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小説:バンビィガール<2-7>壮絶なコンテストバトル #note創作大賞2024


 現在の得票数。
 1位:5番 紺野あおい 4225票
 2位:2番 浜村凛   4107票
 3位:8番 深瀬愛奈  3959票

 土日はやっぱり2番の浜村さんの票の伸びがすごい。
 そんな白熱の投票合戦の中、動画第二弾がアップされた。
 一問一答と自己PRだ。
 それぞれ候補者によって質問内容が違うのは知らなかったので、少々面食らった。
 私への質問は
『好きな食べ物は?:豚汁、肉じゃが、カレーライスです』
『長所は?:いい意味で妄想族』
『短所は?:悪い意味で妄想族(笑)』
『特技は?:イラストを描くことです』
 特技のところで、色紙に私の似顔絵と月刊バンビィのマスコットキャラ「ばんちゃん」を描いたものをカメラに向かって見せる。
『自己PRをお願いします:生まれ育った奈良が大好きで、その「好き」を原動力に色々なことに挑戦するバンビィガールになりたいです。よろしくお願いいたします!』

 動画第二弾を観た連合軍の方々のコメントは
「好きな食べ物、ガッツリ系でワロタ」「食べ物のチョイス渋すぎやろ」「イラスト可愛いね!」「最後のコメントが誠実でよき」などなど、楽しんでもらえたようだった。
 確かに他の候補者みたいな「ショートケーキが好きです」みたいなキラキラコメントできていないのはイメージガールとしてどうなんだ、とは思うけれども。

 4月15日。
「ミヤコ、おはよう」
「アオ、おはよう!」
 待ち合わせは私の家の前。ミヤコもアキヒロと同じように家が近い。学生時代はしょっちゅうお互いの家を行き来していた。好きな漫画が同じだったり、好きなアーティストが同じだったり、共通項が多いのもミヤコと仲の良い理由だ。
 看護師をしているミヤコは、日々忙しく不規則な生活をしている。それなのに私の応援までしてくれているのは本当にありがたい。
「うちの彼氏さんの職場でも宣伝してもらってるよ」
「ううう、ホンマありがとう」
 駅までの道を二人で歩く。学生時代からお互いに恋愛で悩んだり失敗したけれど、今ミヤコとお付き合いしている彼氏さんは誠実な人で、幸せそうで本当に良かったなと思っている。
「私も恋愛したい……」
「そういえば最近アオの恋愛話聞いてへんよな?」
「出会いがまーったくない。困ったことに」
「まあそういう時もあるよな」
「ええねん、今はコンテストが恋人やから」
 これは強がりではなく、本心。恋愛しません、とまでは言わないけれど、それよりも夢の方が大事で渇望していることに間違いはない。
「そうやな。コンテストと言えば、票、昨日ひっくり返った時焦ったわ」
「ずっと1位を守れるなんて思ってへんしな。危機感ある方が投票してもらえるやろ」
 ミヤコは本当に焦ったようで、早口になる。それに比べると私は比較的落ち着いてはいた。
 そう、実は昨日の23時に2番浜村さんの投票爆弾があり、1位と2位が逆転したのだ。慌てても仕方ないので、すぐに寝て今朝起きたら1位に返り咲いていた、という経緯がある。

 ただ、漠然とした不安は寝て起きても消えなかった。

「なあ、ミヤコ」
「なに?」
「私がやってることは無意味なんかな」
「え?」
「チラシ作って配るとか……そういうのって『無駄な努力』やって陰で笑われてるんやろか」
 他陣営にしてみれば「くだらない」ことをしているように思われているのだろうか、馬鹿にされているのだろうか。あの紙飛行機になったチラシが頭の中をよぎり、いつになく弱気になる。
 俯く私の背中にドン、と衝撃が走る。
「いたたっ!!」
 条件反射でのけぞると、隣にいるミヤコがやや怒っているように見えた。
「なーに弱気になってんのよ。全然無駄じゃない! いっつも前向いて頑張るアオやから応援してんねんで? チラシだってめっちゃ一生懸命作ったの、わかる。そんな風に後ろ向きに考えちゃうのも不安がそうさせてるだけ! 自分の努力を信じてあげよ!」
「自分の努力を……信じる」
「それが『自信』なんやから」
「自信……」
 私には、ミヤコを始めとする連合軍の仲間がいる。先生がいる。皆が呼び掛けてくれた協力者たちがいる。そして、生駒で出会ったあの女子高生二人組もいる。
「……せやね、頑張る」
「一人で頑張らんでええねんで。一緒に頑張ろ」
 ミヤコの言葉に、力強く頷く私がいた。

