「勝者と思われる」か「明白な勝者」か

米国の大統領選の結果に関する報道を見ていると、記事によって微妙なニュアンスの違いがあることに気づいた。


政権移行の予算執行にかかわる一般調達局がバイデン氏を "apparent winner" と認定したことを受けた記事だ。報道では、バイデン氏を「勝者と思われると判断」というという記事から、同氏の「勝利を正式に認定」や同氏が「明白な勝者」とまで書いた記事もある。かなり受ける感じが違う。

これは、"apparent" という単語をどう解釈するかの違いだろう。意味は、「表面的に見たところ」。その裏には、見た目はそうかもしれないけど本当のところはわかりませんよ、という含意がある。

断定はできない、あるいは断定したくない場面で便利な単語だ。よく見かけるが、罪深い単語だと思う。特に、これを日本語で正確に訳すのは結構難しい。このことばを発した人の立場や文脈をしっかり辿って解釈しても、最終的には訳す人の価値判断が微妙に入り込んでしまう恐れがあるからだ。

バイデン氏を次期大統領として少しでも早く決めてもらって安心したいという人にとっては、誰がどう見ても "winner" なのだから、「明白な勝者」と言うだろう。

一方、トランプ氏に未練がある人にとっては、まだ正式な決定ではないからという理由を挙げながら、「勝者と思われる」という。

訳し方ひとつで情報をミスリードすることがある。世論が動く可能性がある。そう考えると翻訳というのはかなり怖い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?