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A24に学ぶファンベースとSNS戦略

こんにちは、草野美木(@mikikusano)です。Off Topicでは、D2C企業や次世代SNS、Z世代のトレンドなど米国スタートアップについて情報発信しています。ポッドキャストもやってます🎙

A24という映画製作会社をご存知でしょうか。直近公開されたホラー映画『ミッドサマー』や、アカデミー賞を受賞した『ムーンライト』、今年、アジア系アメリカ人で初のゴールデングローブ賞を受賞したオークワフィナ主演の作品『フェアウェル』など多くのヒット作品を輩出しています。

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A24は、2013年創業と映画企業の中では比較的若い会社にもかかわらず、有名作品を生み出していますが、これまでの映画企業とは一線をかくすファンマーケティングをしています。オンラインでのSNSの発信の仕方などのマーケティング(特に若い世代向け)が本当にうまく、ポップカルチャーとインターネットトレンドを熟知し、”映画館以外の場所”でファンとブランドを作り上げている稀な映画企業です。作品が面白いのはもちろんですが、A24の熱狂的なファンベースによって、ヒットに繋がっていることもたしかです。

A24は、ハリウッドの映画企業よりもシリコンバレーのような若く少数精鋭で、革新的なやり方を見ていると、スタートアップっぽさを感じます。今回は、A24に学ぶファンやブランドづくり、マーケティングについて話したいと思います。


A24とは何者か?

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http://kmystudios.com/portfolio/a24-films/

A24は、2012年に配給会社やプロダクションに所属していたダニエル・カッツ氏、デヴィッド・フェンケル氏、ジョン・ホッジス氏の3人で設立。配給会社としてスタートし、映画の作品制作なども行っています。

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https://www.npr.org/sections/thetwo-way/2017/02/26/516887719/2017-oscars-follow-along-as-the-winners-are-announced

最初に制作した作品が『ムーンライト』。2017年のアカデミー賞で最優秀作品賞を含む25賞にノミネートされました。2013年からA24は、95本の映画をリリースし、25のアカデミー賞を受賞しています。低予算でかつ、若手の映画会社では異例のことです。

DEADLINEによると2019年には15タイトルを公開し、過去最高の興行収入を1億米ドル(約108億円)を記録、その年の映画のディストリビューター年間売上ランキングでTOP10にランクインしました。最近では、『アンカット・ダイヤモンド』がA24史上最高記録の興行収入の約50億円(米国内)を記録。(米国・カナダ以外ではNetflixで公開)

過去にA24のマーケティングコンサルをしていたERm Researchのファーバー氏は、Z世代から人気があることをコメントしています。

「A24は、Z世代の映画ファンに対して信頼を獲得し、根付いたブランドになりました。そしてそれ以上に、A24がキュレートしたコンテンツに信頼を置いています。」ー Yahoo Lifeの記事より

作品ごとのPR施策について紹介していきたいと思います。

Tinderを使ったゲリラ的プロモーション

『エクス・マキナ』はSFスリラー映画で2015年に公開されました。

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この作品では、女性のAIロボット「エヴァ」が出てくるのですが、このキャラクターが出てきます。そこで、その年のSXSWで作品を出展し、映画のプロモーションにTinderを使って告知をしました。

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https://www.theverge.com/2015/3/15/8218927/tinder-robot-sxsw-ex-machina

SXSW参加者が現地でTinderを開くと、エヴァがランダムで現れ、右スワイプすると自動でマッチング。しばらくチャットをしていると、仲良くなった証にエヴァのInstagram(映画の予告)が送られてきます。

コツコツTwitterアカウントを育てる

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ホラー映画『ウィッチ』では、作品のアカウントとは別に、作中のキャラクターアカウントを劇場公開の半年前から育て、1万人のフォロワーまで成長させました。Massive Kontentの記事によると、このようなスケジュールで劇場公開をしたそう。

2015年1月 サンダンス映画祭にて『ウィッチ』の権利を締結
2015年7月 カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭にて上映
2015年8月 メルボルン国際映画祭にて試写
2015年8月 公式Twitter、Facebook開設、予告動画公開
2015年9月 トロント国際映画際にて上映
2015年11月 Snapchat開設
2016年1月 Instagramの投稿をスタート
2016年2月 作品の世界観にちなんだマイクロサイトをオープン
2016年2月 劇場公開

