第二弾音声エンゲージメントの可能性──インフルエンサー・企業の最新事例から考える 【2020年版】
※こちらの記事は、2023年版としてアップデートしたものを下記で公開しています。
こんにちは!
Voicy代表の緒方です。
昨日に引き続き2本目の記事を公開します。
今回の2本目は、「音声エンゲージメントの可能性」について、個人や企業など様々な音声コンテンツの事例を整理しつつ、音声市場の未来を考察していきます。
音声発信が広まる背景
■インフルエンサーはなぜ「音声メディア」で発信を始めたのか?
今、SNSで影響力を持つインフルエンサーの間で、「音声メディア」での発信がブームの1つとなっています。
海外では、Facebookのマーク・ザッカーバーグさんが2019年4月からSpotifyでポッドキャストの配信を始め、大きな話題を呼びました。
こうした影響もあってか、日本のインフルエンサーやスタートアップ・起業家のあいだでも、「音声メディア」での発信が流行りはじめています。
では彼らはなぜ音声メディアでの発信を始めるようになったのでしょうか? その理由は3つあると考えています。
<音声メディアで発信する理由1:「音声」は発信がラク>
はあちゅうさんは「一番継続しやすい形を考えたら音声にいきついた」とツイートしています。西野亮廣さんも「音声は意外とノンビリやれて、一度軌道にのせてしまえば、息が長い」と書いており、音声発信の手軽さがインフルエンサーにとってウケているようです。
BuzzFeed Japanの編集者であり、Voicyでも「ドングリFM」を配信しているNarumiさんも「文章だと3日かかるけど、音声だと簡単に発信できる」というお話を、Voicy主催のイベント「ボイマ!」でされていました。音声の低い発信コストが、動画よりも魅力的な点といえるでしょう。
<音声メディアで発信する理由2:「ながら聴き」をしてもらえる>
おるたなChannelのYouTuberないとーさんは「登録者200万人のYouTuberはなぜラジオを始めたのか?」という配信をしており、その理由がnoteに書かれています。ないとーさんによれば「人間の情報欲がさらに高まってるから。」で、「だから移動中でも、運動中でも耳が空いているなら耳に情報をぶち込む!ぶち込みまくるのである。無音よりは情報がある方が欲が満たされるのでとにかく無音を殺しに行くのである!!!」と書いてます。つまり、音声は「ながら聴き」ができるので、ファンとの関係性をさらにたくさんつくることができると言うのです。
同じように、西野亮廣さんも「いまのYouTuberが(視聴者を)取れていない時間帯ってどこだろうと考えたときに、車の運転中やメイク中、シャワーを浴びているときとか、意外と動画って観られないシーンが多いなと。YouTuberは目が奪われている時間帯は取れていないけど、音声は『ながら聴き』ができるとの気づきから音声がむちゃくちゃ面白いと感じた」と言っています。
SmartHR社長の宮田昇始さんは自らの音声配信で、ポッドキャストを最後まで聴く割合が高いことに触れつつ「ポッドキャストやVoicyを、仕事に行く前の準備時間に聴くようになっていった」ことが、自分でも音声メディアで発信してみようと思ったきっかけだったと述べてます。
「ながら聴き」のポテンシャルについては、前回の記事でも説明しました。
フォロワー・ファンの「耳の可処分時間」はブルーオーシャンであり、まだ空いているスキマの時間だと考えられるので、インフルエンサーが音声での発信を始めた、というわけです。
<音声メディアで発信する理由3:関係性を深めることができる>
起業家でキッズライン代表の経沢香保子さんは「本音が出せるのに、炎上しにくい、親近感が集まる、浸透するメディア。音声ってすごい…」とツイート。「blogより行間伝わりやすい」「切り取られてネガティブ拡散されない」「声なので身近に感じる」などのメリットを挙げており、「Voicyはソーシャル相性抜群で、拡散力がすごい」「音声は、耳から体に直接入り、人柄も伝わりやすく、ハマりやすい」「インタラクティブ設計可能で、関係が深まるし、リスナーからの反響も強い」など発信してみての感想をつづっています。
またはあちゅうさんは「音声配信は罵倒され率が低いんだよねー。ネットの中で、炎上しづらいオアシス的領域!」とツイートしており、イケハヤさんも「音声コンテンツに紐づくコミュニティーは、アンチが入り込む余地がなくなるのがとてもいい。音声コンテンツを中心にすることで、優しい圏域を作ることができます。」とツイートしています。
インフルエンサーにとっては、フォロワー・ファンとの交流をゆっくりと楽しむことができる場として、音声メディアが活用されているようです。一方で、ホリエモンさんは「取られる時間に比べたら情報拡散性が薄い」とつぶやいています。西野亮廣さんも「音声の拡散力は弱い」と言っているので、どちらかというと音声での発信は関係性を「広げる」より「深める」ことに向いていると言えるかもしれません。
■なぜ「声」は感情的な体験になるのか?
