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三越呉服店は唯儲けた丈ではいかぬ~三越の古典に学ぶ その6~

日比翁助の卓越したところは、商売の目的を単なる利益の確保におかず、“国民経済への貢献”においたところだと思う。企業の中長期的成長のためには、短期の利益を犠牲にしても継続してブランド価値の向上のために顧客に投資し、広告を継続していくことの重要性を認識していた。

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◎設けて居たのみでは商店は繁昌せず
抑も三越呉服店は三百年来の老舗である。之を経営するのは非常の責任である。ナカナカ軽率な事は出来ぬ。で私は周到なる用意と遠大なる計画を建てて営業し、益々三越の三越たる所以を発揮する方針を以て経営して居る。其処で私は儲かつた金の全部は株主に配当しない。相当の配当すれば株主に対する責任を免るるものとし、積立金は店の基礎を安全ならしめる迄の程度に止め、其余の金は唯三越の三越足る所以を発揮するために使ふことのみを考へて居る。

一時的でも何でも唯儲けさへすれば宜しいと云ふ事ならばそれは実に易しい事である。敢て福引政略を用ひなくとも、広告をしない丈けでも大分違ふ。今日となつては二年や三年は広告しなくとも大丈夫だから広告を止めた丈けでも大分儲けを増す。併し永遠的の三越は那麼浅墓なことは出来ぬ。広告は尚牛乳の如きもので、其高価の由て来る所は多い。

二年三年は大丈夫でも五年十年後には影響してくる。那麼事して日比が死んだら三越も寂れたと言はれては情けない。翁助不肖なりと雖も福沢門下の一人である。福澤もんかの一人たる翁助が三百年来の老舗を経営して一時繁昌を致すのみであつては、親しく薫陶を受けた福澤先生や中上川彦次郎氏に対して地下に合わす顔がない。そこで結局三越呉服店は唯儲けた丈ではいかぬ。儲ける傍ら客の便利を図らねばならぬ。儲けて客の便利を図ると云ふ丈ではいかぬ。儲けて客の便利を図るの傍ら永遠的国家的観念を以て経営して国家に貢献する所がなければならぬのである。
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日比翁助は福澤諭吉の影響を強く受けていたことは間違いない。

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