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【#0から保育】 第7回 日本の保育からフランスのシッターへ(フランス編)

連載説明

大学時代からの女友達・森野は日本の保育園での勤務経験を経て、現在フランスでベビーシッターをしながら語学を学んでいる。日本編では日本で経験した初めての保育現場について語ってもらったが、今回のフランス編ではフランスでの子どもたちとの関わりについて詳しく綴っていく。

(前回の記事)

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(フランス・アルザス地方の街並み)

―ベビーシッターは長距離マラソン
 オペア留学で暮らし始めて

小川:いよいよここからフランス編に突入するけど、フランスでは住み込みでベビーシッターをしながら、語学を学んでるんだよね。

森野:うん。「オペア留学」って言うんだけど、お金をかけずに現地へ行く方法として、生活費もタダだしいいなって前々から思ってた。

小川:オペア留学をするための条件ってあるの?

森野:国によっては期間が決まっていたり保育経験が求められたりするんだけど、フランスは18〜30歳で期間の上限が2年っていう以外にこれといった条件はなくて、割とゆるい方だと思う。それはフランスの風土だったり、子どもを預けることへの抵抗の少なさによるものなのかも。

小川:環境としては衣食住が保証されていて、そこで子どもの面倒を見て、月いくらかもらえるっていう感じ?

森野:うん、もらえるのはお小遣い程度で、月3〜4万円くらいかな。私は子どもを3人見てる分、お小遣いも少し多めだと思う。家によっては語学学校代を出してくれたり、交通費を出してくれたりするところもある。

日本にいたときは「シッターさん」ってちょっとビジネスライクに捉えてたけど、こっちに来てどんどんその感覚が変わってきて、今は「少し歳の離れたお姉ちゃん」くらいの感覚でやっているとちょうどいい感じがする。

小川:じゃあ、「働いてる」っていうより「一緒に暮らしてる」っていう感覚に近いのかな。

森野:最初は働いてる感覚でいたけど、途中でそれに限界を感じて。これは保育じゃなくて、あくまで留守番というか、子どもたちが安全に過ごすためのセーフティーネットだって思うようになった。保育園での仕事は中距離走だったけど、今の生活は長距離マラソンだから、同じ感覚で気力や体力を使うと息切れしちゃう。

小川:保育園には大人数の子どもたちがいて、それはそれですごく体力が必要だったと思うけど、子どもたち3人と過ごす今の日々も、きっとまた違う意味で体力がいるよね。

森野:なんで保育園では30人見ててこっちは3人なのに、こっちはこっちで疲れるんだろうって私も思うけど。やっぱり、子どもも保育園や学校にいるときと家にいるときで違うというか、家だとスイッチがオフになるから、ちょっとわがままになるところもあるんだと思う。

小川:確かにオフの時間って全然違うよね。

森野:子どもも違うし、私も違う。それとこのコロナ禍で去年の秋からずっと制限のかかった生活が続いて、家で子どもと過ごす時間が増える分、家庭内に色々しわ寄せがきてたのも感じた。ロックダウンで移動制限、学校閉鎖、娯楽施設の閉鎖、人の集まりや習い事もできない日々が続いて……。

小川:学校は行けてたの?

森野:学校は去年4月のロックダウン期間以外は基本的に開いてたけど、学級感染のリスクと隣り合わせだよね。だから今はコロナ禍で色々とイレギュラーな状況で、オペア留学として最良の時期とは言えないかな。

―3歳から義務教育
 フランスの教育制度

小川:今一緒に暮らしてるのは、何歳の子たちなの?

森野:3歳、5歳、9歳。私が来たときは、下の子はまだ2歳だったから一番大変な時だった。フランスは3歳からみんな学校(幼稚園)に行くから、今は少し変わったけど。

小川:フランスでは3歳から義務教育なんだよね。

森野:そう。フランスって学年の区切りが1月からなんだけど、うちの子は12月生まれで、日本でいう3月生まれみたいに一番月齢が遅かったからその分大変だった。オムツもまだ取れてなかったからトイレトレーニングもしたし、学校でもお漏らししちゃうことがあって。

小川:3歳から通うのも、幼稚園ではなく学校なの?

森野:フランスは幼稚園と小学校が隣接されてることもたまにあって、言葉としても「エコール(=学校)」っていう名前がついてるから、幼稚園って感覚はあまりないかな。

小川:3歳からの義務教育は2019年から始まったみたいだけど、それは幼児期のうちからみんなが平等に教育を受けて、スムーズに小学校へ上がれるようにってことなのかな。

森野:そうそう。登校時間も変わらないし、幼稚園も小学校ももうほとんど一緒。

小川:森野が子どもたちを見てるのは、送り迎えのときと、家に帰ってきてからの時間?

