見出し画像

仕事の記録③(連載エッセイの代筆)

office SOBOROのタカハシです。
本記事は依頼された仕事の記録です。
今回は「連載エッセイの代筆」のお仕事でした。
以下、目次です。
※依頼主様のご要望でお名前や掲載媒体の名称などは伏せています。ご了承ください。

1 概要

依頼主様は青森県弘前市で自営業をされているYさん。
毎月1回、ある媒体でエッセイを連載することになったのですが、話を引き受けたものの、うまく書けるかどうか自信がなく、office SOBOROにご連絡くださった、という次第でした。

Y様は人の目にふれる文章を書くのは初めてではなかったため、これまで書かれた文章を参考に読ませていただきました。

ー とても読みやすかったです、整った文章だと思いました。

「報告書みたいなものは書けるんです。前職で散々書いてきたから(笑)でもエッセイってそういうのとは別じゃないですか。楽しく読んでもらえるようなものにしたいんです。」

たしかに、それはごもっとも。

僕も、人の目にふれるかどうかはさておき、これまでいろいろな文章を書いてみました。知ってもらうための文章と楽しんでもらうための文章って全然違うんだなあと思います。求められる要素が違うというか。知ってもらうための文章には簡潔さが、楽しんでもらうための文章には小気味のいいリズムが、個人的には求められるのかなと思います。

2 依頼内容

依頼内容は「毎月連載のエッセイを代筆してほしい」というものでした。そして、Yさんと詳しいお話をしてより具体的にしたものが、以下の内容となります。

・楽しんで読んでもらえるようなものにしたい。
・過去のエピソードを掘り下げ、自分のことを身近に感じてもらえるような内容にしたい。
・原稿用紙3枚程度の内容量。
・掲載日の1週間前までには納品してほしい。

エッセイというジャンルと依頼内容から文体が重要になってくると考えたので、誰か真似したい文章家がいるかどうか、Yさんにお訊きしました。「ちびまるこちゃん」や「コジコジ」の作者であるさくらももこさんのエッセイが大好きなんですとYさん。出てくる人がみんなおバカな感じで、読んでいると声を出して笑ってしまうんだそうです(なかなかハードルが高いぞと思ったのはここだけの話)。

あと個人的に、小説家の角田光代さんのエッセイの雰囲気も、Yさんが求めているエッセイ像に近いのではないかと思いました。自分のことを飾らずおもしろおかしくテンポよく書いている感じというか(自分で自分の首を絞めていることにこの時のタカハシはまだ気づいていませんでした)。

Yさんの承諾もいただき、さくらももこ並びに角田光代両氏のテイストを目指して文体を作っていくという方針(なんかすごいことになってきました)で、とりあえず初回掲載分のエッセイを作成していくことになりました。

3 仕事内容

(1)エピソードのヒアリング

まず、Yさんのお話をお聞きしました。

あらゆることがネタになる可能性があるので、最初は広く浅く。
今はなにをされているのか。普段どういうことを思ったり考えたりしているのか。趣味や最近はまっていること、気になっていることなど。
昔はどんなことをしていたのか。前職ではどんなお仕事をされていたのか。幼い頃、小学校中学高校、そして大学では、どんなことをしていたのか。どんな子供だったのか、などなど。

休憩を挟み、次は、聞いていて気になったことについて詳しくお話を伺っていきました。エピソードに当たりをつけたら、今度は狭く深く。
こういうこと考えていると仰っていましたが、何がきっかけだったんでしょう。こういうことがあったと仰っていましたが、その時、どう思いました? その時その人はどんな反応をしていましたか?

などなど。

2時間ほどYさんのお話を伺い、エッセイの骨格となる複数のエピソード間のつながりが見えたところで、ヒアリングを切り上げました。

あっという間に時間が過ぎていきました。僕の質問に対して、Yさんはひとつひとつ丁寧に答えてくださり、大変助かりました。
人のお話をここまでじっくり聴くこともあまりないので、僕も学ぶところがあり、とても楽しい時間でした。

(2)原稿の執筆

時間を1週間いただき、原稿の執筆を行いました。

書き始める前に、まず3日間、文体の感触を掴むため、さくらももこさんと角田光代さんのエッセイを集中的に読みました。くすくすにやにやしながら読みました。とてもおもしろかったです。同時に、自分のことをおもしろおかしく、しかもワザとらしいところがない感じで書ける、お二人の文章力にただただ脱帽しました。

残りの4日間を原稿の執筆にあてました。

書き出しが決まるまでに一番時間がかかります。決まったら、ヒアリングで見えたエッセイの骨格と、3日間の読書期間で体に残ったエッセイのリズムを、ぼんやり思い出しながら、書けるところまで一気に書きます。筆が止まったら、また骨格を思い出し、必要であればYさんにエピソードの細かいところの確認を取った上で、書けそうだと思ったらまた書く。

それを繰り返し、オチまで書き切ります。原稿用紙3枚の文字数感覚をまだ掴んでいないので、最初できあがった原稿は規定の文字数をかなりオーバーしてしまいます。なので次は、ひたすら文章を削っていきます。4、5回ほど、始まりから終わりまで往復すると、だいたい文字数が収まっていき、文章自体も読みやすくなってきます。

原稿用紙3枚に収まり、誤字脱字がなくなったところで、原稿完成です。

そして最後に、Yさんに読んでいただき、Yさん自身に納得していただけるまで、一緒に文章を直しました。

・・・・・

「とてもおもしろかったです。ここと、こことここで、笑っちゃいました。」

ふぅ、よかった、ひと安心。

「自分のことを他の人に書いていただくと、こうなるんだなあって、なんだか不思議な感じでした。そういう意味でもおもしろかったです。あと、今回書いてもらったエピソード、自分の中ではいい思い出じゃなかったんです、どっちかっていうと。でも、おもしろおかしく書いてもらえて、なんか、新鮮でした。ありがとうございました。」

そうですか。それは、よかったです。とても。

・・・・・

こんな感じでYさんとのやりとりは続き、着実にエッセイを積み重ねています。ありがたいことに好評なようで「楽しみにしてるよ」という声がYさんに届くこともあるのだそうです。個人的に課題だと思っていた文体に関しても、編集担当の方から「名前を伏せてもYさんの文章は読んだらわかる」と言われたそうで。

よ、よかったぁぁぁぁぁ。

4 結びに

依頼についてYさんと最初お話した時、こんなことを仰っていました。

「エッセイなのに、自分で書かなくてもいいのかなって思って(笑)」

たしかに、悩ましいところではあります。

でも僕はいいんじゃないかと思います。

今回のケースで言えば、エピソードは紛れもなくYさんのもの。僕はただ、文章にするお手伝いをしただけ。あるエピソードに宿る持ち主の個性は、別の人間がそれを文章化したところで簡単に失われるものではないと、僕は思っています。

もちろん、書き手がその人に対して、どこまで敬意を払えているか、という話でもありますが。

office SOBOROは、依頼してくださった方へのリスペクトを、常に念頭に置き、お仕事をさせていただきます。

以上、連載エッセイの代行の仕事の記録でした。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?