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小説:バンビィガール<4-1>生放送とイベントとアクシデントと #note創作大賞2024

【20XX/05/27
 こんにちは、紺野あおいです!
 今日は告知です!
 明日5月28日はNRチャンネルの「NRワンダフル」略してNワンの生放送にゲストとして出演いたします!(観れない地域の皆様、本当に申し訳ございません……)
そしてその5日後の6月2日には月刊バンビィ主催「奈良・うまうま市」のイベントステージに登場しちゃいます!(うまうま市は雨天順延です、詳細は画像参照)
 皆様とお会いできるのを楽しみにしております!!
 #紺野あおい
 #バンビィガール
 #NRチャンネル
 #Nワン
 #NRワンダフル
 #月刊バンビィ
 #奈良うまうま市
 #奈良】

「ねえねえ、お母さん。この格好変ちゃう?」
「変ちゃうで」
「ホンマかなー」
「お母さんの言葉を信用しーよ」
 お母さんが呆れている。
 次のテレビ出演が迫ってきているので、その時に着る服を選んでいる途中だ。正直、服選びだけは避けたい作業だ。元々冴えない人間なので、正解が分からないのだ。誰かに変じゃないかどうかを聞かないと不安で仕方がない。
「髪型はどうすんの」
「うーん、ヘアバンドしようかなって」
 白地にカラフルなドットの布地のヘアバンドを見せると「ええんとちゃう?」とお母さん。
 シンプルなブラックだけれど胸元に白地のリボン、袖の白フリルが甘さを出す七分袖チュニックに、真っ白な綿素材のフリルスカートを合わせる予定なので、ちょっとしたアクセントが欲しかったのだ。
 髪の毛は下ろすか、まとめるか。その辺りは明日の気候に合わせようと未定にしている。
 夕食後お風呂に入ったあと、スペシャルケアのパックをしながら柔軟体操。こういう時YouTubeの存在はありがたい。プロの先生のストレッチ動画を見ながら開脚。
「あいででで……」
 身体は柔らかい方ではないので、股関節周りを重点的にストレッチする。あとは脚だ。気休めかもしれないけれど、脚痩せに効果的なマッサージもやってみる。
 スマートフォンをいじるのもそこそこに、美容のため早寝を心掛けている。

 翌日。真夏のような暑さ。
「次は県内のダムの貯水量が減り続けているニュースです」
 テレビのニュースが県内のダム貯水量について伝えている。
 確かに最近雨が降っていない。いいお天気が続いているけれど、水不足は困る。
 今日は髪の毛アップにした方がいいかな、などと思っていたら。
「近畿地方でゲリラ豪雨です」
 お昼のニュースは各チャンネル、その話題だった。
 この雨はすごい。家の中にいても雨音がちゃんと聞こえる。風も物凄くて、近所の駐車場のシャッターがガタガタと音を立てている。
 そもそも電車動くのか、これ。というぐらいの大雨なので17時からのリハーサルにまでは落ち着いてほしいなと、窓の外の雨を見ながら何事も起きませんようにと祈る。
 
 そしてゲリラ豪雨が暑さを連れて行った15時半。外は涼しく、空は雲一つない。少しだけ風が強いけれど、問題はなさそうだ。髪の毛は下ろしていくことにして、予定通りの電車に乗り東生駒駅まで向かった。

 改札には三橋さんが片手に傘を持って待っていてくれた。
「お疲れ様です、三橋さん」
「あおいちゃん、お疲れ様! 雨大丈夫だった?」
「はい、うちのエリアは電車も遅れることなく走ってました」
「こっち山沿いすぎるくらい山沿いでしょ? さっきも少し降ってたの」
 生駒山が今にも迫ってきそうな土地柄を考えると天気が変わりやすいのは当たり前の話で、香芝で晴れていた空は東生駒ではどんよりと曇っていた。
「ゲリラ豪雨、怖いよね」
「南部のほう、心配ですよね」
「台風来ると崖崩れもあるしね」
 南部は山が多くて、台風が奈良県に直撃することは少ないのだけれど、ひとたび直撃すると甚大な被害を受ける。十数年前、私が学生の頃にあった台風被害もひどいものだった。
 ゲリラ豪雨、何事もありませんようにと心の中で祈る。
「じゃ、行きましょう」と三橋さんに連れられて、NRチャンネルの関係者入り口から入る。

