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小説:バンビィガール<2-4>壮絶なコンテストバトル #note創作大賞2024


 3月30日。
 投票が始まってから5日。一応首位をキープしたまま、テレビ出演の日を迎えた。
 テレビで着用する衣装選びでミク、ミヤコと吟味し、テレビ映えも意識して、スタイルが良く見えるベビーピンクのワンピースを選んだ。
 ヘアスタイルもゆるく巻き髪にして、年齢を誤魔化す作戦。無駄な足掻きかもしれないけれど。
 多少年齢詐称できた自分を、スマートフォンのインカメラで撮影する。

【20XX/03/30
 こんにちは、紺野あおいです!
 毎日たくさんの投票ありがとうございます!
 本日18時からNRチャンネルの「NRワンダフル」略してNワンの生放送に出演しちゃいます!(観れない地域の皆様、申し訳ございません)
 めちゃくちゃ緊張しています。他の最終選考メンバーも一緒です!
 頑張るぞー!
 #紺野あおい
 #バンビィガール
 #バンビィガールコンテスト
 #NRチャンネル
 #Nワン
 #NRワンダフル
 #奈良】

 指定された東生駒駅の改札で待っていると、『それらしき集団』が見えたので、事前に電話番号を伺っていた三橋さんへ電話をかけながら近づく。
「もしもし、お世話になっております。紺野あおいです」
『お世話になっておりますー。三橋です。到着されました?』
 という声がサラウンドで聞こえてきたので、この集団だと分かった。
 スマートフォンを耳から離して、声の主へ呼びかける。
「三橋さんでしょうか?」
「あ、紺野さんですか? はじめましてー、三橋です」
 三橋さんはニコニコ笑顔が似合う、スリムのデニムパンツが似合う上品なお姉さんだった。
 その周りに、数名いるのは。
「紺野さんだ! え、待って可愛い!」
 そう叫んだ女の子はエントリーナンバー3番の最年少、山田さんだと一目で分かった。バッチリメイクを決めた彼女はお肌が綺麗で、とても可愛らしい女の子だ。
「はじめまして、紺野あおいです。本日はよろしくお願いいたします」
 そう言って他の女の子たちにも頭を下げて挨拶をする。
「よろしくお願いします!」
 集団で丁寧にお辞儀して挨拶してくれる。感じのいい子たちばかりで、最年長の私の気持ちはさながら保護者だ。

「じゃあ、テレビ局に向かいましょうか」
 三橋さんの先導で、私たちは地元のケーブルテレビ局へ向かう。
 今日はエントリーナンバー4番の藤田さん、エントリーナンバー6番の村上さんが都合で出演できないらしく、6名が揃っている。
 初めて入ったテレビ局はカメラが4台設置されていて、スタジオも思っていたより広く、所詮地元のケーブルテレビ局だと高を括っていた私は反省と少しの緊張に襲われた。
 心落ち着かせるためにメイク直しでもしようかと、ジルスチュアートビューティーのファンデーションコンパクトを出した時だった。
「紺野さん、ジルお好きなんですか?」
 そう話しかけてきたのは、隣に座っていたエントリーナンバー2番の浜村さんだ。可愛いのは大前提として、人柄の良さが表情に滲み出ている。
「はい! ジル大好きです。浜村さんは?」
「私も可愛いものが好きなので、ジルのコスメはチェックしちゃいますね」
「わかるー、お店行くだけで幸せな気持ちになれちゃいますよね」
「そうだ、紺野さんに訊きたいことがあったんですけど」
 浜村さんがニッコリから真剣な眼差しを私に送ってきたので、軽く構えてしまう。
「なんでしょう?」
「動画の第一弾を見て、紺野さんのお話の仕方がすごく流暢で綺麗で……どうやったら綺麗に話せるようになりますか?」
「え! あの動画は割と失敗してるんですよ」
「全然! 私の友達も言ってました、5番の人感じがいいよねって」
「それはとてもありがたい……ご友人にありがとうございますとお伝えください」
「あはは、わかりました。何かコツってあるんですか?」
「私、実はアナウンススクールに通っていたんですよ。なので発声は毎日しています」
「発声か、なるほど」
 和気藹々と浜村さんと話していると、一際大きな声がスタジオに響く。
「バンビィガール候補のみなさーん、リハーサルはじめまーす」
 その声に、私たちの表情が固まった、気がした。
「どどどどどどうしましょう」
 浜村さんが明らかに動揺している。
「大丈夫ですよ、な、なるようにしかならないですよ、うん」
 私は自分に言い聞かせるように、浜村さんに呟いた。私も動揺している。落ち着け私。深呼吸だ私。

