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ソーシャルリスニング×データサイエンスで描くマーケティング戦略とは?

自己紹介

このnoteはネットイヤーグループ開催のセミナーを紹介するものです。ゲストスピーカーのNTTデータ高野氏と登壇します。講演内容の一部をご紹介します。

私はイベント・セールスプロモーション業界で4年、電通グループなど総合広告会社の営業とマーケティングプランナーとして10年、マーケティングにおけるデータ分析を軸にしたコンサルティング支援3年と、戦略から戦術まで幅広く関わってきました。電通グループ在籍時、高度なリサーチに伴う多変量解析や数理モデルなど、「マーケティングサイエンス」を学ぶ必要性に駆られ、5年ほど実務で使いながら学び、「Excelでできるデータドリブン・マーケティング」を出版しました。

マーケティングROIを定量化し予算配分の最適化を行うマーケティング・ミックス・モデリングを中心に、データ分析の演習をしながら統計や因果推論の基礎的な知識を知ることができる書籍です。(1章まで全文公開しています)

宣伝会議「マーケティング分析講座」

講師もしています。総合広告代理店で右脳寄りなマーケティング支援を手がけたあと、左脳寄りなデジタルマーケティング及び戦略支援にシフトしたことで得た右脳左脳のハイブリッドな思考と経験と「(データ分析の)元素人」の視点を活かして、

データサイエンスになじみのないマーケターにわかりやすく分析ノウハウを共有する活動を行なっています。研修やnote執筆はその活動の一環です。

先行知見

マーケティングサイエンス関連の書籍で消費者行動の実証研究という書籍があります。

消費者行動の実証研究に関連する理論や分析手法を整理し、今後の研究の方向を考察する書籍です。(以下は章立てです)


序 章 消費者行動の実証研究に関する現状整理と課題(守口 剛)
第1章 消費者行動と情報探索(奥瀬喜之)
第2章 消費者行動と情報処理(金子 充)
第3章 クチコミ発生の要因とオンラインのクチコミについて(臼井浩子)
第4章 顧客との継続的な関係とその構築(八島明朗)
第5章 企業経営レベルで活用できる消費者行動指標の研究―顧客満足度と企業価値の関係性についての実証研究から(重松 佳)
第6章 消費者行動研究における反応時間の測定の意義(上田雅夫)
第7章 ゲーミフィケーション活用サービスのユーザー心理(濱田俊也)
第8章 SNSが販売実績に及ぼす効果の測定とソーシャル・リスニングの意義(鶴見裕之)
第9章 アドテクノロジーの進化とインターネット広告の効果測定(本橋永至)

第8章 「SNSが販売実績に及ぼす効果の測定とソーシャル・リスニングの意義(鶴見裕之)」では、SNSは売上にどう影響するのか?といった研究の成果と仮説が示されています。

著者(鶴見 裕之氏)達の2013年の研究では、ビール系飲料の新商品を対象に、パス解析(共分散構造分析)をしたところ、テレビ広告がツイッター上の書き込みを媒介して、販売実績に与えていました。販売実績が伸びるからツイートが増えるのか?ツイートが増えるから販売実績が増えるのか?双方向で検証したところ、ツイートがのびると売上が増えるという関係が有力であることを発見しました。直接TV広告が売上に影響があるか?という回帰分析も行ったが売上への直接の影響はみられませんでした。

図2
図3

※上記画像は「マーケティングにおけるSNS上のテキスト・データ活用の可能性と限界」論文より参照引用

2015年の研究では、特定保健用食品で同様の分析を行っており、(分析の精度を上げるためタイムラグを考慮した)テレビ広告とテレビPRが過去や当日のツイートを介して会員購買点数を押し上げていたことを確認しました。2013年の研究のテレビ広告に加え、テレビPRの変数も加えて分析し、テレビ広告とテレビPRがツイッター上の書き込みを経由して(ツイートが媒介変数となり)販売実績に与える間接効果を確認しました。

話題性の代理指標

2013のときに分析対象としたビール系飲料のツイートの数は多くても1か月あたり数千程度で、実数はたいした数ではありませんでした。著書はこうしたTwitter上のコミュニケーションは「話題性の代理指標」としてとらえるべきではないか?という仮説を提唱しています。Twitter上に現れる商品、広告に関する書き込みは、リアル,ネットを問わず,消費者間で交わされるクチコミや評価が表面した,いわば「話題性の氷山の一角」であるという仮説が成り立つとしています。


これは私がこれまで行ってきた分析経験(時系列データ解析による効果検証や需要予測)からも納得できる仮説でした。クライアントワークの実データを示せないので(機密性が高いデータ分析なので事例開示を取りづらい)昨年ヒットした映画「天気の子」が127億円の興収を達成した封切り後3か月強時点の時系列データを成型した内容を紹介します。