 新大宮でのチラシ配りも無事に終えて、コンテストもいよいよ佳境。
 チラシ効果は多少あったようで、一日当たりの得票数が増えたのがデータでも分かった。
 けれど、私が引き離したかと思うと2番浜村さんの投票爆弾で追い越されたり、巻き返したりのシーソーゲーム。票が増えるたびに「ありがとうございます!」とディスプレイに向かってお礼を言う日々。SNSにも何気ない日常や呼びかけをアプリの動画機能も使い毎日必ず投稿して(コンテスト以外のことも含めて)、飽きさせないように工夫していた。

【20XX/04/18
 こんばんは、紺野あおいです。
 さてさて、お待たせしました!
 今回はチラシの地名クイズの答え合わせをいたしましょう。
①    忍海 難易度:★★☆☆☆
 これは割と読めた方が多いのではないでしょうか?
 正解は「おしみ」と読みます。
 近鉄御所ごせ線にも駅がありますね。葛城市の地名でした♪

②    三碓 難易度:★★★☆☆
 この辺りから少々難易度が上がります。
 奈良市民の方は余裕かもしれませんね。
 正解は「みつがらす」と読みます。
 
③    内侍原 難易度:★★★★★
 急に難易度がバーンと上がる恐ろしいクイズ(笑)。
 これは私も最初読めずに「うちざむらいはら」とか言ってましたね。
 正解は「なしはら」です。奈良市内の地名です。
「な」はかろうじて分かりますが、読めない読めない!

④    奉膳 難易度:★★★★★
 これも地元の人じゃないと読めないシリーズ!
 正解は「ぶんぜ」と読みます。読めません(涙)。
 「ぜ」は分かっても……。
 御所ごせ市の地名です。そもそも御所も難読地名よね?

⑤    阿字万字 難易度:★★★★★★★←突き抜けてるし(笑)
 奈良市民の方、読めるあなたは奈良博士です!
 正解は「あぜまめ」です
 奈良市のど真ん中にあります。

以上、チラシの地名読みクイズでした☆
何問読めたか是非コメントしていってくださいね!
「まだまだこんなんもあるでー」という地名もコメントお待ちしております♪
 #紺野あおい
 #バンビィガール
 #バンビィガールコンテスト
 #奈良
 #難読地名】

ついに得票数は7000、フォロワーは1000を超えた。
目まぐるしく状況が変わる中、柳先生とのいつもの電話。

「最終日の投票時間の足並みをできるだけ揃える?」
『まあ、相手に「こっちも持ちだまあるんやぞ」っていう危機感を与えるため、やな』
「実行するなら何時頃がいいでしょうか」
『投票終了が18時やろ? 17時45分から50分あたりがええんとちゃうか』
「その辺りの話って、連合軍に投稿ってできますか?」
『せやな、その代わりトピック立てて書くぞ』
「なんでも大丈夫です! 先生のご自由にどうぞ」
『あのなあ、お前があんなトピック立てたから雑談のトピックに行きづらくなったんやぞ!』
 そのトピックとは『たぬき先生専用のお部屋』。先生のニックネームが「狸」だったので、勝手につけた。
 先生にはデータ集計、分析などなど多角的にコンテストを見て書いてもらっている。言わば「参謀役の指示ノート」みたいなものだ。
 連合軍に参加している人間は、その情報を読み、雑談で「こうしたらいい」「ああしたらいい」と意見を交換していた。
「すみませーん、反省してまーす」
『反省してない謝罪は要らん!』
 先生の雷が三週間ぶりに落ちた。

 ――投票終了日まであと5日。
「一度練習がてらに投票爆弾を投下しよう」、と先生が発案し、可能であればの参加の連合軍メンバーは勿論のこと、私が知りうる限りの友人知人にも協力してもらい、17時45分に合わせて投票することになった。連合軍メンバーもそれぞれの友人知人に伝えたようで、結構な規模になるぞ、とドキドキしている。

