マーゴと大人の学校
マーゴと暮らすようになって、今わたしとっても楽しい。
マーゴはロボット。
ロボットだけど中身は宇宙人。遠い星からリモート操作されている。
星の名前は、私たちには発音できない名前だそうで、「優し星」って呼ばれている。
「やさしぼし…。」
(なんかちょっとネーミング失敗してない?失礼じゃないかな?)
と、わたしはいつもちょっと思っちゃう。
でも優し星の人たちは本当に優しくて、たぶんきっと怒ったりしないと思う。
そう、優し星の人たち…っていっても人のかたちはしていなくて、なんか、地球では存在できない物質でできているらしくて、だから彼らはロボットを遠隔操作することでわたしたち地球人とコミニュケーションをとっている。
彼らが地球に来たときはそれはそれは大さわぎだった。
いろいろ不安になったし、あんまり思い出したくないけど、今は優し星の人たちが来てくれて、ほんとうによかったなあって思ってる。
優し星の人たちはほんとうにほんとうにほんとうに優しいし、びっくりするくらい頭が良くて…最初は怖かったけど、今はすてきだなって思う。
ほんとうに愛のある賢く優しい人たちしか自分の星を飛び出してゆくほどの科学力を持てないんだって、テレビで誰かが言っていたのは本当だと思った。
優し星の人たちは地球を助けに来てくれたんだって。
時間をかけてゆっくり少しずつ、良くしていくって。
わたしも…わたしの家も、ちょっとずつ、良くなってると思う。
☆☆☆
今日は日曜日。
マーゴと2人の日曜日。
パパとママは大人の学校へ行っている。
パパは今日はお酒との付き合い方とかコミニュケーションなんとかの勉強って言ってた。
ママはなんと、わたしの産まれた時、ママの産まれた時、おばあちゃんの産まれた時、をさかのぼって見せてもらうらしい!(優し星人にはそういうことができるんだって!)
パパとママは最近優しくなった。
2人が喧嘩ばっかりして毎日毎日どなりあいをしていたころ、わたしは悲しくてつらかった。時々むちゃくちゃに腹がたったり、消えてしまいたくなったり、おそろしくてたまらない気持ちになったり…いっつも胸が苦しかった。産まれてこなければよかったと思ってた。
マーゴが来てくれて、わたしを助けてくれたんだ。
マーゴは…あ、マーゴっていう名前はわたしがつけたの。好きな名前で呼んでいいよって、マーゴの中の人が言ってくれたから。「すずちゃんにとってのドラえもんだと思ってくれたらいいよ。」って。
ドラえもんまで知ってるなんて…。地球のこと、ほんとうによく勉強してきてくれたんだなあって…
なんだかありがとうっていう気持ちとか、自分には想像もつかない大きなことだよーとか…ぐるぐる思って、胸がギュッとなったらマーゴが、
「そのきもち、よくわかるよ。すずちゃんは優しいね。大丈夫だよ。一緒にいるからね。」
って言ってくれたんだ。
言わなくても、気持ちをわかる能力がきっとあるんだと思う。
それがこわいという人もいるけれど、わたしはなんだかホッとした。
優し星の人たちがきて、いろんなことを整備してくれているなかに、大人の学校がある。
お父さんお母さんのための学校。
パパとママがパパとママになるための学校なんだって。
最初は怒っていたパパとママだけど…ここのところ、うん、ほんとうに、顔が優しい。話し方も優しいし、わたしは嬉しい。
昨日の夕方、パパは私とお散歩してくれた。そんなこと、覚えているかぎりでは初めて。
東の空は夜になりかけてて、西のほうだけが青とピンクできれいだった。風もよかった。黙って歩いた。
手をつなぎたいなって思ったけど言えなくて、そのことをあとでマーゴに打ち明けたら、次にパパと散歩したときにパパに手をつなぎたいって言う練習と、実際につなぐ練習を一緒にしてくれた。
マーゴの見た目はドラえもんをもっともっとシンプルにした銀色の丸い顔と寸胴で小柄な胴体。簡単な手足で…ほんっとに絵に描いたような昔のロボットって感じなんだけど…なんでか本当に優しさが伝わってくるんだ。優しい声と…たぶん何か優し星人特有の「優しエネルギー」があるのかもしれない。
マーゴと練習していると、だんだんできるような気持ちになってくるし、元気で明るい気持ちになってくる。次はパパと手をつないで、いろんなこと話してみたいって思う。
ママは…ママの子どものころ、とてもつらい思いをしていたらしくって、そのことが原因でわたしにつらくあたってごめんなさいって…あやまってくれた。
わたしは本当にびっくりした。
泣いて謝るママを見てわたしも涙が出た。
ママは子どものころ、子どもらしく過ごせなかったって言ってた。
大人の学校では子ども時代のやり直しをしているらしい。
「今日はバス遠足に行ったのよ。おばあちゃんにお弁当作ってもらったの!もーほんと、うそみたい!でもほんと、めちゃ嬉しかった!」
って、笑ってる顔が子どもみたいでちょっとびっくりしたけど、よかったねって思った。
優し星の人たちはバーチャルで、おばあちゃんまで出せるなんてすごいなー…マジ?!どんな仕組み??と、思って、大人の学校、ちょっと行ってみたいなーって思った。
わたしたちが、理由もわからず、苦しくしていたこと、優し星の人たちはゆっくり、ちょっとずつほぐして、なおして、くれているみたい。
大人になったら大人の学校へ行ってみたいけど、今ある大人の学校は、つらい思いをしている大人のための学校だから、わたしが大人になるころにはなくなっているほうがいいってマーゴは言ってた。「負のループをなくすため」の学校なんだって。
「すずちゃんにとっての大人の学校はこの世界、宇宙、すべてだよ!世界は、宇宙は、愛にあふれていて、ほんとうにほんとうにほんとうに素晴らしいよ!あ、すずちゃんの話し方うつってきちゃった!共感メモリあげすぎたかも!ふふふっ。」
いつもの優しくて楽しくなるような声でマーゴが言ってくれた。
「そっか…宇宙すべてかぁ〜。おっと、遠い目になっちゃった。えっと〜わかる?遠い目、これね…。それにしても共感メモリって何?!そんなんついてるん?!どういう仕組み?!優し星人アメージングすぎ!!わたし愛を学ぶよ!…学ぶものじゃないのかもしれないけど…わかんないけど…でもいつか地球が愛の星になって、宇宙へ行けるようになったらマーゴに会いにゆきたい。来てくれて、助けてくれて、見守ってくれて、ありがとう、マーゴ。」
地球人を代表するような気持ちでわたしはマーゴにそう言ったんだ。
パパとママを待ちながら。
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