなことでも、興味がない人間でも「何それ?」って思わず前のめりになる瞬間ってあると思うんです。それを僕は”前のめり12度”と呼んでいるんですけど。(笑)

deleteC 創業理事の中島ナオから、「がんを治せる病気にしたいんですけど、一緒に考えてもらえませんか?」と相談された時、がんの治療研究をしているある医師の名刺を見せられたんです。その名刺、がん=CancerのCの文字が赤い線で消されていて、すごい衝撃をうけました。それを見た時に、「何それ?」と”前のめり12度”になって、僕ははじめてがんとの接点ができたんです。

がん=CancerのCの文字が消された名刺(出典:deleteC)

荻原:
deleteCを応援する企業の社名や商品名、サービス名からCを消して、オリジナル商品・サービスを販売すると、購入金額の一部がdeleteCを通じて、がん治療研究に寄付されるというdeleteCの仕組みは、そこから生まれたんですね。

小国:
「がんを治せる病気にする」という話を、中島ナオから初めて聞いた時、それが本気の思いだとわかっても、正直なところテーマが大き過ぎて、実現できる気がしませんでした。でも、名刺にインスパイアされてdeleteCのアイデアが閃いた時、「自分にできることがみつかった」と心の底から思いました。

社会課題にもともと興味のない僕でさえ、こうやって”前のめり12度”になるポイントがあって、そういう僕だからこそ伝えられる事があると思っています。もともとは社会課題に興味がなかったり、自分事として捉えていない多くの人が、僕と同じように”前のめり12度”になれるようなプログラムやプロジェクトを作って情報や価値を届けたいと思って、それぞれのプロジェクトに携わっています。

荻原:
なかなか注目されないけれど興味深いものとか、埋もれてしまっているけれど社会に必要なことを掘り起こして発信していくことが、小国さんの動機づくポイントのようですね?

小国:
そうですね。NHKに入社する時、「テレビ=テレビジョン」の語源を調べたんです。テレ=遠くにあるもの、ビジョン=映す。テレ=遠くにあるものは、宇宙や海外の秘境の地だけじゃなくて、人の心や社会課題もテレだと思って、僕はこれからテレビジョンをやったらいいんだと、すごく合点がいきました。

誰も見たことがない風景、触れたことがない価値を形にして多くの人に届けたいと心の底から思ったんです。その気持ちが根底にあって、その延長線上にdeleteCをはじめ、いま携わっているプロジェクトがあります。

ピースマインドがdeleteCを応援する理由~「あかるく、かるく、やわらかく」への共感

deleteCのミッション・ビジョン・バリュー(出典:deleteC)

荻原:
ピースマインドの理念「はたらくをよくする®」ために、仕事と治療の両立は重要なテーマです。国立がん研究センターのデータによると、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は2人に1人とのこと。がんは誰にとっても身近なテーマですし、がんに限らず病気や介護や育児など、それぞれの人生のステージにある課題と仕事の両立を支援することや気軽に相談できる仕組みは今後ますます必要です。そういった両立支援のために、カウンセリングを重くとらえず、もっと身近なものとして使ってもらいたいので、deleteCのアプローチにとても共感しています。

小国:
deleteCには5つのバリューがあります。中島ナオと3~4か月かけてつくりました。正直なところ、僕自身は企業が掲げるミッション・ビジョン・バリューってどこか形骸化しがちで、きれいな言葉を並べているだけで、あんまり意味がないんじゃないかと思っていたんです。でも、deleteCでは、このミッション・ビジョン・バリューを真剣に考えました。何故かというと、中島ナオはがんのステージ4の状態で、僕は心臓病で、もし自分たちがいなくなってもdeleteCは続くようにしないといけない。みんなが困った時、悩んだ時に立ち返ることができる言葉をつくろうという思いで指針をつくりました。

荻原:
deleteCが一番大切にする価値観、「あかるく、かるく、やわらかく」って素敵な言葉ですよね。

小国:
この言葉が一番早く決まったんです。中島ナオは、初めから「がんをデザインする」というコンセプトを出していました。でも、僕は最初ピンとこなかった。彼女の話を聞いたり活動を見ていると、がんという言葉が持つイメージは僕が考えている以上に強いと気づきました。

