国家を超えたトヨタ

 このほど、トヨタの豊田章男社長が静岡県裾野市に自動運転や人工知能技術を実証する都市「コネクティッド・シティ」を建設すると表明しました。

 明治以降、私企業が街区建設や地域開発に乗り出すことは珍しくありません。街区・地域の規模はバラバラで、都市をまるごと創造するケースもあります。

規模はそれぞれのプロジェクトによって異なりますので、本稿では煩雑になることを避けるため、特定の意味合いを持たせる用法以外では、こうした都市を創造する試みを「都市計画」で統一します。

 都庁をデザインした丹下健三は、単なる建築家ではありません。都市そのものをデザインし、時に東京の都市問題を解決するべく、未来都市の構想を発表していたりもします。

 丹下は事務所を持ち、たくさんのスタッフを抱えています。そうした面から見れば、一私企業と捉えることもできますが、丹下の事務所を私企業と見るのは適当ではなく、むしろ丹下が発表した都市計画は個人プロジェクトと受け止めるのが一般的でしょう。

 つまり、丹下は一個人でも都市計画が可能であることを立証したのです。実際、丹下が構想した都市計画は実現していません。丹下が具現化できたのは建築や公園ですが、これらをトータル的に実現できれば、それはもはや都市計画の範疇になります。つまり、パーツの一片ではあったものの、丹下は確実に都市を創造していたのです。

 トヨタが発表した「コネクティッド・シティ」の建設は、世界のトヨタが国家や地方自治体の力をあてにせず、自力で都市を創造していくことを宣言したことになります。

 古くは渋沢栄一が創業した田園都市株式会社、小林一三の阪急グループなどが私企業ながら都市計画を起こし、そして実践してきました。

 戦後になると、都市計画やまちづくりといった理念は官主導になっていきました。しかし、完全に都市計画やまちづくりが官の専売特許になっているかといえば、そうでもありません。

 トヨタに限らず、パナソニックなども近年になって神奈川県藤沢市などで独自の都市計画を進めています。また、日立グループなどもそうした動きを見せています。

 一私企業が国家を超える日が来る−−そんな未来が私たちを待っているかもしれません。

 下記の原稿は、過去に私が『BX』(メディアックス)という雑誌に2007年に寄稿した原稿です。メディアックスという出版社はすでになく、『BX』の刊行を引き継いだマイウェイ出版も、その後に刊行を取りやめました。

 国会図書館などに足を運べば当該号を読むことも可能ですが、トヨタのニュースを受けて、記事を再掲します。

 13年前の原稿で、当時はまだスマホなどもなく、IT革命と言われた時代を経ながらも、まだITが広く世間に浸透しているとは言い難い状況でした。

 自動運転なる言葉は、マンガやSFの世界で語られるもので、もちろんコネクティッドカーなる概念もありません。当時とは走っている方向は明らかに異なりますが、主題にもなっている「国家を超えたトヨタ 支配される地方自治体」は近づきつつあるかもしれません。

(※改行など再掲にあたって一部改めた部分はありますが、基本的に文章は掲載時と同じです。そのため、現在と状況がそぐわない部分もあります)

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