森野:あとは学校がない水曜日と、たまに休日も。水曜日はいつもピアノの先生が来たり、サッカーしに行ったり、そういう習い事をしてたりする。学校にも一応放課後の子どもたちを見る学童保育みたいなものがあって、親やシッターが見れなくても子どもはそこに残れるし、学校のない水曜日やバカンス中もやってるから、子どもたちのセーフティーネットは色々なところに備わってる

小川:フランスにはバカンスもあるし、先生たちもちゃんと有給を消化したり、時にはストライキを起こしたりとか、労働時間や労働環境に対する意識が高いよね。先生たちが尊重されているというか、労働者として守られてる感じが日本よりも強いのかなって思う。

森野:そこはこれまでの人たちが勝ち取ってきたって感じがするよね。幼稚園も1クラスの人数がそんなに多くなくて、そこに先生と補助の人が必ずいるっていう状況が守られてる。

小川:仕事内容も先生たちがやるべき範囲に限定されていて、森野が日本の保育園で経験したみたいに何でもかんでもやるような感じではないよね。

森野日本の保育園みたいに保護者と細かくやりとりしなきゃいけないこともないし、入学式とか運動会とかそういう大掛かりな行事もない。仮装していい日とか、お菓子をいっぱい持っていく日とか、そういうちょっとしたイベントはあるけどね。

先生が急に休みになるようなこともたまにあるけど、そういうときも私やおばあちゃんが子どもを見たり、他のクラスに預けたりすればいいし、なんとかなる。

小川:何かがダメになったときのセーフティーネットがしっかりある感じがいいよね。連帯ができているというか。日本だと保育園が大きな責任を負っている分、そこがダメになると孤立してしまうことも起こり得るし。

森野:そうだね。フランスだったら母親アシスタント(自宅開業型の小さな保育園)を頼るとか、ナニーさん(家庭訪問型の保育サービスを行う乳幼児教育の専門家)を呼ぶとか、そういうものでなんとかなることが多い。

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(外で遊ぶ子どもたちの様子)

―外国人扱いされない
 人種のるつぼに飛び込んで

小川:フランスでシッターを始めた時、言語も文化も違う子どもたちとの関わりはどうだった?

森野:ここに来てから、私いわゆる「外国人」って感じの扱いをされたことがあまりないんだよ、子どもも大人も。私フランスに着いたその日に知らない人から道を聞かれたんだけど、それがすごくカルチャーショックで。フランスは人種のるつぼだから、アジア人であっても「外国人」とは少し違うかも。家族以外でも、近所や公園で知らない子どもたちと遊ぶ時も、みんな普通にフランス語でバンバン話しかけてくるし、すんなり一緒に遊んでくれて。壁を感じることは本当になかった。

小川:言葉は困らなかった?

森野:2歳の子の言葉は流石にわからなかったかな(笑)。でも今は全然わかる。たまにお母さんよりも私の方が理解してるときもあるくらい。あ、1回5歳の子にテレビ消すように言ったら「お前フランス語話せないくせに」って言われて、大喧嘩した(笑)。5歳って汚い言葉とか攻撃的な言葉言いたがったりするよね。まあでも彼はまだフランス語読めないけど、私は読めるし。

小川:対抗心あるんだ(笑)

森野:そんな感じで壁を感じることはなくて、むしろ最初は私が壁を作ってしまってたかな。

小川:仕事の内容としては具体的に何をしてるの?

森野:なんでもやってる。洗濯とか料理とか、ちょっとした掃除とか。だから本当に仕事というより、一緒に生活してるって感じ

小川:住み込みのシッターだから、どこからどこまでって仕事の範囲が明確に決まってるわけじゃないんだね。

森野:最初はそれが困ったんだよね。どこまで自分がやったらいいのか分からなくて。でも今は普通に生活してて必要だなって思ったことはなんでもやるようにしてる。仕事だって思って分けないことにした。

―「暴れんぼうのモンスター」
 子どもの説得で伸びた語学力

小川:日本の子どもたちと接した直後にフランスの子どもたちと接して、その印象の違いはあった?

森野:それはもう全然違うよ。あんな規律された天使たちのいた場所からやってきて……。こっちは、暴れんぼうのモンスター

小川:規律された天使たちと、暴れんぼうのモンスターか(笑)

森野:本当に、なんてわがままでなんて暴れんぼうな生き物たちなんだ!って思ったよ。もちろん家の中っていう環境によるところもあると思うけど、すごいのびのびしてる。

小川;具体的にどう暴れるの?

森野:いや、もう、暴れてますって感じ。

小川:(笑)

森野:3歳と5歳は歳も近いから喧嘩して泣いて、おもちゃ取り合って泣いて、シャワー浴びたくなくて泣いて、テレビが見たくて泣きわめいて、叫んで……。

小川:そういうときは叱るの?たしなめるの?