劇場公開の1年以上前からプロモーションの準備し、Twitterでは1万人以上、Facebookでは44万人、Instagramでは、開設から2ヶ月ほぼ毎日投稿。(今ではそれほど珍しい感じではないですが、2016年のInstagramの利用者数はまだ今の半分ほどでした)

作中に出てくる不気味な黒い山羊のキャラクターのTwitterアカウント(@BlackPhillip)を開設し、大統領選挙などトレンドに合わせた投稿や面白いつぶやきで人気になり1万人のフォロワーを獲得。

ターゲット層に合わせた映画体験の提供

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日本でも公開された『エイス・グレード』という映画は、8年生(日本では中学2年生)の学校生活の悩みや恋を描いたドラマなのですが、米国ではR指定のレーティングを受け、8年生は見ることできませんでした(笑)

そこで、A24は、8年生限定の無料上映会を、8月8日に50の映画館で実施。さらに、秋には、100校にエイスグレードの無料上映会の権利を提供しました。無料上映会を同日に50の場所で行うというオペレーションができるのは驚きです…。

鑑賞後もSNSで話題になるキャンペーン作り

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『ミッドサマー』は、新感覚ホラー映画として日本でもヒットした作品ですが、「別れたいカップルにみてほしい」と監督が公言するほどカップルで見るのはおすすめしない映画で、そこでA24は、オンラインセラピーのtalkspaceと提携し、ミッドサマーを観たことで別れたカップルには3ヶ月の無料のカップルセラピーを提供するというキャンペーンを実施。

その応募の仕方も秀悦で、専用フォームやメールではなく、作品のInstagramもしくはFacebook、Twitter、コメントで自分の恋人もしくは推薦する友達カップルのIDをタグ付けするというもの。投稿のエンゲージメントも上がり、友達をタグ付すればPRにもなります。

思わずシェアしたくなる野外広告

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この映画は、元々カルト的人気がある『ザ・ルーム』という映画にインスパイアされて作られた映画で、ジェームス・フランコが監督・主演をしています。この作品では、ザ・ルームのポスターを真似た野外広告が出し、さらにジェームス・フランコの電話番号を載せたことで話題に。(実際に電話ができるらしい?)

世界観を味わえるオフラインイベント

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『アンカット・ダイヤモンド』は、ギャンブル中毒の宝石商が主人公の犯罪映画。その主人公が営む宝石店を舞台であるニューヨークでポップアップショップをオープンし、話題になりました。

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https://www.wmagazine.com/gallery/uncut-gems-pop-up-new-york-city/

お店では、映画で使われた小道具やグッズ、無料の宝石のお手入れサービスなど提供。複数の事例を見てかわる通り、各作品や映画を見る層に合わせて映画体験を提供しているユニークな戦略をとっています。次に、どういう形でソーシャルメディアを活用しているのか紹介します。

若い世代に支持されるソーシャルメディア戦略とは?

『アンカット・ダイヤモンド』の予告編のYouTubeで公開後、視聴回数は、500万回再生されました。その予告の中で「This Is How I Win(これが俺の勝ち方だ)」というキャッチーなセルフが出てくるのですが、予告が公開された日にGIFをGIPHYに投稿。4ヶ月で980万回そのGIFが再生されました。

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そもそもA24は、作品の予告公開と同時に公式でGIFPYに投稿しており、インターネット上でハマるコンテンツを熟知していることが分かります。

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他にも、Instagramで流行していた映画のタイトルやキャラクターがランダムに出てくるフィルターのA24版を公開したり、自主隔離でおすすめの映画を紹介したり、ZOOM背景を作ったり、父の日には、A24の作品出てくる父親特集の記事を公開していました。ソーシャル上で流行っているトレンドや時期に合わせてコンテンツを提供し、過去作品など他の作品を知る機会を作っているのです。

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https://www.instagram.com/a24/

オフラインでファンとの繫がりを作る「PUBLIC ACCESS」

昨年彼らが行っていた「PUBLIC ACCESS」というプロジェクトも面白い戦略でした。

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突如、A24のSNSで緯度経度情報・日時・作品と大きさの異なる白い画像を投稿。テキストには、「#a24PublicAccess」というハッシュダグがあり、ファンの中では様々な憶測が飛び交いました。PUBLIC ACCESSとは、市民が公共の資源・財産にアクセスする権利があるという意味。このプロジェクトでは、野外看板を使って、過去のA24作品を見るという無料上映会でした。しかも、上映場所は、作品とゆかりのある土地で行うという映画ファンのツボを押さえているあたりさすがA24という感じ。