「天気の子」の興行収入が127憶円に到達した時点(封切り後から)
「天気の子」を含む指名検索数 49,958,368/「天気の子」の販売数(≒人数)9,694,656/「天気の子」を含む総ツイート数4,082,270/うち、視聴後(と考えられる)ツイート数 246,820


ツイート数は全数調査ツールを使用し、指名検索数はグーグルトレンドやキーワードプランナー、販売数は興行収入販売数推計サイトのデータから推計したものです。詳細は「天気の子」興行収入127憶円を408万ツイートで予測・説明する。1/3 を参照ください

天気の子の販売数(≒販売人数)に対して、視聴してきた後に投稿したと考えられるツイート数は24.6万ツイートでした。「天気の子」を観てきた方の人数に対して、およそ2.5%であり、この数字をそのまま捉えると、「映画視聴人数の2.5%しかツイートはされていなかった」ということになります。しかし、視聴後のツイートが一定量発生した際は、そのおよそ40倍の販売が発生している(ツイート数 246,820は販売数9,694,656の「話題性の代理指標」)仮説として、とらえることもできます。

その仮説を確からしいものとするためには、他の映画作品も同じように分析する必要があります。

映画はツイッターでシェアされやすい商材だと思いますが、鶴見氏らの研究にあった飲料や食品といった商材の場合は100倍、200倍など、より大きな値が目安となるかもしれません。


「データの見方」で意思決定は変わる

分析のデザインを知らず、表面上の数字だけを見て「映画の販売数(≒販売人数)に対して、ツイートは2.5%でした」と、社内にそのまま報告したら、「ふーん、思ったより少ないね」と言われるのがオチだと思います。

しかし、分析のデザインを知った上で検証を重ねれば、

「映画作品の視聴後とツイートがある際は、その40倍前後の売り上げが発生していると考えられます」

と報告し、「ふむふむ」と身を乗り出してきたところで、

「封切り数日、視聴後(と思われる)ツイート数を観測し、その値をもとに、需要予測値を補正し、TVCMなどプロモーションの投下量を調整することで、投資効率を上げられる見込みです」

など、明確な根拠をもとに提案できます。

マーケティング・ミックス・モデリングでTVCMなどのコミュニケーション施策による集客への影響(介入効果)を定量化し推定し、さらに作品ごとのツイートの反応率によるTVCMの効果の変化を捉えていれば(反応率が高いと効果が高いが反応率が低いと効果が低い等)、ツイートによる需要予測値に応じてTVCMなどのプロモーションをどれだけ増やすまたは減らせば利益が増えるか?定量的に試算できます。

先行知見や分析のデザインを知っているか?否か?それによってツイートなどソーシャルリスニングデータの価値は大きく変わります。これはツイートに限ったことではありません。他のSNSの書き込みや指名検索数でも同様です。

指名検索数が効果検証で重要な指標になることについて過去に書いたnoteもあります。

実績データを蓄積し分析モデルの精度を高めることで、ツイートなどのソーシャルデータは、確からしく売上への貢献度を定量化し推定する、または需要を定量化し予測する、戦略を導くための重要な指標になります。

先進的な企業では、需要予測での商品供給量調整や販促物や広告の投下量の調整などの意思決定をするためにソーシャルリスニングのデータを予測に用いる変数として採用し1〜2か月以上先を予測するような分析モデルを探索している企業もあります。一般的に今得られたデータからどれだけ先の未来の予測に活かすのか?その期間が長いほど分析の難易度は上がります。期間が長いほどより多くの意思決定につなげることができるため、分析の価値も高まります。

最近、話題になったOisix広告のクレヨンしんちゃんなど、テーマ性の強い広告をSNSで拡散させるデジタルPR型の企画が増えました。この施策で使われた広告媒体は駅ばり広告のみでした。

上記のインタビュー記事には、オイシックス・ラ・大地株式会社/総合マーケティング本部 本部長/ソーシャルマーケティング室 室長 井上 政人氏がこの施策が売り上げにつながったか?という質問に自信をもってはいと回答できるとして、定期宅配サービスの加入者が増えたと言及なさっています。

同社がどのように効果検証を行なったか言及はありませんでしたが、仮に私が行うとしたら、時系列データ解析によるマーケティング・ミックス・モデリング分析で当該施策の話題性の代理指標として考えられるツイートや指名検索数を説明要因として、既存会員売上数や新規会員売上数、新規加入者数など複数のKPIを目的要因として、時系列の変動を解析することで当該施策による介入効果をそれぞれ推定し効果を定量化し、ROIを導きます。メッセージ性の強いデジタルPR型の新聞広告や視聴世帯数が多いテレビ番組の露出などの効果検証にも、話題性の代理指標となるデータを活用できるケースはあります。

これまで紹介したのは、ツイートを活用した需要予測や効果検証についてですが、さらに大きな価値を生み出す分析として、新ビジネスまたは新市場探索のための需要発掘のソーシャルリスニングがあります。ある特定のユーザーセグメントを作り(ここがノウハウです。詳細は書きません)セグメントごとのツイートからホットなキーワードを個別に観測できる仕組みを開発することで、ヒットやブームの種をいち早く発見し、新たな商品やサービスを作るための質の良い仮説を導くことができるかもしれません。今まで紹介したような使い方をする場合は、分析の精度を高めるため、ツイートの全量データをきめ細やかに収集し成型することを推奨します。

