真夜中のパスタ

お腹が空きすぎて眠れなかった。
というのも、大学から帰ってきてすぐ土下寝したせいで夕飯を食べていなかったからだ。

18時半くらいから寝て起きたら午前2時だった。
近くのスーパーは空いておらず、かといってコンビニに行くのも億劫だしなにより全体的に高い。
こんな時間に食べたら太るしお風呂入ってお布団にありつけば腹ぺこ青虫もおとなしくなるだろうと思っていた。

しかし私の腹ぺこが収まることはなかった。
収まるどころかどんどん大きく膨らんで脳内がおいしそうなもので埋め尽くされていく。
怠惰と食欲が戦っている。
外に出て食べるものを買いに行くか我慢するか。
食欲の勢力は強く、冷蔵庫の中身を思い出して何かを捻り出そうとする。

しかし、冷蔵庫にはトマトジュースくらいしかなかった。
最近忙しくてろくに買い物に行っていない。
まともな食事は学食でしか取ってない気がする。今なら確実に不健康・オブ・ザ・イヤーを受賞できるだろう。
このトマトジュースも申し訳程度に健康を加味した結果、野菜不足を補うために買ったものだった。
どこで聞いたか忘れたけど、ピザトーストとトマトジュースだけで大体のバランスのとれた食事になるらしい。ジャンキー狂なアメリカ人の屁理屈みたいな話だが、たしかに炭水化物、食物繊維、ビタミンは揃っている。ピザトーストに欠除したバランスを補うことができるトマトジュースは偉大である。

食料を漁るとパスタとツナ缶が都合よく待機していた。もう作るものは一つである。

それにしても恐ろしい、どんなホラー映画よりも午前2時の食欲の方が恐ろしい。
しかしパスタを茹で始めるとその恐ろしさは次第に消え、踊る麺に合わせて沸き立つ多幸感。

めんどくさがりだからひとりごはんは基本ワンパンで(少し高さがあるフライパンを愛用)、麺が湯だったらそのままザルも使わず蓋で抑えてお湯を切り、軽く蒸発させたらトマトジュースとツナを投入。トマトの酸味が夏を連れてくる。湯気が美味しい。

続いて万物をおいしくする魔力をもっている顆粒コンソメ少々(てきとー)、塩コショウをぱらぱらとかける。
てきとーなときのほうがおいしかったりする。

そういえば私の祖母は料理好きで作っているところをよく見ていたし、教えてもらおうとしたけど、まじで分量を計っているのを見たのは蕎麦くらいだった。他のものは教えてもらったけど分量という概念はなかった気がする。天才だ。

そんなことを考えているうちにソースが少しぐつぐつと音を立て始めた。
ここでとろけるチーズという背徳感を容赦なく投入する。本日の主役トマトジュースと相性抜群、名カップル。
チーズなんてなんぼ入っててもいいですからね。全てを包み込もう、脂肪で。脂肪で包めばすべて解決する。世界平和。

いい感じにとろけたらもう完成である。
洗い物がめんどくさいのでフライパンのままでいただく。
実家を離れるとき母に「ごはんはちゃんとお皿に移して食べなさい」と言われていたけど、まったく守れずにいる。全然タッパーのままで食べてる。そんくらい、許してね。
もっと広い家に住めるようになったら可愛い食器買って自炊モチベを上げていきたい。

どう考えてもおいしいパスタ、名付けてどうかんパスタ。なんかダサくなった、名前はいらない、名もなき創作パスタ。トマチーパスタとか?そのまんますぎる。

ひとくち頬張ると思わず鼻息がむふーっとしてしまう。どうやら私、おいしいものを食べるとため息ではなく鼻息が荒くなる習性があるようでして。
まあトマトとチーズが大優勝してる。簡単なのにこんなにおいしいからもう逃れられない、沼、きっと私はこの罪深い所業を繰り返すのだ…なんて罪なパスタ…

すぐになくなってしまった。なんという満足感、なんという背徳感、深夜飯はおいしい上に普通の三食より付随する幸せが多くて困る。普段のごはんがセロトニンなら背徳ごはんはドーパミンなのだろう。

食べ終わってすぐに洗い物を終えた。
私は食べたあとのゴミや生ゴミを放置することが許せない質なので(その割には蚊やハエにモテる)食べ終わったあとの片付けはすぐにする。

「洗い物した分パスタのカロリー消費したよね、きっと。」とゼロキロカロリー理論を召喚し、たぶんまたこの口福な罪を繰り返す。

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