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全女性に捧げたい「ルイーズ・ブルジョワ展」六本木ヒルズ森アートギャラリー

女性が持つ重荷、出産・家事・育児・介護

六本木ヒルズにある蜘蛛の大きなモニュメントの作者、「ルイーズ・ブルジョワ展」へ行ってきました。2025年1月19日まで開催されています。
女性と男性とでは、かなり受け取るショックが違うかもと思う展示でした。

「残念ながら女の子です」

生まれた瞬間に親をガッカリさせるところからルイーズの人生は始まります。その後も女性であることは、鎖のように彼女を縛るのです。父親に「MEN(人)にあるものがない」とからかわれたり、出産育児家事を背負いながら、自分の人生を生きようともがく。

若い時の、どこかをさまよう自分。未来がどこか?どこへ向かっているのか?不安な目

裕福な家庭で育ったルイーズですが、父親は母と愛人を家庭に同居させます。父親に対する怒りと嫌悪、それとともに求める愛して欲しいという気持ち。

「あっかんべー」している顔は、憎しみと共に「相手をして、こちらを振り向いて欲しい」という相反する気持ちを表しているそう。

生きたいという気持ちと希死念慮。無意識と意識。憎しみと愛。認めて欲しい、ほおって置いて欲しい。愛され満たされると同時に欠如していく自分の一部。母性の裏に隠れたナイフのような凶暴性。
自分の中で渦巻く気持ちが、眼の前に現れて心をかき乱されます。

憎しみの対象であった父を亡くしたあと、ルイーズはメンタル不調に陥ります。正常を保つために創作に打ち込み、作品に感情をぶつけて昇華させていく。

作品を通して、私の中で今まで読んだ本がたくさん浮かび上がりました。
「母親になって後悔してる」「両手にトカレフ」「金子文子・獄中日記」「84年生まれ、キム・ジヨン」「夜と霧」「あの子は貴族」
たぶん、男性がルイーズの作品を観て思う感想は、作品に心を寄せつつも「84年生まれ、キム・ジヨン」の最後の1行なんじゃないかな…。(本の中に登場する男性カウンセラーの一言。カウンセラーは、キム・ジオンのカウンセリングをしながら彼女に共感しつつも、最後に一言放ちます。それが女性の現在地だと思い知らされる)

そして最後の方で、展示されている作品を見て、なぜか涙が溢れてきました。

「地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」

針でひとつひとつ、自分の過去の象徴である布に刻み込んだ言葉。

針がチクチク刺すように、大きな痛みではないけと日常的に感じる痛み。

女のくせに、ブスは価値がない、相手してもらえるだけマシ、ババア、子持ち様、専業主婦、ワーママ、主婦がやれる仕事、お小遣い程度でしょ?、シンママ、子どもが可愛そう、あんな親だから、母親が悪い、ご飯まだ?、お母さんなんだから、子どもがうるさい!、ベビーカーが邪魔、不登校は親か甘やかしているから…。

降り注ぐ痛みを乗り越えて、創作することで過去を転換し、ルイーズは生き抜いたんだ。「あなたもそうでしょう?」ルイーズが痛みを抱きしめてくれた。

その晩、私は夢を見ました。
母と一緒に旅行をしていて、高級そうなお店で買物をしていました。型抜きデザインのおしゃれなカードセットが売っていて、母はそれを「素敵ね、これ買うわ」と言い、手に取りました。私も欲しいなと思ったけど「生活には必要ないから…」と我慢します。すると母は私に「それだからよ。あなたはキップが悪い、ケチだから出世しない」
そばで見ていたお客の紳士が笑いました。

腹が立って、くやしくて私は目覚めましたが、うつろな夢の中で反論しました。
「東京で一人暮らしをしたら、稼いだお金なんて全て生活費になってしまうの。欲しいものはちょっとでも我慢しないと。そうやって我慢して、この旅費だって私が出しているんだから!お母さんの分もね!」

そばにいた紳士の顔が変わり、私に同情した目を送りました。

強くもしなやかに子どもを守る母を象徴する蜘蛛

六本木ヒルズのビルの下に、ルイーズの蜘蛛「ママン」が佇んでいます。
美しく整備された街、高級なレストランとショッピングモール。足元をおしゃれな人、美しい人、成功した人、運の良い人たちが通り過ぎていきます。

たまにどうしようもない力であっけなく踏まれて、ままならない人生。頭を下げて稼いだお金をドブに捨てることになったり、権力に負けたり、友達に追い越されたり、無駄な努力をしたり、嘲笑されたり。
黒く美しい姿とはいえない蜘蛛は、細い脚で、どうにか東京のビルの谷間に立っています。この展示を観た女性には、あの蜘蛛は戦友に見えるでしょう。(特に地方から出てきた女子にはね)
地獄を素晴らしいと言えるように、ルイーズのように強く生きたい。