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小説:バンビィガール<2-3>壮絶なコンテストバトル #note創作大賞2024


 3月24日。
 Webバンビィで公式に最終選考メンバー8名の名前が発表される、投票開始の前日。
 会員制SNSの地域コミュニティへの応援お願いに管理人の方にメッセージで挨拶したり、スマートフォンに入っている連絡先のほとんどに投票のお願いを送信したり。
 投票のお願いを文章にするのがまた難しく、私が書いた文章は「堅すぎる!」とミクにダメ出しされ、ミヤコから「こうしたらどうやろ?」と絵文字の多めな柔らかいタッチの文章を作ってくれた。本当に友達の存在はありがたい。
 
 そんな中、一本の電話が私にかかってきた。
「もしもし」
『もしもし、紺野さんのお電話でお間違いないでしょうか?』
「はい、紺野です」
『私、月刊バンビィ編集部の三橋みつはしと申します。今お時間大丈夫でしょうか?』
「はい、大丈夫です」
『急で申し訳ないのですが、3月30日はお時間ありますか?』
「あ、手帳出すので少々お待ちください」
 パラパラと手帳をめくって確認。3月30日は特に何も予定が入っていない。
「確認したところ、一日フリーです」
『ああ良かった! 実はその日にケーブルテレビの生放送番組があるのですが、最終選考に残った皆様に出演していただきたいと思いまして』
「え!!」
 ……今、絶対変な声出た。やば。
「失礼しました。是非出演させてください」
『ありがとうございます! それでは16時45分に近鉄の東生駒駅の改札でお待ちしております』
「わかりました、ご連絡ありがとうございます。失礼いたします」

 電話を切った私は放心状態だった。
 と、とうとうライバルたちと顔合わせするのか……。
 私は正直心の準備ができていなくて――というより、今まで投票準備に追われていたせいか現実的に考えていなかったため――ややパニックになる。  
 そして失敗できない生放送ときたもんだ。どうしよう、どうしようと会員制SNSにこう呟いた。

【20XX年03月24日17:55:テレビ出演決定だよ!(一部の友人まで公開)
 えー今、バンビィの編集部から電話がありまして

 なんかテレビに出るみたい、私(他人事かい)。

 投票1日前なのに、パニック半端ないっす。タスケテー。】

 同じような内容を連合軍コミュニティにも書くと、参加者たちから「いけいけ」「爪痕残せ!」という煽りを受け、完全に高みの見物状態。
 もう少し気を遣ってくれないかな君たち……まあ無理な話だけれど。
 
 3月25日、お昼の12時。とうとう投票受付スタート。
 そしてバンビィ4月号発売日。
『第8期バンビィガールオーディション』という大きな文字と、巻頭見開き二ページに渡って私たちを紹介してくれているのだけれど、プロフィール欄の年齢のところがどうしても気になる。

<ファイナリスト一覧>
1:鈴川理音すずかわりおん(24)
2:浜村凛はまむらりん(22)
3:山田晴香やまだはるか(19)
4:藤田咲良ふじたさくら(20)
5:紺野こんのあおい(27)
6:村上由麻むらかみゆま(23)
7:澤田夢月さわだむつき(21)
8:深瀬愛奈ふかせあいな(20)

「ま、予想通りというか、エントリー者の中で最年長やね」
 近所の本屋やコンビニに尋ねると売り切れてしまったらしく、我が家の行きつけの居酒屋のママさんがゲットしてくれたバンビィ片手にケラケラと笑っているお母さん。
「分かってることを言わんとって」
「でも、一番可愛いと思うで? 親馬鹿やろか」
「あーはいはい。私は忙しいので部屋に戻らせていただきます」
 私が部屋に戻ろうと背を向けると、余計にお母さんが笑いだした。本当に娘に失礼な母親だな、と思う。

【20XX/03/25
 こんにちは! 紺野あおいです。
 本日は月刊バンビィ4月号の発売日です!
 皆さん、もうお手に取っていただけたでしょうか?
 私がちゃんと載っています!(載っていなかったらどうするんだ)
 ぜひぜひこの機会に「バンビィナ」への無料登録、そして投票をお願いいたします!
 今月号は桜特集。またお花見いきたいなあ☆
 #紺野あおい
 #月刊バンビィ
 #バンビィガール
 #バンビィガールコンテスト
 #奈良】

 Webも本誌もプロフィール欄の項目は同じ(誕生日、血液型、身長、職業、趣味、自己PR)で、Webの方が更に動画をプラスして特集してくれている。
 スタートダッシュは上々で、現在1位。自分の画像の上に金色の王冠が乗っている。
 しかし、同時に公開された動画第一弾を見て、自分の顔が引きつり、青ざめていくのが分かった。

 思い出すカメラテストの日の悪夢。
 ――く、暗っ! テンションひっく! カメラ慣れ全然してないドシロウトなのは当たり前といえば当たり前なのだけれど。
 動画第一弾はカメラテストの撮影風景を撮影していて、インタビューに答える私の声がナレーションで入っている方式だった。普段通りならもう少し明るいはずなのに、緊張しすぎて声が小さくて暗い。嗚呼、情けない。
 動画の最後は、私のぎこちない笑顔のアップにナレーションが乗っていた。
『生まれ育った奈良に恩返しができるバンビィガールになりたいです』
 その部分だけはハッキリと聞こえた気がする。気がするだけで気のせいかもしれないけれど。

『及第点、やな』
「やめてください、先生。自分が一番良く分かってますから……」
 動画を見たという柳先生からの電話がかかってきたのは、夜の10時を回ったところ。
 連合軍コミュニティは「ぶっちぎりの一位!(年齢が)」「わはは! 動画、緊張しすぎ!」「最終選考の全員の中で、あなたが一番だ(と思う、根拠はない)」などと雑談で盛り上がっていたので「うるせーい!」と文句を書き終わったところだった。
『出足は好調、やけど他陣営がどう動くかはまだ分からんな』
「そうですね、注視しています」
『一応、毎日の夜12時までの得票数はまとめておくから』
「え! そこまでしてくださらなくても」
 私が先生にそれは恐れ多いと思い、止めようとした。
『お前は自分の活動に集中しろ。夢なんやろ。データぐらい俺が取ったる』
 その言葉に、丸まっていた背筋がピンと伸びた。
「は、はい。夢、叶えます!」
『よろしい』
 その言葉に思わずあはは、と笑ってしまう。
 私は一生先生に頭が上がらないんだろうなあ。
『あとはそうやな、多分自分でも分かってると思うけど……』
「楽しめ、ですよね?」 
『お、紺野、今日は冴えとるな』
「失礼な」
 先生の言葉に思わずむくれつつも、すぐに笑いへと変わっていった。

 こんな会話をしている間も投票はされていて、気が付けばあっという間に100ポイントに到達していた初日だった。

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