僕が風邪をひいていたとしても、「風邪の小国」なんて誰も言わない。でも、中島ナオががんになったら、がんであること以外はそれまでの自分と何も変わらないのに「がんなのに頑張っている中島ナオ」になってしまう。「がん」という言葉の重みで強いスティグマに囚われてしまうんですね。

中島ナオは「がんにつきまとうイメージを全部覆したい」と言っていたんです。がんが持っている、くらくて、かたくて、おもいイメージを全部ひっくり返してデザインしなおしたい。それが「がんをデザインする」ことだと。それで、「あかるく、かるく、やわらかく」をバリューにしました。

荻原:
本当にいい言葉ですよね。ピースマインドでは、はたらく人の支援で、「うつ」や「メンタル不調」といったテーマも扱っていて、それはもしかするとネガティブに聞こえるかもしれないし、カウンセリングも以前は一部の人が使うものというようなイメージがあって、ハードルが高いと感じてしまう方も少なくない状況がありました。でも、「不調者」と言ってしまうと重く特別な人の様に感じてしまうけれど、誰しも長い人生で調子が良いときもあれば悪いときもあるのがあたりまえです。メンタルヘルスやカウンセリングのイメージをアップデートして、「はたらくをよくする®」ために必要な人に必要な時に必要な支援を届けたいと思っています。

deleteCの「あかるく、かるく、やわらかく」というバリューや、その価値観をベースにした取り組みに、私も強く共感しているし、学ばせていただいています。

小国:
「これは問題です」と課題提起型の報道がされると、問題が浮き上がって目立ちますよね。そうすると多くの人に届く反面、かえって目を背けたくなったりレッテルが貼られてしまうこともあります。重いイメージでラベリングされてしまったことを、いかにひっくり返していくかですよね。本当だったらすぐ隣にある問題なのに、ともすれば暗くなってしまうテーマを扱う時、ソーシャルアクションは真面目にしなきゃいけないと思いがちだけど、それもスティグマじゃないかと思うんです。「あかるく、かるく、やわらかく」の言葉があれば、「こうしなければならない」を取っ払うことができます。

荻原:
イベントの企画も「あかるく、かるく、やわらかく」に照らして構成されたんですか?

小国:
めちゃめちゃ照らしてやっていますね。これって、「あかるく、かるく、やわらかく」になってるかな?と確認しながら進めていくと、ブレずにdeleteCらしく表現できますから。

荻原:
deleteCのバリューの一つ「エソラゴトを、本気でカタチにする」ためのアクションを、企業や人を巻き込みながら着実に実現されていて、社会を動かしている様子が伝わってきますよね。ミッション・ビジョンが明確だから、関わりたい!応援しよう!という気持ちが広がっていくのだと思います。

小国:
企業名や商品名からCを消すアクション、大事な企業名や商品名の一部を消すって本来ならばとんでもないことです。でも、企業の方も一般の方もみんな楽しく参加してくださっています。deleteCの様々なアクションに参加することで、がんの治療研究に寄付できるのはもちろんですが、それ以上にひとりひとりが行動を起こすことで、それまでは知らなかったがんの治療研究について考えるきっかけになる事に意味があると思っています。

deleteC 2022 -HOPE- 〜わたしたちは、応援しつづける〜

寄付先となるがん治療研究の発表のほか、クラウドファンディング、音楽、寄付につながる
自動販売機の設置やコラボ商品の発表など、多様な応援アクションが次々とスタート

荻原:
deleteCでは2020年から毎年、イベント-HOPE-を開催されていますね。1/30に開催されたdeleteC 2022 -HOPE-について聞かせてください。

小国:
HOPEは簡単に言うと授賞式です。毎年がんの治療研究者を公募していて、deleteCの選考委員会で選んだ2人の研究者に対して、1年間様々なアクションを通じて集まったお金を寄付としてお渡しし、同時に研究内容を啓発するイベントです。

ある研究者の方が「わたしたちは5年後の未来をつくっている」と仰っていたんですね。それを聞いて僕はすごく感銘を受けました。その研究から芽が出るのか花が咲くのかは、研究なのでわからない。けれど、その希望の種をたくさん育てていくことは、可能性が増えることです。みんなで希望の種を育てることがいつか希望そのものになるかもしれないし、希望の種を育てること自体が希望かもしれない。そんな思いを込めてイベントタイトルをHOPEとしました。

