人の名前は聞き取りにくい

おそらく多くの人が同じように感じているのではないかと思う。人の名前というのはどうも聞き取りにくい。電話でも対面でも、面識のない人からいきなり名乗られても、肝心の名前が頭に残らないことがよくある。

こちらが話を聞く態勢になっていない段階で、名乗られても記憶に残らない。仕事中の環境などで手元にメモでもあれば、とっさに書き取ることもあるが、いつもそうとは限らない。家族や親しい人などからの電話で、相手が名乗らなくても声質で相手がわかるような場合は別だが。

名刺を受け取るような場面では、相手が名乗っているときはほとんど上の空で、ほっとしながら名刺に書かれた名前を文字で目で追うことになる。

なぜそうなのか。少し考えてみる。

仮に文章の中である単語や語句が聞き取れなくても、文脈やその場の状況から判断して聞き取れなかった部分を補うことができる。だから全体の話が理解できる。少なくとも理解したと思うことができる。しかし人の名前についてはそうはいかない。まったく会ったこともないような相手、長く会っていなくて意識から遠ざかっているような人、そうした人の名前は文脈で補うことができない。うっかり聞き返す機会を逃すと、そのまま話が進み、最後まで、相手の名前がわからなかったということになりかねない。

以上はこちら側の理由だが、相手側にも理由はありそうだ。何となく自分の名前を強く発声することに誰もが何となく気恥ずかしさを感じるのではないかと思う。また、生まれてこの片、数えられないほど声に出しているものなのでつい油断してしまうのか、早口でぼそぼそと名乗ってしまう人がかなり多いような気がする。

お互いに気を付けた方がいいと思う。

落語で「マクラ」というのがある。本題のネタに入る前にちょっとした世間話や、本題に関係する小さなネタを披露する導入部みたいなものだ。推測だが、いきなり本題に入るのではなく、聞き手が話を聞く態勢に入れるようにするために長年かけて作り出されたしくみではないかと思う。

この知恵を日常生活でも活かせればと思う。

例えば、自己紹介などの場では、この点を頭に入れて工夫するのがいいだろう。いきなり名乗っても、おそらく100人中99人は自分の名前が相手の頭の中に入っていっていないことを意識すべきだ。相手が聞く態勢に入ってから自分の名前を丁寧に伝えるなどの工夫がほしい。

人にアドバイスできるほど自分では十分できているとは思わない。先ほどかかってきた電話の主が結局だれかわからなかった。なんということもないセールスの電話だったので実害はないのだが。

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