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フリーランス翻訳者の「売り込まない」営業術

■なぜ「売り込まない」営業スタイルを取るのか
■ブログを100本書いたら人生変わる?
■「翻訳者スタートガイド」を開設したり、「マシュマロ」での質問受け付けを始めた経緯とメリット
■SNSでの同業者との交流(「知っている人だと思われること」の重要性)
■自分へのアクセス方法を複数持つ(窓口となる個人ウェブサイト、LINEアカウント、LinkedIn等)
■向こうから探しに来てもらう(地域×分野で検索上位を目指す)
■検索キーワードの工夫
■自分のやりたい仕事の分野を日ごろから表明しておく
■どこに情報を置けばいいのか

※この記事は、2022.6.21にSDLジャパン様主催のウェビナーで話した内容と大半は同じです。ウェビナーの録画をご視聴になりたい方はこちらから。

■なぜ「売り込まない」営業スタイルを取るのか 
 
この記事では、翻訳の仕事を獲得するために私がやっている営業活動をご紹介します。私の営業活動は基本的に「売り込まない」スタイルです。なぜかというと、自分自身が営業のメールや電話を鬱陶しく感じるからです。商品やサービスの営業は「たまたまそれを欲しがっていた」時以外、基本は迷惑。これは発注者側の人にとっても同じだろうなと思いました。

 このことに気づいたのは数年前のことです。ある海外の大手翻訳会社に直接応募したところ全く返信がなかったのに、同じ会社の別の担当者からLinkedInリンクトイン(後述)経由で「うちに登録しませんか」と連絡が来たことがあります。向こうからのアプローチで採用プロセスに進むと、こちらから応募した時よりもスムーズに運ぶように感じました。

 それ以来、私は翻訳会社への応募といった通常の営業活動と並行して
 
 ・自分のウェブサイトを持つ
 ・ブログを開設する
 ・ディレクトリやLinkedInに自分の情報を掲載する

などして自分の情報をネット上のあちこちに置くことで自分にたどり着いてもらうように工夫しています。

■ブログを100本書いたら人生変わる?
 以前通訳学校に通っていたころの勉強仲間と2017年6月のある日、zoomでおしゃべりをしていた時、「ブログ記事を100本書いたら人生が変わる」という話を聞きました。
 それでさっそくブログを開設して、当初は毎日1本は記事を書いていました。途中でネタがなくなってきて苦しかったのですが「とにかく100本目まで頑張ろう」と思って書き続けました。
 不思議なことに本当に100本書いた同年の10月頃から引き合いが増え始めました。あちこちの翻訳会社に応募してトライアルを受けていた頃でもあったのですが、ネット上で自分の名前が検索に引っかかり出したのがその頃だったのだと思います。
 また、2020年の2月に悪徳高額翻訳講座に関するブログ記事を書き、関連の投稿をTwitterで繰り返したことにより、ブログウェブサイトへのアクセスが一気に増えました。
 それから、ある人の有料note記事を購読したことをきっかけにウェブサイトに自分の顔写真を追加したところ、さらにアクセスが増えました

■「翻訳者スタートガイド」を開設したり、(匿名メッセージ受付サービス)「マシュマロ」での質問受け付けを始めた経緯とメリット
 ネット上に自分の本名や顔写真を載せるのにはたしかに抵抗があります。個人情報を公開することになるリスクはあるのですが、そのリスクと引き換えにしても自分という存在の情報をネット上で公開すると相手に「安心感」を与えるというメリットがあります。
 翻訳という仕事に限らないと思いますが、何か仕事を依頼したい場合、得体の知らない相手ではなく少しでも知っている人、それがいなければ知り合いに紹介された人など、「少しでも何らかのコネクションのある人」に頼もうとします。
 私が翻訳の仕事をしたい人のための情報サイトを開設したのは、一部の人はご存じかもしれませんが一連の高額翻訳講座に引っかかる人を少しでも減らしたくて、ネット上で簡単に手に入る情報を無料でまとめて差し出したかったというのがきっかけです。匿名メッセージ受付サービスの「マシュマロ」で翻訳に関する質問に答えることを始めたのも同じ理由です。
 情報サイトで私の手元に入る収入は閲覧者がウェブサイト経由で本を買ってくれた場合のAmazonの広告収入の年間数千円程度ですが(それもサーバー代とほぼトントンです)、これによって私の書く文章を通じて「私という人物像が世間に伝わる」というメリットをもたらしました。

