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新しい観光スタイルの模索:リトリート×ワーケーションのポテンシャル

観光スタイルに変化の兆し

観光スタイルに変化の兆しが見られます。例えば、先日幕を閉じた、カタールのワールドカップでは、日本人サポーターが試合終了後に、スタジアムを清掃する振る舞いを、多くの海外メディアが取り上げ、驚きと賞賛の反響が広がったことは記憶に新しいことと思います。またコロナ禍では、観光客はPCR検査をして、観光地へ向かい、現地ではマスクなどの感染対策を施して観光を楽しむスタイルが定着しました。また、ハワイ州では、ポストコロナの観光戦略を一つとして、レスポンシブル・ツーリズムを推奨しています。(詳細は、ハワイ州観光局HP参照https://www.allhawaii.jp/malamahawaii/responsible_tourism/


ワーケーション

このような観光スタイルの変化を捉え、各自治体は、さまざまな観光政策を展開しています。ワーケーションもその一つです。ワーケーションとは、ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語で、英語ではWorkationあるいは、Workcationと表記します。欧米を発祥として生まれた言葉であり、2000年代に入りデジタルノマドのライフスタイルやワークスタイルを指す言葉として世界的に広まったとされています(松下,2022)。2020年7月に政府が、「観光戦略実行推進会議」において、コロナ禍における新たな観光需要の掘り起こしとして、ワーケーションの普及に取り組む考えを示したことで、その後メディアでも頻繁に取り上げられるようになりました。和歌山県田辺市は、日本におけるワーケーション先進地域として、多くのビジネスパーソンや企業の誘致に成功しています。


リトリート

ワーケーションに加え、新たな観光スタイルの一つとなりそうなのが、リトリートです。リトリートは、もともと、撤退や退去という意味をもつ言葉です。近年、仕事や日常生活から一時的に離れ、疲れた心や身体を癒やす過ごし方の一つとして、新たな地域での観光スタイルとして注目されています。山梨県北杜市は、2007年に「長期滞在型リトリートの杜」宣言をし、市をあげて、リトリートの推進を打ち出しました。また広島県福山市を中心とする備後圏域では、コロナ禍の2021年に、リトリート型ワーケーションツアーを企画しています。そして、2022年、群馬県の山本一太知事は、「2040年近未来構想」の一つとして、群馬県を「リトリートの聖地」とすると明言しました。

湯けむりフォーラム2022で、山本知事とのツーショット写真

リトリート×長期滞在型観光を成功させるために

2022年12月16日と17日の二日間で、湯けむりフォーラム2022が、群馬県草津町で開催されました。私も、17日のリトリート分科会のモデレーターを務めさせていただきました。群馬県は、東京都心から新幹線で50分足らずでアクセスできる好立地にありながら、温泉や自然、食など豊富な観光資源に恵まれた観光地です。都心部で生活する人々を非日常空間へ誘い、疲れた心と身体を癒やす「リトリート」の地としては申し分ないポテンシャルは持ち得ています。一方で、都心へのアクセスが良すぎるために、日帰りや、宿泊したとしても1泊で帰ってしまう「課題」も存在します。



日常と非日常を往還させる環境整備が必要

では、群馬県のように、リトリートを軸にした長期滞在型の観光戦略を推進していくために必要なことは何でしょうか?長期滞在させるためには、非日常と日常を県内で完結できる環境を整えることが必要です。例えば、東京へ戻らなくても県内でワーケーションが整う環境を整備する必要性もあるでしょう。Wi-Fiが完備された空間の確保はもちろんですが、所属先の企業との相互連携も必要になるでしょう。場合によっては、一時的に県内企業が、副業や兼業先として、職場を開放することも求められるかもしれません。また家族で長期滞在する場合は、子供の教育(県内学校への一時的な就学)や、高齢者の方であれば、オンライン診療の拡充も求められるでしょう。
このように、観光、就労、教育、医療介護など、分野を超えた大きな枠組みの中で、「非日常」だけでなく「日常」を意識して、リトリートを推進していくことが求められます。
「リトリートの聖地」とするには、このようないくつかのハードルを超えていく必要があります。しかし、県のトップである知事が強い意思を持って推進していこうとする姿勢が見られるのは、他県にない大きな強みであると、フォーラムに参加して感じました。群馬県の新たな観光政策への取り組みは今後も注目していきたいです。

まとめ

観光スタイルに変化の兆しが見られます。ポストコロナの観光戦略は、この変化の兆しを、捉えた政策を打ち出す必要があります。従来のような「観光入り込み客数」のみにとらわれた「量的拡大施策」から、観光地でどのような観光経験をしてもらうかという、経験の内容、すなわち「質的拡充政策」への変化が必要であると思います。


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