「リスナーの80%が、音声エピソードの全部あるいはほぼ全てを聴く」というデータがあります(画像引用元:MusicOomph)。
YouTubeなどの動画だとスマートフォンを手にとって、視覚(目)も聴覚(耳)も、さらに触覚(手)も使わないといけませんが、音声コンテンツは耳だけで「ながら聴き」できるという手軽さもあり、完聴率の高さにつながっているのではないかと思います。
研究などのアカデミックな領域から見ても、聴覚(耳)には他の感覚器と異なる次のような特徴があります。
街なかで大きな音がすると「はっ」として振り向いてしまうことがあると思いますが、危険を察知したり快・不快を瞬時に判断するのは聴覚(耳)の特徴です。学術的な観点からも「声」を通じたコミュニケーションは感情的(エモーショナル)な体験だと言えそうです。以下にVoicyリスナーの感情にあふれたツイートを紹介し、次の章にうつります。
企業の音声活用事例
■マーケティング・コミュニケーション:エルメス、ディオール、フライヤーほか
こうした音声を通じたコミュニケーションによる「エンゲージメント効果」をマーケティングに活用しようという動きが出てきました。注目したいのは、高級ファッションブランドであるエルメス(HERMÈS)とクリスチャン ディオール(Christian Dior)の2つのブランドが行った音声マーケティング施策です。
エルメスは2019年9月に、「RADIO HERMÈS(ラジオエルメス)」と名づけられた試みで、パリと東京のファッションや音楽、食、旅など、様々なジャンルのオリジナル音声コンテンツを配信しました。出演者も豪華で、女優の石田ゆり子さんや俳優の中井貴一さん、ミュージシャンの岡村靖幸さん、小説家の町田康さん、モデルのUTAさんなどが登場。さらに音楽家の坂本龍一さんやRADWIMPSの野田洋次郎さんなどによるスペシャルパフォーマンスもあり、エルメスというブランドに合った世界観を展開しました(画像引用元:ラジオエルメス)。
ディオールも2020年3月8日の国際女性デーに合わせてシリーズ「DIOR TALKS」の音声コンテンツを配信しています。様々なアーティストやコラボレーターを招き、自由なディスカッションを展開。初回はディオールのクリエイティブ・ディレクターであるマリア・グラツィア・キウリが「フェミニスト アート」をテーマに、過去のショーで数々のコラボレーションを展開してきたアーティストについて語っています(画像引用元:DIOR TALKS)。
2つに共通するのは、「ファッションブランドが持つ世界観を、エモーショナルに伝わる音声コンテンツを通じてコミュニケーションしよう」という点にありそうです。前回の記事でもスターバックスと中国ヒマラヤのコラボ事例をご紹介しましたが、各社ともあえて動画ではなく音声という手段を選んでいるように見えます。
ほかにも、グローバル企業のジョンソン・アンド・ジョンソンは、パーソナルケアをテーマにヘルスケアの最新トレンドなどを紹介する「イノベーション(J&J Innovation Podcast)」という音声番組をつくっています。
また、世界的な企業であるP&G(Procter&Gamble Co.)も、子ども向けの音声番組「Chompers」を配信しています。アマゾンのスマートスピーカー「アレクサ」に「Alexa, start Chompers.(アレクサ、Chompersをつけて)」とお願いすると、歯磨きをしている間の2分間になぞなぞや歌などのエピソードが流れます。スマートスピーカーを活用しつつ明確なターゲットにアプローチしている点は、音声マーケティングとしても新しさを感じます。