 嗚呼、懐かしい。
 まだ2ヶ月も経っていないのに、このスタジオが懐かしく感じられる。あの時は緊張でどうなるかと思ったけれど。
「お疲れ様です、月刊バンビィです」
「あー! ミツハッシー! おつおつー」
 もっちーさんが元気良く挨拶をする。
持田もちださん、真希まきさん、お疲れ様です」
「三橋ちゃん、ちゃんと食べてる? ちょっと痩せすぎとちゃう?」
「かなり食べてますよ? 最近お腹が出てきちゃって」
「全然目立ってへんよ?」
 三橋さん、司会のお二人と仲良しなんだな、と会話のやり取りを聞いていたら
「あ! 東大寺の柱の穴の子やんね」と西岡さんが気づいてくれる。
「はい、先日はお世話になりました。紺野です」
 改めて自己紹介し、頭を下げる。
「この度はおめでとうございます」
「あおいちゃんやんね、おめっとー」
「あ、ありがとうございます!」
 お二人におめでとうと言われて、とても嬉しくなる。
「実は私、最終日リアルタイムで投票の様子みてたんよ」
「本当ですか!?」
 西岡さんの言葉に、心底びっくりする。どれだけの人があの投票を見ていたのだろう。
「すごかったねー。三橋ちゃんたちもハラハラしたんじゃない?」
「正直誰がなってもおかしくなかったですね」
 三橋さんは、いつも公平な人だ。なれなかった人たちの気持ちもちゃんと汲んで言葉を選んでいる。
 そう、私にすこしだけ『運』があったから、あの2票差が生まれたのだと思っている。
「そうだ、あおいちゃん。あおいちゃんってアナウンススクール通ってたよね?」
 何かを思い出したかのように、三橋さんが私に振る。
「はい、1年ちょっとですが」
「真希さ……西岡さん、そのアナウンススクール出身なんですよ」
「え! じゃあYOUユーですか?」
「そうそう、YOUにいたんよ私」
 なんという奇遇。YOUは私が通っていたアナウンススクールの名前。担当の講師の方も一緒だと分かり、その話で盛り上がる。
「もっちーもこう見えて、講師やってるんよ。YOUではないけど」
「こう見えて、ってなんよ」
「もっちーさん、講師なんですね。すごい!」
 関西弁バリバリで話すもっちーさんが講師なのは意外だったけれど、確かにおしゃべりが上手なのは、そういうことかと納得する。
「じゃあ原稿の下読みしましょうね」と西岡さんに言われて、私たちはスタジオの隅にあるソファ席で下読みを始めた。
「うんうん、いい感じ。抑揚もイントネーションもばっちりです」
 西岡さんに褒められて「ありがとうございます」と言うと、もっちーさんがちょっとした忠告。
「リハではできても、本番うまくいかんこと多いから。気にせんと続けてや」
「はい!」
 下読みを終えて、まだ時間があったのでメイクタイムにする。
 今日こそはテカらせないぞ、とジルスチュアートの新作ファンデーションで顔のテカりを抑える。少しオーバーなくらいがちょうどいいのだと、この間のヘアサロン撮影で分かったから。
 リップもジルスチュアートの新作。可愛くてちゅるんとした唇に仕上げてくれる。
「今日はいつもより気合い入ってる感じ?」
 三橋さんに訊かれたので「前回私だけがテカっていたらしいので、それを防ぐために塗りたくってます」と答えると、三橋さんが「そんなに気にしなくてもいいのに」と苦笑いを浮かべていた。

 リハーサルは本当に軽く終わり、本番の18時まであと少し。
 これまたジルスチュアートのヘアミストで髪の毛を整える。ホワイトフローラルの香りで気合いが入った。今日はうまくいくような気がした。

 指示された席に座り、右隣の西岡さんが「よろしくね」と小声で言ってくれる。私は「はい」と小さく頷いた。

 本番まで5秒前、4、3、2、1――。
 中央のカメラに赤い光が灯る。
「こんばんは! はじまりました、Nワン! 司会の西岡です」
「もっちでーす。そして?」
「こんばんは、第8期バンビィガールの紺野あおいです」
 カメラに向かって、にっこり笑顔を向ける。
「ようこそいらっしゃいましたー!! おめでとー!」
「おめでとー! めっちゃすごかってんやろ? 投票」
「最終的には1万票越えの争いだったそうですよー」
「1万! すごいな!」
「私も最後は本当にどうなるか分からなくてハラハラしていました」
「そらせやな、自分があのバンビィガールになれるか! っていう仁義なき女の戦いやもんね」
「もっちー、言い方」
「失礼しました。今日はこの三名で一時間生放送! 最後まで要チェキやでー」
 CMでーす、という声にホッとする。
「紺野さん、イントネーションが全然関西弁ちゃうよね? 最終選考の時も思っててんけど」
 西岡さんが不思議そうな表情で私を見ている。
「なぜか敬語になると関西弁が消えてしまう病でして……」
「病って!」
 もっちーさんがケラケラと笑う。
「大体ゲストの人たちって私らの関西弁につられて、いつもどおりって感じになるんやけど、紺野さんはならんよね」
「つられないですねー。自分でも良く分からなくて」
 談笑していると「CM終わりまーす」の声。
その声に、司会のお二方の表情がカチッとスイッチを入れたかのように変わる。やっぱり、プロってすごいな。私の背筋がスッと伸びた気がした。

