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もうひとつの被災地 茨城から響く槌音


2020-08-13茨城県アンテナショップ ごちそう御膳1

東京・銀座の茨城県アンテナショップのレストランで供される
「ごちそう御膳」は茨城県産食材の宝庫

6号線を北上せよ

 2011年4月、夜中に東京を出発した私はマクドナルドやガストなど、ロードサード店舗と呼ばれる国道に多く見られる全国チェーンをひたすら見ながら国道6号線を北へと向かっていた。

 目指すは、福島県。言うまでもなく、1ケ月前に起きた福島第一原発事故の現場に行くためだ。とはいえ、原発の敷地内はおろか原発から半径20キロメートルの警戒区域内にも足を踏み入れることはできない。つまり、原発に近づくことはできないのだが、それでも少しでも福島原発の近くに行くという、謎の使命感から深夜の国道6号線を北上した。

 夜中ということもあり、道路は空いていた。土浦市ぐらいまでは店舗も多く、以北は店が少なくなる。

 それでも日立市あたりまでは深夜営業をする店をいくつか目にした。国道6号線には、すき家と日高屋が多いんだなぁなどと、のんきなことを思いながら車を走らせていた。

 茨城県境を越えて福島県に入ると、目の前の道路は漆黒の闇に包まれた。明らかに、これまでとは異なる空間がそこにはあった。

 以降、断続的に福島県を中心に宮城県、岩手県、青森県など、東日本大震災の被災地に足を運んだ。

 東日本大震災は地震による土砂崩れや家屋の倒壊とその後に起きた火災、そして津波と浸水被害、さらに原発事故。これら3つが重なりあって、地域によって被災状況は異なっていた。

 東日本大震災の被災地は広範囲に及ぶ。それこそ、北海道にも津波は押し寄せている。千葉県の浦安市だって液状化で家屋に被害が出ているし、東京の湾岸エリアでも工場火災が発生している。

 東北3県の被害が圧倒的に大きな被害を出していることに異論はないが、だからといって東北3県だけが被災地というわけではない。それでも、繰り返し足を運んだのは東北3県だった。

 しかし、自動車や鉄道で移動すれば、途中のエリアにも立ち寄ることはできる。時間に都合がつく限り、寄り道して東北3県以外のエリアも見て回っていた。

 そんな被災地行脚を続けていても、発災から3年も経過するとニュースバリューがなくなり、仕事として成り立たなくなってくる。いわゆる風化ということなのだが、特に東北3県以外はまったくと言っていいほど震災後の報道がなくなった。

 みんな忙しい。忌まわしい記憶を忘れたい。もう前に向いて歩き始めている。新しい生活を始めている。そんな気持ちがあるのもしれない。

 現地の人には忘れたくても忘れられない出来事だし、いまだに自宅に戻れない住民もいる。なかには、現地の生活歴よりも避難生活地の方が長くなってしまった〜という人だっているかもしれない。それでも故郷であることは動かない事実だ。

 2014年には、被災地のシンボル的存在だった三陸鉄道が全線復旧を果たした。被災地は着実に前進している。昨年の台風19号によって三陸鉄道は線路が流出し、そのせいで一時的に一部区間の運休を余儀なくされたが、それも半年ほどで再開した。

 東日本大震災の被災地において、もっとも復興が手付かずだったのは言うまでもなく福島第一原発の一帯だった。そもそも人の立ち入りが大幅に制限されていたのだから、復興を進めようにも進められない。

 津波で線路を流出させた常磐線は、福島県浜通りの重要な移動手段だが、それもほぼ復旧。残すは福島第一原発周辺だけで、それも再開のメドは見えていた。そして、2020年3月に常磐線も全区間で運転を再開する。こうして、一応のところ見た目だけは東日本大震災から復興を遂げた。

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宮城県石巻市の日和山からの景色。中央奥は石巻市立病院(現在は移転)

忘れられた被災地

 常磐線が全線再開する直前、私は茨城県日立市にいた。これは別件の取材が入っていて滞在していたからなのだが、その後も縁があって茨城県日立市・北茨城市に関する取材を続けて、記事化した。

デイリー新潮

2020年3月21日配信

“東日本大震災から9年 ついに全面復旧した常磐線を愛した文士たち”

マイナビニュース

2020年3月19日配信

“あの駅には何がある?第20回 鉱工業都市の残り香を漂わせつつも、新たに生まれ変わる日立駅(JR常磐線)”

アーバンライフメトロ 

2020年3月30日配信

“日本近代美術の父・岡倉天心と4月開催「ボストン美術館展」を結ぶ知られざる深い関係とは”

 このほかにも、日立市つながりで妹島和世さんの記事を書いたりもしている。

NEWSポストセブン

2020年3月15日

“西武鉄道 女性視点で開発した新型車輌が看板列車になるまで”

アーバンライフメトロ

2020年6月6日配信

“西武新型特急「ラビュー」のデザイナー・妹島和世がつむぐ東京建築の世界とは”

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