ソーシャルリスニングを戦略に活かすために

ソーシャルメディアデータをベースにしたマーケティング戦略立案・分析を軸としたコンサルティング業務を幅広い業界に提供しているNTTデータの高野氏をゲストスピーカーに迎えツイートの分析事例などご紹介頂きます。NTTデータはTwitter社とデータ再販に関する契約を国内企業として初めて締結し、現在は国内唯一のTwitter社の戦略的ソリューションパートナーとして、開発事業者がTwitterデータをクライアントごとの要件や案件特性に合わせて組み込むことを可能にする「SIerパートナーシップ制度」や国内のスタートアップ企業に対してTwitterデータを活用したビジネスの立上げを検討する際の価格面のハードルを下げ、事業を設立・運用開始をしやすくする「インキュベーション制度」によって国内のスタートアップ企業の育成をサポートするなど、商用利用に適したTwitterデータを活用する市場のさらなる拡大やより多くのパートナーを獲得することで、クライアント企業の活動に貢献できるシステムやソリューションの開発を推進しています。

直接企業に行うマーケティング戦略立案・分析を軸としたコンサルティング業務について、こうしたセミナーで紹介するのはレアです。

こんな方にオススメ

・「確からしい根拠」から戦略を導くことができる組織を目指したい方

・マーケティング戦略を導く(マーケティング投資配分の指針)ための手法を知りたい方

・ソーシャルリスニングの分析から行う意思決定の幅や視野を広げたい方

私は、TVCMなどのコミュニケーションプランニングのために使うシンジケートデータ(視聴ログや購買および生活意識など大規模な消費者パネル調査)、顧客の行動データ、ダイレクトマーケティング付帯のレスポンスやアナリティクスのデータ、ソーシャルリスニングデータなど幅広く扱い多くのマーケティング意思決定をサポートしてきました。

しかし、そうしたデータをどれだけ集めるか?という視点から着想しプロジェクトをデザインするとカロリーを浪費しやすくなります。有意義な意思決定につなげるための分析のデザインを考え、それに沿って必要なデータをあらかじめ仮説してから、必要なデータを収集成型し分析する順番にすることでカロリー消費を抑えて投資対効果を高めることができます。まず考えるべきはデータ集めではなく、

有意義な意思決定につなげるための分析のデザインを考えること

であり、そのためには、

本質的なビジネスドライバーは何かを心理と論理と数理で仮説すること

です。

マーケティング組織のメンバー全員が有用な分析のデザインや統計や多変量解析など基礎となるデータリテラシーを理解し、仮説し検証するカルチャーをデファクトとして浸透させることが本質的なマーケティングのデータドリブンだと考えています。サポートベクターマシンやベイジアンネットワーク、状態空間モデルなど多様かつ高度なモデルを扱えて実装もできる優秀なデータサイエンティストがいても、現場マーケターが基礎となる相関や因子分析や回帰分析などの分析の基本理解がなければ、データサイエンティストを稀有な存在としてしまい、宝の持ち腐れ状態になり、データドリブンに成功確率の高い意思決定ができる組織にはなれません。

リサーチデザインや分析ノウハウの研修や説明会をスコープに加え、マーケティング組織のメンバーが戦略を描くための知見を蓄積し活用する術を共有しながら、戦略定義と戦術策定と検証と分析を回す併走型の支援をします。私はこれまでのキャリアでTVCM、PR、店頭販促、運用型広告、デジタルマーケティングインフラ構築まで一通りのコミュニケーション領域の実行経験があるため統合的なコミュニケーションをデザインする実行支援も可能です。

目指すゴールは、データドリブンなマーケティング組織となって頂くことです。その状態を目指すための具体的な方策についてもお話しします。セミナー詳細については下記告知ページをご覧ください。

※事業会社の方限定となります。支援会社は対象外です。あらかじめご了承ください。

補足

ネットイヤーグループはNTTデータのグループ会社です。顧客(エンドユーザー)中心のUXD(ユーザーエクスペリエンスデザイン)という概念を日本に持ち込んだ会社です。昨今、働き方改革など言われていますが、およそ20年前の創業当時から副業制度があった会社です。私のような働き方も可能です。私はNTTデータとの連携も多いデジタルドライブ事業部のマーケティングストラテジストとして活動していきます。私は、本noteが2020年最初の執筆でした。謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

ここまでお読み頂きありがとうございました。

追加情報(2023年12月18日更新)

クッキー規制で目減りする効果計測の課題を解決法をnoteにしました。無料で使えるMETA社の高機能なMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)ツール「Robyn」を徹底解説する2時間強のYouTube講義を公開しました。