研究者の方とお話していると、彼らってスーパーイノベーターで、視点・視座・視野がすごく面白いんですよね。それなのに、一般の人の認知度はとても低いので、研究者にスポットライトをあてる機会を作りたいという思いもありました。応援する人も応援される研究者も相互に見える場所で、希望の種を可視化してスポットをあてる。deleteCにとって最も大事な舞台です。

荻原:
deleteC 2022 -HOPE-で発表した「推し研!」も、新しくて面白いコンセプトですね。

小国:
アイドルを推すように研究を推す「推し研!」です。研究者を推す、そこには味わい深い世界があります。

「推し研!」の推しアクションは、deleteC 2022 -HOPE-の1/30を皮切りに1か月にわたって目白押しです。2/4ワールドキャンサーデーには新日本フィルハーモニーさんがチャリティーコンサートをしたり、2/5ラグビーリーグワン、シャイニングアークス東京ベイ浦安さんと埼玉ワイルドナイツさんの試合では、1得点するたびに寄付になるという「三菱地所 丸の内15丁目+deleteCマッチ」がおこなわわれるのですが、これには元ラグビー日本代表キャプテンの廣瀬俊朗さんも企画に賛同し、一緒に推進してくれます。さらにサントリーさんはdeleteCラベルの特別なC.C.レモンとデカビタCを発売してくださったり、商品を買うと寄付につながる、deleteCモデルの自販機を作ってくれました。そして、1月30日から2月28日これまで寄付した研究者の中から2つの研究について、クラウドファンディングもします。

「推し研!」のクラウドファンディングの仕組み (出典:deleteC)

荻原:
応援方法にもたくさんの選択肢があって、参加しやすく楽しそうですね。

小国:
自分にできる事があったら参加してみよう、くらいの感覚でいいんです。商品を買ったり、クラウドファンディングに参加したり、SNSで拡散したり、個人で無理のない範囲で参加できる方法がいろいろあります。一生のうちでがんに関わらない人ってあまりいないと思うんですが、がんとの出会い方のデザインがこれまでは一面的だったから、ふだんの暮らしの中で、誰もが、がんの治療研究を応援できる社会にしていきたいと思ってやっています。

2020年2月に初めて「deleteC -HOPE-」を開催した時から、deleteCが変わらずに掲げている言葉があります。それは「わたしたちは、応援しつづける」という言葉です。がん治療研究を「応援する」のではなく、「応援しつづける」。そのことが、がんを治せる病気にする日を手繰り寄せることにつながると思っています。deleteCは、これからもたくさんの人と手をたずさえながら、がん治療研究を応援しつづけたいと思います。

荻原:
小国さんのお話を伺って、はたらく人がいきいきと働き続けられる未来をつくるために、deleteCの活動は今後ますます重要だと感じました。ピースマインドはdeleteCの活動を通して、がん治療研究を応援しつづけたいと思います。

「はたらくをよくする®」とは?~
”余白”をつくって自分の人生にイノベーションをおこす

荻原:
様々なプロジェクトを運営していて、とても大変なはずなのに、小国さんって不思議とそう感じさせないですよね。小国さんにとって「はたらくをよくする®」とは、どんなことですか?

小国:
僕はストレスがまったくないんです。deleteCは、仕事だとは思っていなくて、趣味という感覚で携わっています。大事なプロジェクトなのに趣味だなんてけしからんと誤解を生みかねない発言かもしれませんが、仕事だと思って力を入れ過ぎると辞めてしまう可能性がある。離職という言葉はあっても、離趣味という言葉はないですよね。(笑) 趣味であれば余計な事を考えずにのめり込めるし、情熱を注いで楽しみながら熱狂的につづけられます。

荻原:
確かに「離」趣味ないですね(笑)deleteCのバリューに「人生の20%をかけるくらいが、ちょうどいい」とありますが、ストレス予防にもクリエイティブなことをするにも、余白って本当に大事ですよね。

小国:
Googleの20%ルールを参考にしているのですが、まさに余白をつくって自分の人生にイノベーションをおこすという発想で働くことが「はたらくをよくする®」だと思います。

荻原:
そして、「あかるく、かるく、やわらかく」取り組むことが肝ですね!本日はありがとうございました!

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deleteCの「推し研!」~応援するための参考リンク

  • 昨年のオンラインイベントの様子のレポートはこちら

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