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僕らは「感動レベル」をとどけるために、狂気をもったチームでいたい【声の履歴書117】

こんにちは。Voicy代表の緒方です。

この「声の履歴書」という連載は、Voicyがこれまで歩んできた道のりについて創業者の私があれこれ語っていくシリーズです。よかったらマガジンをフォローしてくれると嬉しいです。

今回は“僕がいつも思っているけど、ちゃんと声を大きくして言わないとなかなか伝わらない大事なこと”を、あらためて書こうと思います。

それは一言でいうと、「僕らは狂気を持ってプロダクトに取り組み、ユーザーを感動させるレベルのものをつくり続けないといけない」ということです。

個人向けサービスは95点を超えないと消える

僕は常に「会社がつまらなくなるんじゃないか」という恐怖感とともに経営をしています。

世の中にはいろんな会社があります。企業向けのSaaS製品を届けたり、個人向けのサービスを広く使ってもらったり。誰かのペイン(不便や悩み)を解消しているプロダクト、見たことのない価値を生んでいるサービス。

成り立ちによって、会社の取る立ち位置がそれぞれ違ってくると思います。

たとえば、明確なペインがあって企業向けの製品であれば、費用対効果が合えば検討の対象になり、他社と比較して使ってくれることもあると思います(現実はもっと難しいはずですが)。

そこにおいてVoicyは、個人向けのサービスかつ、あたらしい価値を創造するというすごく難しい目的をもって存在しているわけです。

これはなかなか大変です。これといったペインもなく、価値そのものも誰も知らない。少し良さそう、くらいでは一度使ってくれたとしても、定着はしてくれません。

飲食店だって、「1回食べに行ってみよう」という人はいるけれど、2回目、3回目と継続的に行こうと思えるようなお店を目指すのはすごくハードルが高いわけです。

僕がベンチャー起業の支援家をしていた前職のときに多くの個人向けサービスを見てきましたが、年間に100以上のサービスが生まれて、その中で数年後に残っているサービスは、1つか2つだなというイメージでした。つまりほとんどのtoCサービスのアイディアや、サービスを成長させる施策はうまくいかないという絶望的なイメージを自分の中の前提として持っています。

ただ、そんなに大変な中で「多くの人が夢中になって使ってくれるようなすごいプラットフォームをつくろう」というチャレンジは、無謀なことが大好きな人たちの特権だし、最大限の楽しみでもあると思うところもあって。

ですから、個人向けのサービスを主力の事業として会社を経営するときは、何らかの課題を解決するための事業と同じレベルのアウトプットをしていては、ダメなんです。

「ユーザーの意見を聞いてそれに応えています」「他社と比べて足りてないと思ったので入れてみました」というレベルでは世の中にあたらしい価値は届けられません。

ユーザーの心を揺らした度合いを点数にして、イメージしましょう。

たとえば、お腹が減っているときであれば、眼の前の料理がそれほど美味しそうでなくても、15点くらいは心が動いてくれると思います。

その一方で、個人向けサービスは80点を超えてこないとまず使ってくれさえしない。継続利用を狙うためには95点を超えないといけないと思います。

たとえば、すごく好きな製品やサービスがあったとして、「この製品だけ買いたくなる」「この製品を持っていること自体が嬉しい」を感じたり、「この製品を使っている自分のことも好きだ」くらいに心が動いたりするーー。

僕らはそこを目指しているんです。

この情報過多、コンテンツ過多の世の中、本当に気に入って繰り返して使うものがどれだけあるでしょうか。

しかも70点〜80点くらいであれば、あらゆるサービスが初期は到達しています。ここまでは実はサービス自体の魅力度よりも、「初見の興味」でプラス30点されたり、「まわりで話題になっているから」でプラス20点されていたりします。

「これくらいのものは見ておかないと」「これくらいのものは使っておかないと遅れてしまうよね」という周りから来る"不安感プレミアム”で加点されているんです。

大抵のものはそういうふうに一番初めの点数を盛って80点を超えてきますが、そこから「ずっと継続して利用したい」と心の琴線に触れるサービスになるには、プレミアムが取り除かれたあとも95点以上の体験を提供し続ける必要があります。

そんな環境のなかで、Voicyの場合、2年以上使ってくださっているユーザーさんの割合がすごく多い。この間データを見てびっくりしたんですが、2年以上の継続利用者が3分の1ほどいらっしゃるんです。

長く愛されるサービスにできていることがVoicyの1つの強みだと思っています。

じわじわとユーザー数が増えていき、しかも継続して使ってもらえているから、ことさら広告費をかけずに伸ばしていけるのも大きいですし、今まで聞いたことがない魅力的な人の話がたくさん聞けるというコアな強みが、初期プレミアムを使わずに95点以上を獲得できている要因だと思います。