 スマートウォッチを眺めながら、その時を待つ。
 現在の得票数、8725票。あ、8726票になった。
「ありがとうございます」
 心の底から感謝して、スマートフォンを握りしめる。
 現在15票差で2位。本当に僅差だ。
 スマートフォンの中、バンビィガールコンテストのホームページ。私の画像の下には「投票する!」という緑色のボタンがあり、押すと「この人に投票しますか?」という注意書きのダイアログが出てくる。そこでOKを押してようやく投票が完了する。この手間が少々かかるのが難点。
 スマートウォッチの秒針がゼロへと向かっていく。3、2、1、……
「えい!」
 クリック。結果はどうだろう?
「わお」と思わず声に出した。
 8726票から8943票にジャンプアップ。単独1位だ。
「217票!!」
 リハーサルでこれはすごい数字だ。最終日の投票締め切りは18時なので、残り15分でこの数字を超えるのは結構難しい。
 持っていたスマートフォンが震えて私を呼ぶ。着信は仕事中のはずのミクからだった。
『もしもし? 今私も参加したけど、すごいな!』
「あ、ミクも参加してくれたんや。ありがとう。これが本番でも出せたらいいのにな」
『出せる出せる! このまま突っ走ろう!』
 じゃ、また仕事に戻るー、と言ってミクの通話が切れる。
 切れたと同時に今度は違う人物からの着信が。慌ててしまい誰からか分からず電話に出る。
「もしもし」
『お世話になっております。月刊バンビィ編集部の三橋です』
「は、はい! お世話になっております」
 見事なまでに声が裏返る。一体何だろう?
『あの、どうなるかはこちらも分からないので、あくまでも紺野さんがバンビィガールに決まったら、というお話なんですが』
「はい」
 え、そんな不思議な話って現実にあるの? と小首を傾げる。
『まず、4月27日の午後にお時間を頂きます。これは授賞式と契約諸々のお話のお時間です。ご予定は大丈夫そうですか?』
「はい、大丈夫です」
 フリーターという名の自由人なので、時間はいくらでも作れる。コンテスト中は、仕事の量をかなりセーブした。登録派遣のアルバイトも4月は出勤ゼロ日だ。
『次に、翌日の4月28日に一日拘束の撮影がございます。この日のご都合はいかがでしょう?』
「そちらも大丈夫です」
『ありがとうございます。では健闘をお祈りしております』
「ありがとうございます。失礼いたします」
 静かに通話ボタンをオフにする。
 予定は未定であり決定ではないのだけれど、こういう話をされると少々現実味が帯びてくる気がする。

「とまあ、そんなことがあったよってことで」と連合軍コミュニティの雑談トピックに軽く報告(詳細は契約にも触れているので伏せて)すると「期待させるやん」「なれんかったらどういう反応したらええのん……」と戸惑いの声が多く上がった。ええ、私も戸惑っています。なれなかった時……のことは考えない!! 私は私を信じる!! と気持ちを切り替えた。

【20XX/04/24
 こんにちは! 紺野あおいです。
 とうとうバンビィガールオーディションもあと2日(時間だとあと30時間)になりました。
 これまで沢山の方々に応援いただき、本当に本当にありがとうございます。
 残り短い時間ではありますが、特急ひのとり(近鉄が誇る赤い彗星です)レベルでかっ飛ばす次第であります!
 どうぞ走り抜ける力をお貸しください! よろしくお願いいたします!
 最終日の投票は18時までなので、夜に投票されている方はお気を付けください!
 #紺野あおい
 #バンビィガール
 #バンビィガールコンテスト
 #奈良】

 今日の写真は私が正座をして深々と頭を下げてお願いしているポーズ。
 コメント欄に「いきなりの土下座w」「どうしちゃったのあおいちゃんw」などと書かれ、土下座以外の言葉が見つからず自分の語彙力を恨んだ。
 気になったので調べてみると、小笠原流礼法おがさわらりゅうれいほうの座礼の九品礼きゅうひんれいうちのひとつ、『合手礼ごうしゅれい』ということが分かった。流石はインターネット。何でもご存じでいらっしゃる。
 そのことをコメント欄に書いても「土下座w」連呼されて収拾つかず。
 ――そして何故か不本意ながら過去最高の数のいいねがついた。なんでやねん!


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