■SNSでの同業者との交流(「知っている人だと思われること」の重要性)
 他の業種も同じかもしれませんが、翻訳業界においても「知り合い同士で仕事を紹介し合う」側面があります。
 これは翻訳の実力は資格試験や履歴書だけでは測れないことがあり「確かな人にお願いしたい」と思う気持ちがあるためやむを得ない傾向でもあります。
 フリーランス翻訳者は在宅勤務で孤独だと思われがちですが、業界団体の各種オンラインイベントや音声SNS「clubhouse」やTwitterツイッターSpacesスペース」での会話を通じて横のつながりができ、2020年の自粛期間中も特に孤独を感じませんでした。(※ちなみに翻訳者にはTwitterを使っている人が多いです。業界の情報を集めるには、Twitterで翻訳者を何人かフォローしてみるのもお勧めです。ちなみに私のTwitterアカウントはこちら
 「同業者の知り合い」と言っても対面では会ったことのない人も多くいます。そういった方たちと仕事について普段から意見交換したりして大いに参考になるばかりでなく、オンラインを通じて知り合った人から仕事が舞い込んだこともあります。
 「知っている人」として何かの時に自分のことを思い出してもらえるような状況を作るのは重要だと思います。

■自分へのアクセス方法を複数持つ(窓口となる個人ウェブサイト、LINEアカウント、LinkedIn等)
 今の時代、どんな人物でも商品でもサービスでも初めて知ったものはまずネット検索されます。ですから自分の個人ウェブサイトを持つことは営業上非常に有効なのですが、翻訳者として本格的に稼働している人の中にも自分のウェブサイトを持っている人はそれほど多くありません。他人がやっていないことをやるのが目立つための秘訣です。
 個人ウェブサイトを開設すると翻訳会社と競合してしまうのではないかと思う人もいますが、基本的に翻訳会社と仕事をした際に自分の名前は顧客に出ませんので、翻訳会社を通じて仕事をした顧客が直接コンタクトをしてくることはありません。
 ウェブサイト開設がハードルが高いと思う場合は、noteアカウントで記事を書いたり、ブログを書くだけでも効果があります。
 また、LinkedIn経由の海外からのアクセスは非常に多いです。海外と取引したいのであれば自己紹介欄を日本語と英語で併記しておくといいです。
 LINEのビジネスアカウントを作ってそこからも自分へアクセスできるようにしておくと個人客からの受注が増えます。私の場合、戸籍謄本や卒業証明書の英訳なども行っているので、そういう個人的な依頼をしたい若い人にとってはLINEでアクセスできるのは手軽に頼めて便利なようです。(そういう仕事を受けたいかどうかにもよります)

■向こうから探しに来てもらう(地域×分野で検索上位を目指す)
 つまり、まとめるとこちらから営業をかけるのではなく「向こうから探しに来てもらう」という作戦です。
 例えば以前、私は岐阜市に住んでいたのですが、自分のウェブサイトに「岐阜市在住 翻訳者」と記載していました。それで岐阜市内、岐阜県内の企業から問い合わせが複数回ありました。
 私たち翻訳者側はネットを通じて全国、それどころか世界を相手に仕事をしているので地域は関係ないと思いがちなのですが、翻訳者を探している顧客目線で言うと、「何かあったら直接会って話したい」という気持ちがどこかにあって、なるべく地元で探そうとすることが多いです。ですから住所まで明かす必要はないですが、在住している地域を県・市のレベルまでは明かすのは有益だと思います。
 また、JTFやJATのディレクトリに載せる場合、自分と同じ分野で検索に引っかかる翻訳者がどういう自己紹介を書いているかを私は見ています。他の人とカブっているところがあったら書き直して差別化を図るようにしています。同じく、「翻訳ディレクトリ」などの検索では同じ地域で引っかかる他の翻訳者の自己紹介文も時々チェックしています。

■検索キーワードの工夫
 
得意先になり得る企業や翻訳会社に自分のことを見つけてもらうために、どういうキーワードで検索されているのか予想しています。
 私の場合、「個人」「翻訳者」で探されていることを予想してこの二つを含む「翻訳個人事業主の仕事」というのを自分のブログタイトルにしました。
 翻訳者を探している潜在顧客と、翻訳者になるための情報を探している人が私の発信内容のいずれかにたどり着いてくれているようです。

■自分のやりたい仕事の分野を日ごろから表明しておく
 
2020年の翻訳フォーラムで深井裕美子さんがおっしゃっていましたが、「自分が1時間語れるもの」を書き出して、日ごろからあちこちで宣言しておくといい、という話がありました。 
 こういう分野の仕事がしたい、引き寄せたい、というものがある場合はSNSで発信したり、ブログの自己紹介欄などに書いておくのも手だと思います。
 いつも発信していると周りの人に認知されて、「そう言えばあの人がいた」と、何かの時に思い出してもらえて、思いがけなく仕事が舞い込んだりします。

■どこに情報を置けばいいのか
最後に自分の情報を置くための場所にはどんなところがあるのか、ご紹介しておきます。
LinkedInリンクトイン(ビジネス用SNS): 

各種翻訳団体のプロフィールページ、ディレクトリ
①日本翻訳連盟「JTF」 (年会費必要) 

②日本翻訳者協会「JAT」 (年会費必要) 

③翻訳者ディレクトリ(掲載無料)

④Proz.com (海外、無料、有料プラン有)

⑤TranslationDirectory.com(海外、無料・有料プラン有)


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