 ――今回は噛むこともなく、私の担当だったイベント告知も無事に終了。顔のテカりは無事かどうか謎だけれど。
 
「ありがとうございました!」
「また遊びに来てね」
「ファイトやで、バンビィガール!」
 お二人に見送られて、私と三橋さんはスタジオを後にした。

「そうそう、あおいちゃんに渡したいものがあって」
「なんでしょう?」
 大きな封筒から出てきたのは、A3サイズに引き伸ばされたバンビィ6月号の表紙の私の写真と、ヘアメイクされた私の写真。一枚のメモが入っていて
『バンビィガールデビューおめでとう。記念にどうぞ。また一緒にお仕事できるのを楽しみにしています。沢渡』
 と、ちょっと癖はあるけれど達筆な文字で書かれていた。
「沢渡さん、やることが憎いのよね」
 三橋さんが眉を顰めている。
「あはは、ちょっと分かります」
 私が笑うと、顰めていた眉を八の字にして三橋さんが写真を優しく見つめる。
「でも、その写真は本当に素敵。妄想族はモデルとの親和性が高いのかもね」
「親和性、ですか」
「うんうん、そう思う」
 そこまで考えたことはなかったけれど、妄想で色々と思考を飛ばせるのはモデルというお仕事をする上で相性がいいのだろう。三橋さんの言葉に少し自信がつく。
 じゃあ編集部に戻りますか、と二人で東生駒駅から電車に乗る。編集部のある大和西大寺は奈良方面に向かって東生駒から4つ目の駅だ。
 今日はこの後、「奈良うまうま市」のイベント打ち合わせがある。

「お疲れ様です、戻りました」
「おかえりー」
「お邪魔します」
「あおいちゃん、お疲れ! いい感じやったよー」
「矢田さん! 観ててくださったんですね」
 うん、と矢田さんが夜食であろうパンを頬張っている。編集部には私と矢田さんと三橋さんしかいない。
「皆さん、もう帰られたんですね」
「7月号の目処がついたからね、早く帰れるときは帰る。これ鉄則」
 頬張っていたパンはどうやらクリームパンだったらしく、口の端っこにクリームをつけた矢田さんが説明してくれる。ペロリ、とクリームを舐める矢田さんが可愛い。
「さてと、うまうま市やねー。天気予報は晴れだから大丈夫やと思うけど、今日みたいなゲリラ豪雨は避けられないねー」
「ちなみにうまうま市に出店するお店って何店舗ぐらいなんですか?」
 全然見当がつかなくて矢田さんに尋ねる。
「30くらいやっけ、渚さん」
「ですね。32店舗の予定です」
「で、ここね。この駐車場を借りたんよ」
 矢田さんがタブレットで地図を表示させる。
 そこは奈良でも屈指の渋滞ポイントの交差点から程近い場所にある家電量販店の駐車場だった。確かにここの広い駐車場なら32店舗出店も余裕だろう。
「この電気屋さんの駐車場、電車使うとなると最寄り駅から30分以上歩くことになるんよね。でもバス停は目の前やから、微妙に不便ってところかなあ。我々が駐車場押さえてるから、公共交通機関利用推奨とは書いてるけど」
「そうですよね」
「私が迎えに行けたらよかったんだけど朝が早すぎるから、あおいちゃんの出番まで待たせちゃうかもしれないし、今回は……」
 三橋さんがものすごく申し訳なさそうに言うので「大丈夫です! なんとかしますので」とお伝えする。バス停があるのなら大丈夫だろう。
「イベントステージでバンビィガールお披露目会をやる以外は自由やから、好きなお店回ってもらっていいし、イベントステージ見ててもいいし、もし良ければバンビィのブース手伝ってくれてもいいし。楽しんでもらって全然OK」
「バンビィも出店するんですか?」
「わたあめでね。子供向け」
 わたあめ、楽しそう!
 昔、わたあめ機を持っている友達がいて、よくわたあめパーティしたっけ。
「へえ、お手伝いしたいです!」
「ノーギャラやで? わたあめは食べ放題やけど」
「あはは、承知しました」
 その後も色々な段取りを聞いて、家に帰ったのは22時を過ぎていた。

「ただいま」
「おかえり、遅かったな」
「お母さん、私、顔テカってた!?」
「うん、少し」
 その言葉で膝から崩れ落ちる。あれだけメイクしてもダメなのか……。
 いつか、いつか、リベンジしてやるー!!


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