森野:向こうの方が強いから叱ってどうにかなるものでもないし、どうにか誘導するしかないかな。「シャワー浴びたら一緒にこれを見よう」とか、「あなたはこれを使って、あなたはこれを使えばいいんじゃない?」とか。でも最初はそういう説得をフランス語でやらなきゃいけないから、ちょっと大変だったかな。

小川:でも語学の観点から言えば、そういうふうに子どもと関わる環境ってすごく良さそう。

森野:そうだね。子どもを目の前にしてると言葉選びに躊躇する暇がないし、すごく必然性を持って言葉を発するから良いと思う。使う言葉も簡単なものから入れるし、語学学校の先生たちもみんな「オペア留学は良い制度だ」って言ってる。

小川:さっき「暴れんぼうのモンスター」って言ってたけど、以前この連載で鹿児島県阿久根市のこども園を取材したときに、「よい子の条件」(「いたずら、けんか、ふざけ、あまえ、わがまま」のできる子ども)っていうのがあって。子ども目線に寄り添って「よい子」という言葉を逆説的に捉えた、すごくいいものだったんだけど。

森野:読んだ読んだ、いいよね。

小川:ありがとう。森野の話を聞いてると、フランスの子どもたちってそういう環境の中でのびのび育ってるんだろうなと思って。

森野:うん、全部当てはまってると思う。

小川:もちろんその子たちの面倒を見る立場としては大変だと思うけど、子どもにとってはすごく豊かな環境なんだろうなって。

森野:豊かだよ。喧嘩してたりしても、あえて止めなかったりする。やっぱり喧嘩をする中で、力加減を学んだりするから。うるさいし怖いし、たまに巻き込まれて足とか怪我だらけだけど(笑)。でもグッと耐えて、危険のない範囲でなるべく見守るようにしてる。

―寝かしつけに「崖の上のポニョ」
 歓迎会に「聖闘士星矢」

小川:住環境的にもすごく自然豊かで良さそうだよね。

森野:そう。ただ車社会だから、外を歩くときはちょっと怖くてピリピリするかな。あとはテレビ。もう子どもたちはテレビが好きで好きで……。それとゲームも。今はコロナで家にいる時間が長い分、余計に依存しちゃってて。本当にそれが今の敵(笑)。テレビ見たあとって、ちょっと子どもの神経がたかぶって攻撃的になったりするから、親の方針的にも私的にもあんまり見せたくない。

小川:日本のアニメも結構見てるんでしょ?

森野:うん、ジブリとか楽しく見てるよ。歌も大好きで、私今本当に久石譲に感謝してる

小川:どういうこと(笑)

森野:下の子の寝かしつけするときとか、「崖の上のポニョ」を歌うと2周目くらいで寝る

小川:ポニョって寝れるんだ。

森野:ジブリは幅広い年代が楽しめるから、下の子も上の子も見れるのがありがたい。ただ日本のアニメって、特に少年漫画原作とかは暴力的な描写とか性的な描写があって、こっちだとそれがカットされてたりする。

小川:「ドラゴンボール」だったら、亀仙人が出てこないんだってね。

森野:そうそう。子どもに対してそういう表現が規制されてる。そういえば、こっちでは「聖闘士星矢」ってアニメがやたら人気なんだよね……。私が来た初日にも、子どもたちが全員で「聖闘士星矢」の「ペガサス幻想」っていう主題歌を日本語で歌ってくれて。知らない日本の曲をフランスの子どもたちが歌い出したから、すごいびっくりした(笑)

小川:私も知らない(笑)

森野:こっちに来てそういう色々な曲に合わせてピアノの伴奏を弾いてるうちに、耳コピして即興で弾く能力が格段に上がったよ。

小川:森野って体力も語学力もあってピアノも弾けて、実は保育士としてのスキルめちゃくちゃ高いよね。

森野:確かに、「保育士にならない?」てすごい言われる(笑)

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(家の中で遊ぶ子どもたちの様子)

―幼少期からの性教育
 家庭内のオープンな空気

小川:日本の子どもたちって割と男女差が激しいというか、男の子と女の子で育ちの違いがかなりあるじゃん。そういうのって、フランスの子どもたちにも感じたりする?

森野:うん、あると思う。フランスって国柄的にもそんなにジェンダーレスって感じじゃなくて、「女らしさ」「男らしさ」みたいなものが結構はっきりある印象

小川:確かに、言語的にもそうだね。

森野:うん、言語的にも男性形・女性形とかあるし。世界で「#MeToo」運動が起きたときも、フランスってちょっと他の国とは違う反応だったんだよね。大女優が運動に反対したりとかして。あのときは国柄が出てるなって思った。

子どもに関するところだと、性教育はかなり日本と違うかも。割と幼少期から親が子どもに教えてたりする。友達も、「小さいときに親から子どもの作り方を教わった」って言ってた。

小川:それは確かに全然違うね。

森野:あとうちの5歳の子は幼稚園に彼女がいる。

小川:そうなの?!

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