事例の最後に、Voicyの企業チャンネルからリスナーコミュニティができるほど人気になった「荒木博行のBook Cafe」を見てみましょう。
この番組では、荒木さんがビジネスパーソンにオススメしたい過去の名著から最新の書籍までを紹介しています。パーソナリティの荒木さんは「本の要約サイト:flier(フライヤー)」を運営する会社のCOOでもあります。フライヤーCEOの大賀康史さんとあわせてご本人の声をご紹介します。
自社のサービスに、音声でのコミュニケーションが加わることでエンゲージメントが深まり、人間味が感じられるようになり、自然とファンコミュニティが形成されたという好例です。
■社内コミュニケーション:エン・ジャパン、PR TIMES
Voicyは社内コミュニケーションのツールとしても活用されています。「声の社内報」としてVoicyを利用しているエン・ジャパンさんとPR TIMESさんの2社の事例を紹介します。
エン・ジャパンさんは、社内限定の「エンゲージトーク」というVoicyチャンネルを開設しています。執行役員と社員の対談や、社内のトピックスなどを週3回のペースで放送しています。音声配信の担当者は次のように話しています。
PR TIMESさんは、社員をゲストにして仕事のチャレンジや決断などのエピソードを、社内だけでなく誰でも聞けるオープンなコンテンツとして音声配信しています。
社内からは、在宅勤務が中心で直接の接点がない社員からも「いつも聴いてます!」と声をかけられるようになり、「Voicyを通じて、初めてリーチできている人って、結構いると思う」というコメントも。社外からも、営業担当者を通じてお客様から「聴きましたよ〜」という声が届くようになったそうです。
社内・社外の両方に聴かれることで、今まで接点がなかった人たちとの「コミュニケーションのきっかけ」になっていると振り返っています。
結論:音声発信はどう使えばいいのか?
ここまで、インフルエンサーや企業の音声発信の事例から、音声エンゲージメントの可能性を考察してきました。あらためて「音声発信はどう使えばいいのか」について、他の発信方法と比較しながらまとめてみたいと思います。
インフルエンサーの事例を見ても、「接点をつくる」ための拡散性は、Twitterやブログなどのテキストメディア、YouTubeなどの動画メディアの方が相性が良いかもしれません。
ファン・フォロワーとの「関係性を維持する」のも、TwitterでのツイートやYouTubeの動画配信は相性がよく、発信頻度を高めることで接点を最大化できます。しかし音声メディアも同様に配信回数を増やすことで、関係性の維持に効果があると言えそうです。
そしてファン・フォロワーとのエンゲージメント、つまり「関係性を深める」ことは動画メディアだけではなく、Voicyなどの音声メディアもとても高い効果が見込めると考えられます。
そしてインフルエンサーの声でも見られたとおり、音声メディアの他にはない優位性は、「音声を発信するコストの低さ」だと言えます。音声発信は手軽に収録して配信できるから継続しやすい。これは発信者にとって見逃せない非常に重要な点だと思います。
インフルエンサーや企業のマーケティングなどをはじめに「発信者と受け手の関係性をより深めるために、音声での発信が今後増えていくのではないか」と私たちは考えています。
最後となる次回の記事では、Voicyの事業戦略についてお話しします。
お楽しみに!
編集協力:コムギ
スキやシェアで応援してもらえたら嬉しいです!