 生放送前のリハーサルが始まる前に司会の方がスタジオ入りして、私たちに「今日はリラックスして挑んでくださいね」と話しかけてくれた。
 そしてスタッフの人の掛け声。
「リハーサル始めます! 5、4、3、2、1」
 軽快なメロディがスタジオを包み、中央のカメラのランプが赤く灯る。
「こんばんは、今日もNワン始まりました! 司会の西岡です」
「こんばんは、もっちーでーす」
「今日もエンタメ情報満載でお送りします! 一時間楽しんでくださいねー」
「にっしー、今日いつもよりおしゃれちゃう? 気のせい?」
「そりゃあ、気合い入りますよ。だって今日は、スタジオが華やかなんですよね」
 西岡さんが笑顔で、カメラに向かって柔らかい関西弁で話している。
「スタジオの平均年齢が確実に下がってるもんね。私ら二人やと平均年齢上がる上がる」
 もっちーさんが豪快に笑う。
 すみません、華やかじゃないし、恐らく私が平均年齢を上げていると思います。
 心の中で、お二人に謝罪した。

「なんと、月刊バンビィのイメージモデルを決めるバンビィガールオーディションのファイナリストの皆様に来ていただいております! どうぞ!」
 その声に、ADさんらしき人が手合図で「こちらへ」と私たちを促す。私たちは上手かみて側からエントリーナンバー順に入っていき、司会進行の席の後ろに設けられたスペースへ並んでいく。
「みんな、今月号のバンビィ買った? 買っていない人のために、じゃーん」
 そう言って、私たちが見開きで掲載されているページを開いて、カメラがそのページを拡大しているのが司会席前にあるモニターで分かる。
 思ったよりもスタジオの照明は暑く、さっきお直ししたはずのお化粧がよれるのではと思うくらい、汗が滲んできた。
「それじゃあ、自己紹介していってもらいましょう!」
 1番の鈴川さんから順に簡単な自己紹介をしていく。皆堂々としていて、浜村さんもスラスラと自己紹介している。
 アナウンススクールに通っていた真価が問われる。手汗がやばい。
 私の両隣の番号の二人は欠席であることを西岡さんが伝えた後、私の番がやってきた。隣にいた三番の山田さんからマイクを受け取ると、カメラに向かって第一声。

「きょんの、あ、こんのあおい、27歳です。と、特技はイラストを描くことです。よろしくお願いいたします!」

 ……自分の名前噛むやつ、いるー!?
 スタジオにいた皆がクスクスと笑っている。もっちーさんに至っては「自分の名前噛むほど緊張してるんやね、わかる、わかるよー」とフォローしてくれる。

 リハーサルで、良かった。これ見てる人いたら、いい歳して噛んでるやん、って思われる。

 次のコーナーのリハーサルにうつるので、私たちは一旦退場。
 噛んだのは仕方ないけれど、いや、ナレーションスクールに通ってるって言って噛むってどういうことやねんと情けなくなる。
 それに参加している皆の特技に比べて私の特技は薄い。もっと奈良に絡んだ特技……。
 ――あ、そういえば、あった。
 奈良でしかできなくて、しかも特技と言ってもおかしくないもの。
 ただ、今は感染症対策で利用できなくなっているはず。それでも聞く側に与えるインパクトは大きいはずだ。
 私はギュッと右手で拳を作った。

 18時。生放送スタート。
 さっきのリハーサルと同じように、スタッフさんの合図で番組セットに整列して、その時を待った。
 皆リハーサルと少しずつ自己紹介を変えて、スタジオの笑いを誘ったりしている。流石ファイナリストだ。
 そう、私もファイナリスト。最終選考に残った者だ。ここで何かを残さないと、票に繋がらない。
 マイクを受け取ると、赤いランプのカメラの向こうの『大切な人たち』を想像して、話しだした。
「こんばんは、最年長ファイナリストの5番、紺野あおい27歳です。特技は、東大寺の柱の穴を1秒ちょっとですり抜けられることです」
 この言葉に司会のお二人がバッ! と私の方に振り返った。
「いちびょう!? すごない!?」
「あの柱の穴、めちゃくちゃ小さいよね?」
「ちょっとしたコツがあるんですけど、コツを掴めばスルッといけますね」
 私はお二人にそう言いながら微笑んだ。
 いつかの休日、ミクと東大寺に行った時にチャレンジしてスルリと成功したことを思い出したのだ。十二分に奈良らしいエピソードだ。自己紹介時間は短いので説明できないけれど、東大寺の本殿にある柱の穴は厄除けで有名。その穴は大仏さまの鼻の穴の大きさだと言われている。
 ……噛まずに言えた、よかったー。
 頭の中は安堵安堵でいっぱいになっていた。

