人口減少は「問題」なのか?
経営者の方からよく「地域の人口が減っていってるから、この先大変だ。人口問題だ」という不安の声を聞くことが多いです。「人口問題」というこの総じた言葉を経営者はどのように捉えるべきなのだろうか?と考え、今回は「問題」と「課題」という概念整理から、人口減少という事実をどのように考えるべきか書いてみます。
問題とは目標と現状との間にあるギャップ
「問題」とは目標と現状との間にあるギャップのことで、既に発生しているかどうかで以下の3つに分類することができます。
発生型の問題:すでに発生している問題
潜在型の問題:見方を変えることで見えてくる、自分で探し出す問題
設定型の問題:未来のあるべき状態を見すえて、自分で考え出す問題
「発生型の問題」は既に起きていることなので、誰でも気づきやすいという特徴があります。
「潜在型の問題」は、現状ではまだ起きていないけれど、そのままだと起きる可能性がある状態です。例えば、「山で煙草の吸い殻を捨てる」などです。実際に火事が起きているわけではないので、問題意識をもたないと気づかれにくい問題になります。現状の、火事が起きていない状態を維持するためには、携帯型の吸い殻入れを持ち歩くなど潜在型の問題に対策するのが重要です。
「設定型の問題」は、目標を立てて現状と見比べたうえで、自分で考え出す問題です。無事故無違反を継続するのが目標だとして、現状は守れているけれど時折スピードを出し過ぎることがあるとします。その場合には「スピード違反などで無事故無違反が継続できない可能性がある」のが問題になります。
人口減少は問題か?
それでは「人口減少」はどの問題の分類に該当するでしょうか?人口には予測はあっても目標値というのはあまり耳にしないので果たして「問題」なのでしょうか?
もちろん「人口減少」によって引き起こされる「問題」は沢山あります。そしてその問題を克服するために取り組まなければいけない「課題」も沢山あります。ただ、「人口減少」は起因する要因だが問題そのものではなく、あくまでも傾向であるということです。集落が維持できないほど住民が減った限界集落があった場合に、残った住民の生活維持という問題があると同時に、自然環境は増えて地球環境的には良いという部分もあります。
課題とはギャップを埋めるためにやるべきこと
「課題」とは、目標と現状とのギャップを埋めるためにやるべきこと、すなわち、「問題」を解消するためにやるべきことです。
「人口減少」でシンプルに捉えるとこのような少子高齢化の進展、生産年齢人口の減少により、以下のような「問題」が見えてきます。
お客様の数が減る
お客様の候補になるべき数が減る
自社の働き手が減る
仕事を頼む先の働き手不足による品質の低下
これらの「問題」の目標とのギャップを埋めるための「課題」は以下のようなものが上がってきます。
既存顧客の売上額増
新規顧客の獲得
業務の効率化
委託先の多重化
地域商圏として、大船渡市・陸前高田市・住田町・気仙沼市を仮に設定したときに、2005年以降急激な減少が既に始まっており今後も減少が予測されています。
市町村別で見ると、1980年の人口を100とした場合、2025年推計で大船渡市は64.8、陸前高田市は58.2、住田町は50.6、気仙沼市は79.1まで減少予測となっています。気仙3市町と比較して気仙沼市の減少は低い。しかし、2045年推計になると、大船渡市は42.6、陸前高田市は39.1、住田町は30.2、気仙沼市は48.7となっていて、気仙沼市は今後気仙3市町よりも急激な人口減少が進むことが予測されています。
先に述べた通り、「問題」とは目標と現状との間にあるギャップのことをいいます。目標が無く、ただの数値であればこれは「問題」ではなく、「減少する」という「傾向」となります。
ビジネスにおいて、様々な社会的な傾向から、次のマーケットを予測しそこに手を打っていくことは、それが「増加」であろうが「減少」であろうが変わりません。高度経済成長期において人口増加という傾向に対して、大量生産・大量消費というアプローチをとって日本経済は飛躍的な成長を遂げました。同様に人口減少という傾向において新たに生まれるニーズや課題を想像してそこに手を打たなければいけません。現在の「DXの推進」もそのひとつとなります。
今経営者が取り組まなければいけないのは「どうやったら人口減少を抑制できるか?」ではなく、これらの傾向から自社にとっての問題、顧客にとっての問題を抽出して、それらのギャップを埋めるためにやらなければいけない「課題」を想像する取り組みをやらなければいけません。そのために、これまで自社が成長してきた「成功体験」にこだわり続けることから勇気をもって切替えなければいけません。なぜならそれらは社会が成長傾向の中で行われてきたことだからです。
人口減少傾向下の課題創出
大船渡市・陸前高田市・住田町・気仙沼市において2015年で35.4%だった高齢化率は、2045年には53.8%まで拡大すると推測されています。高齢化社会は高齢者が増えるというイメージがありますが、絶対数では2030年以降団塊の世代が亡くなり始めるため減少し始めます。
ここから、どんな問題が起こることが予想されるでしょうか?
たとえば、一人暮らしの高齢者は、既に夫婦間の一次相続を終えています。最後の家主が亡くなったとき、新たな「空き家」が生まれます。相続者は首都圏などの離れた場所に住んでいるかもしれません。2030年以降この相続のラッシュが予想されています。これにより不動産物件がダブつき売れない自体に陥り資産価値を失うという「問題」が発生します。
そうすると、厳しい不動産相場の中でどうやったら売れて現金化出来るかという「課題」が発生し、これを解決するために売れるためのリフォームなどのソリューションの需要が生まれるかもしれません。
あくまでもこれは「設定型の問題」に対する課題の創出でありそこから新たなビジネス機会が考えられます。
労働力となる生産人口割合は2015年の54.5%から2045年には39.6%までの減少とされています。当然企業の労働力の確保が問題となり、これを克服するための業務の自動化・効率化などの課題が見えてきます。
このように、人口が減少するという傾向は、様々な問題を引き起こすことが予想されます。企業経営者は、これを正しく理解して自社の問題を克服するための課題の設定と実行、新たなビジネスモデルの創出に取り組んでいかなければいけません。
投稿: 福山宏(株式会社地域活性化総合研究所 代表)
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