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書籍【「おもろい」働き方で社員も会社も急上昇する Peachのやりくり】読了


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◎タイトル:「おもろい」働き方で社員も会社も急上昇する Peachのやりくり
◎著者: 井上慎一
◎出版社:東洋経済新報社


マニュアル化できない暗黙知が企業の競争力と言えるのであれば、それをどれだけ持つかが差別化につながる。
LLC(低価格の航空会社)のPeach社の取り組みは本当に面白い。
確かに大手航空会社とはそもそも狙いが異なる訳だから、その手法・戦略も全く異なるものになるはずだ。
Peachの社員が全員で「おもしろさ」を目指しているのは、まさに作り上げられた企業文化と言える。
今の時代「企業文化」こそが、競合との差別化の源であるという論はよく聞く。
これも当然で「企業文化」こそが暗黙知の集合体であって、なかなか形式知化がしづらい部分だったりするからだ。
「低コスト」を売りとしている会社であるのだから、様々な現場の工夫でコスト削減に取り組む姿勢が身についている。
もちろん、そういう姿勢でなければ大手とは戦えない訳だから、当然のことだ。
社員全員、ベースとしてコスト意識が自然と身についているのだろう。
「どうすれば効率化できるか?」を常に考えているのは、大手ではなかなか身につかない思考回路などだと思う。
そしてここからが暗黙知の領域であるが、プラスアルファとして「おもしろさ」を付け加えるというベースもすでに備わっている。
Peach社で、常に「おもしろさ」を追求していく姿勢は、どこから生まれたのだろうか?
もしかするとたまたまなのかもしれない。
社員の中に面白い人が集まっただけかもしれない。
これももちろん企業文化を醸成する一要素にはなると思うのだが、果たして本当にそうだろうか。
「企業文化こそ、意図的に作り上げなくてはいけない」
これも経営論ではよく聞く言葉だ。
もしかすると会社設立の段階から「おもしろさ」を目指して、その価値観を大事にすると決めて経営を開始したのではなかろうか。
そういう意味では創業社長の会社への思いは、後の経営に相当影響を与える。
そんなことは当たり前の話なのであるが、「どういう会社にしたいのか」という気持ちこそが、企業文化を作り上げる上で相当に重要なことなのだと思う。
意外と社内ベンチャーの企業内起業だったりすると、発案者はいるとしても、株主(親会社)の意向だけで設立が決まったりして、この「気持ち」を大切にしていないケースが多いのではないだろうか。
日本では本当のベンチャー企業として起業するよりも、企業内起業のケースが多いと聞く。
これら社内ベンチャーでの成功例がなかなか見つからないのは、「創業における、意識合わせ」が足りないからのような気がするのだ。
もっともっと「創業における思い」の内容を詰めて、設立時のメンバーと気持ちを合意していく必要があるのだろう。
社内ベンチャーの場合は発案者が必ずしも社長とならないケースも多いので、尚更である。
そして会社が設立され、奇跡的に経営が上手くいったとしても、いつかは創業メンバーが会社を離れていく。
人員が入れ替わっていく中で、企業も必然的に形が変っていくのだろう。
そして経営する中では、業績が厳しくなることは必ずある。
経営する中で迷いが出た際、創業社長の心意気を思い出せば、ブレた軸を戻せるということだ。
長く続く会社こそ、総じて創業の言葉を忘れずにブレずにコツコツ歩んでいる。
やはり創業最初の言葉は、相当に重みがあるということなのだ。
今で言う「パーパス経営」につながっているのだと思う。
Peach社に関しては、組織が大きくなっても、この企業文化が維持され、変わらずに「おもしろさ」を追及できていることが素晴らしい。
「低価格」✕「おもしろさ」という掛け算。
イノベーションとは「既存知と既存知の掛け合わせ」=「新結合」とはよく言ったものである。
機内食で「ウナギ味のナマズ丼」を出そうという発想は、一朝一夕に出てくるものではない。
アイディアのクオリティでは決してない。
「こんなアホな提案してよいのだろうか?」と躊躇してしまうところを、提案できる環境が整っているということがものすごく重要なのだ。
まさに「心理的安全性」が担保されている状態であるが、今生き残っていける企業というのは、各種の経営論で述べられていることを愚直に実行しているかどうかの違いだけのような気がする。
結局、実行できなければ机上の空論。
アイディアを出す文化。
それを否定せず受け止める文化。
実行する段階でも、周囲が手伝ってくれる文化。
1人のアイディアもみんなで成功させようとする文化。
それらの前提がなければ、その内に「自分一人くらい提案しなくても業務は回る」と思い出し、自身の業務範囲だけを淡々とこなすことになるだろう。
すぐに業績が落ちる話ではないが、アイディアを出し続ける会社と、全くアイディアが出ない会社では、経年で大きな差となっていくだろう。
まさにこれこそ指数関数的に差が付く話なのではないだろうか。
結局、既存知と既存知の掛け合わせとは、複利を生み出す「掛け算」と同じことなのである。
最初はほんの小さな差なのかもしれないが、そこを怠っていると、後々大きな差となりライバル企業に追い付けなくなるくらい離されてしまう。
先行企業も安心してはいられない。
これらの文化が衰退しないように、人員が世代交代などで替わる際にも、文化を引き継いでいかなくてはいけないからだ。
社長が交代した時にも、この良い文化をどうやって継承するかが非常に大事である。
だからこそ「企業文化こそ、意図的に作り上げなくてはいけない」なのか。
Peach社を見習っていきたいものである。
(2023/9/28金)


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