「あれ、皆さん帰る方向一緒なんですね?」
 無事に生放送を終えて、三橋さんと別れた東生駒の駅のホーム。「お先に失礼します」と生駒に住んでいるという鈴川さん以外の5名が奈良方面の電車を待っていた。
「私は近鉄奈良まで一本なんです」
 エントリーナンバー八番の深瀬さんが、八重歯を見せて笑いながら答えてくれる。
「私は高の原なので、皆さんとは西大寺まで同じ電車ですかね?」
 微笑みながら言ったのは、エントリーナンバー七番の澤田さん。高の原は奈良と京都の府県境にある近鉄京都線の駅。
「私、ちょっと遠くて。大和高田やまとたかだなんですよね」
 浜村さんが苦笑すると、山田さんが「え! うそマジ!? 私も!!」と食いついた。大和高田は奈良の中部に位置する街で、割と栄えている。
「あ、じゃあ私が一番遠いかも」
 意外にも私が一番遠い場所から東生駒まで来ていたようだった。
「え、紺野さんってどちらなんですか?」
 浜村さんが私に問いかけてくる。
香芝かしばです。浜村さんと山田さんとご近所かな、しょっちゅうトナリエ通ってるし」
「トナリエ!!」
 私の言葉に浜村さんと山田さんが爆笑している。
 トナリエとは、大和高田駅前にあるショッピングセンター。洋服やペット用品など、割と紺野家がお世話になっている場所でもある。
 私が住んでいる香芝は大和高田のお隣、大阪との府県境にある街で、ごくごく平凡なベッドタウンだ。
「あ、そうだ。良かったら皆さんで写真撮影させてもらっていいですか? SNSにアップしたいのですが」
 今日の想い出に、このメンバーで写真が撮りたくなったので尋ねると「いいですよ!」と全員が快諾してくれた。なんていい子たち!!

【20XX/03/30
 こんばんは、紺野あおいです。Nワン、ご覧いただけたでしょうか?
 私は家に帰ってから録画を観たいと思います。観るのが怖いですが(笑)。
 ご厚意で最終選考メンバーとお写真撮っていただきました☆
 メッチャ可愛い! 写真よりも実物の方が何倍も可愛くて可愛くて眼福でしたよ(笑)。
 皆、ベストを尽くそうね!!
 #紺野あおい
 #バンビィガール
 #バンビィガールコンテスト
 #NRチャンネル
 #Nワン
 #NRワンダフル
 #奈良】

「ただいま」
 家に着くと、お母さんが玄関先まで出迎えてくれた。
「お疲れさま、テレビ観たでー」
「どどど、どうやった?」
「アンタ、ちゃんと化粧した? 顔テカってたで」
 お母さん、キツイ。
 まるでパンチを食らったかのように心へのダメージが半端ない。
 娘、頑張ったんですよ? テカリぐらい許してくれませんか。
「でも、一番可愛かったんはアンタやから安心し! あ、ちゃんと録画してるから」
「そういう問題ちゃうんやけどな……録画ありがと、あとで観るわ」
 皆可愛かった。でも可愛いだけじゃダメなんだ。
 どれだけ『奈良が好き』で、どれだけ『バンビィガールになりたい気持ち』が強いか、それが勝敗を分けると思っている。この一ケ月、芯さえブレなければやり遂げられる。
 だってほら、と私はスマートフォンを右手で操作する。
 恐怖すら覚える通知の数、と言っていいのだろうか。95件と表示されている。
 話が盛り上がりすぎて帰り道にチェックできなかったメッセージアプリを開くと、大量のメッセージたち。
『アオ、かわいかった!! ワンピースも似合ってたよ♪』はミヤコから。
『アオのしゃべり、達者ですごい! 家族で正座して観てたで』はミクから。
 意外にも興味のなさそうだったアキヒロから『お疲れ様、大変やったやろ。今日はゆっくり休めよ』とメッセージが来ていたのには驚いた。
 きっと大丈夫。これだけ味方がいるんだから。

 お行儀は悪いけれど、食事をしながら録画してくれていたNワンを観る。確かに顔がテカっている。しかも私だけ!! 思わず天を仰ぐ。メイク直ししたのに流石テレビ局の照明機材、家庭用と比べて威力が違うんだろうなと思った。ただ、テカってるだけで化粧崩れがひどいとかの大問題ではなかったので安心した。ありがとう、ジルスチュアート。
 Webバンビィにアップされている動画第一弾と比べたら、表情なんかはまだマシかもと思ってしまう。今日は私自身のコンディションが良かったのだろう。気にしている丸顔があまり強調されない髪型をしていってよかったなあ、などと呑気なことを考えながら夕食のカレーライスを食べた。


第6話はこちらから↓


第1話はこちらから↓


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