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https://publicaccess.a24films.com/

この施策で、A24のオフラインコミュニティを活性化に繋がり、さらにA24を知らなかった地元の人も突然出没したロゴと日時がある白い看板に「なんだろう?」と注目され、看板をSNSに投稿する人は多くおり、PR効果にも繋がりました。これまでその映画のファンが集まる場所は、映画館かオンラインの掲示板やSNSでした。このイベントで、わざわざその場所に行き、一緒に盛り上がりを共有することでA24のコミュニティの繋がりが強くなります。

大学と提携し、学生のコミュニティへのリーチ

A24は、学生に対してのマーケティングも積極的で、大学とパートナープログラムを行っています。アンバサダー的な存在に近く、参加するとキャンパス内で公開前作品の無料上映会やワークショップをホストする役目に担われます。行われている学校は、UCLAやニューヨーク大学、南カリフォルニア大学など13の大学。

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http://dailyorange.com/2019/09/film-company-a24-partners-su-hosts-indie-film-screenings/

新しい映画体験を提供するグッズ

他にも新しい映画体験という切り口では、オリジナルグッズの展開がとても面白いです。通常の映画のパンフレットやキャラクターグッズなどではなく、映画体験の延長線にあるようなグッズが多く、映画サイトなどではなくA24のECサイトでのみの販売というのも特徴です。

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「ホラー」や「SF」、「ミュージカル」など映画のジャンルにインスパイアされた香りのキャンドルを販売したり、ハードカバーで作られた作品ごとScreenplay Book(脚本)を発売。

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https://shop.a24films.com/

A24自体がブランドなので、A24のアパレルやグッズも人気で他にもZINE(雑誌的なもの)を販売しています。しかも、直近公開された作品の製作者が自ら編集したインタビューメインのコンテンツを発行しています。またZINEは基本自社ECのみの販売ですが、A24とフィットしそうな層イケてるホテルには無料で置いてあるそうです。

ポッドキャストなど自社コンテンツも配信

A24は、ソーシャルメディアのマーケティングに力を入れていますが、ポッドキャスト「The A24 Podcast」も長く続けているコンテンツ配信です。このポッドキャストでは、公開された作品の俳優と監督が作品や自らの他愛のない話などファンに届けています。

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適切なメッセージングができるブランドであること

最近では、COVID-19で、NYの医療関係者を支援するため、映画で使われた小道具や衣装のチャリティーオークションを実施。実際に約3,800万円ほど集まりました。

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これをすぐにできる映画配給会社はなかなかいないのではないでしょうか。また、5月末に起きたジョージフロイド事件では、発生から5日後に黒人差別問題への取り組みと約5,300万円寄付を発表しました。

まとめ

A24の凄いところはたくさんありますが、最も優れているところは、作品だけでなく、ディストリビューターであり制作会社である「A24」としてのファンを獲得していることです。作品ごとのPRやグッズ展開、解説コンテンツなどすべて自社で発信し、企業としてファンになってもらうことで他の作品を見る機会を増やしています。一方、ソニーや20世紀スタジオなど大手映画会社は、多くの人が企業ではなく作品にファンが紐付いています。例えば『メンインブラック』が面白かったから、他のソニーピクチャーズの作品を見てみたい!とはならず、おそらく監督やキャストに興味が繋がるはずです。A24と大手の作品の性質の差もあると思いますが、直接にファンを抱えている強みをA24は生かしてヒット作品を生み出していることは事実です。(下のツイートはファンによるA24作品をテーマにした仮装パーティー)

また、オンラインやオフラインを活用することで、ファンによる新たにコンテンツを生み出しています。作品もA24の既存ファンに加えて、新しい観てもらいたいターゲットとなるユーザーは異なるので、作品の世界感に合わせて新しい映画体験を提供していることも彼らの強みです。そして、A24が手掛けている作品は、Z世代の悩みや人種・セクシャリティの多様性を尊重しているものが多く、映画企業自体が共感を生むカルチャー持っていることがファンになる理由でもあると思います。

Written by @mikikusano

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