熱狂と狂気のある組織をつくりたい

さて、ここまでは頑張ってきたところ。

その一方でこれからのことを考えると、クリエイター目線を保ちつつ、95点以上を取れるチームを大きくしていくのはとても難しいものです。

はじめの頃は「とにかくユーザーに喜ばれたい!」と、すごくこだわったプロダクトを作り上げ、熱狂のなかでそれを届けることができます。

そこから会社組織として仕組み化していこうとすると、だんだんと「高い点」を取りにいこうとしてしまいます。

それは当然といえば当然です。初期の熱狂だけでは組織にならないし、組織としてきれいに動こうとすると安定さが必要になってくるから。

でも最後まで狂気のなかで95点を取りにいける会社だけが最終的に個人サービスの中で残っている。僕は基本的にそこは疑っていない。常に95点を出したい。

「こうすると効率的です」「ユーザーアンケートで出てきました」「一応機能としてはあります」

そういう設計をしているうちに、僕らがサービスを殺してしまう。

このあいだ、とある経営者に「個人向けサービスはプロダクトオーナーの狂気で成り立っている」と言われました。狂気のレベルでこだわっているものだけが人の心を揺らしている。

熱狂や狂気もなく、うまいことやっただけで、人に夢中になってもらえるサービスをつくれるはずがないですよね。

もちろん、繰り返しますが、世の中にあるすべてのサービスがそうではありません。価値創造型で、なおかつ、必ずしも世の中になくてもよいサービスで、さらに個人向けのサービスである場合には、なんらかの狂気が必要なのではと思っています。

社会に大きな風穴を開けるには、周りのみんなも大切

僕は常々こういうことを考えているんですが、日々 事業を進めていく中で、その遺伝子をしっかりと伝え続けることをサボっていたのかもしれません。

今回、あらためて自分の考え方を整理して伝えることができればいいなと思います。

スタートアップというものは、最初は創業者の狂気でプロトタイプができて、その魅力にとりつかれた人たちが集まって、資金を得て進んでいくものです。

いろいろな会社を見ていると、組織化されてくると、どうしても「PDCAを回そう」「ユーザーが困っているところを解決しよう」という方向にいってしまいがち。

初期の熱量をどうやって維持していけばいいのか。

ひとつは、狂気を持っている人たちを馬鹿にしないというか、ちゃんとその人たちの思いを活かしながらモノづくりをする文化を醸成できるかどうかが大事だと思います。

逆に、経営や見栄えを重視して、数字のために狂気を抑え込んでしまうと、共通言語としてはわかりやすい「進捗」「安定」「品質」「数値報告」「予実管理」という言葉が幅を利かせてしまいます。

それでは100の中の1プロジェクトに残ることができず、結局は消えていってしまう。

だから、僕は多くの個人向けサービスを提供する企業のトップに対して、「勇気を持とうよ」と言いたいし、そこで働くメンバーにも「95点を目指す覚悟を持とう」と伝えたいな、と思っていて。

誤解してほしくないのは、点数を取りにいくメンバー以外が役に立たないのかというと、そういうわけではありません。

95点以上を出そうと躍起になっている、熱意と狂気の中にいる人と一緒に仕事をして、社会に風穴を開けるには、その周りにいる人の働きがとても大事なんです。

宇宙飛行士でたとえると、もちろん飛行士本人は飛び抜けて健康かつ優秀だと思いますが、そのための機械をつくり、環境を整えて、PRや広報をする人がいて、周りのいろいろな人がいて、はじめてロケットは飛びます。

どんな世界的アーティストも、彼らを高いレベルでサポートするメンバーがいて、はじめて全力で活動できる。その結果、社会が動きます。

Voicyもいずれビジョン・ミッション・バリューの中に「ユーザーにワオ!と言わせる」とか、「感動レベルを提供する」という言葉も入れたいと思っています。

僕らは決して便利なサービスを提供しているわけじゃないんです。

社会を変える、多くの人の生活を変えて、ワクワクさせる誰もやったことない仕事というとても贅沢な挑戦をさせてもらってるんです。宇宙を目指したり、世界的なアーティストやスポーツ選手と同様の目線の高さだと思っています。一般的な仕事では得られないような、こんな贅沢な挑戦をさせてもらえるからこそ、他とは比べ物にならないようなレベルを目指すことでお返ししなくてはいけません。

95点というのは「感動レベル」です。我々はユーザーを感動させ続けなければいけないんだ、そのためには我々は何ができるだ、何ができるようにならないといけないんだと、社内外にも、そして自分に対しても、ずっと言い続けていくつもりです。


声の編集後記

記事の執筆後に、あらためて音声でも話しています。よかったらこちらもお聞きください。

https://r.voicy.jp/EGV3NzjD9yb

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