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HEii press vol.07 「馬とともに歩む 」

2019 Spring

 風土に根ざし、長く継承されながら、いままさに失われつつある暮らしや生業、環境、文化に対する深いリサーチをもとに遠野の未来を考え実践する「遠野オフキャンパス」。
 今年で7年目を迎え、遠野駅前の街場を対象にした「三田屋オフキャンパス」、中山間地域の環境や馬とともにある暮らしを考える「馬とくらしオフキャンパス」、重要文化財千葉家住宅とその周辺地域の未来を考える「千葉家オフキャンパス」と徐々にそのフィールドを広げています。
vol.7 目次
馬と歩く風景 千葉家と馬の未来

遠野の建築とルーツ 南部曲り家の成立 千葉家の建築と地域

通りの立面ズ 通りを軸にした暮らしの物語
庭園調査 遠野と水流 水路の思い出
そうだ! 路地(ロウジ)を直そう

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思考の種を紡ぐ

 今号のテーマは「馬とともに歩む」です。千年以上に渡り馬産が続く遠野では、馬との暮らしのなかで文化や環境が育まれてきました。しかし1952年当時、遠野市域に4304頭いた馬は、1977年までに95頭に激減し、時を同じくして曲り家が解体されていきました。採草地は植林され、農業は農薬やトラクターの使用が主流に。地域の人たちの協働作業や、地元産の野菜でつくる伝統食などの継承が難しくなりつつあります。
 今後、遠野で馬とともに暮らすことは可能でしょうか。この問いは「馬」との関係にとどまらず、これまで継承してきた物事をつなぐ「思考の種」のようなものだと今年のオフキャンパスを通して感じました。

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 2月の「千葉家オフキャンパス――遠野の建築とルーツ」では、重要文化財に指定されているふたつの曲り家と、上綾織地区で生活されている2軒の曲り家を見学しました。建築の専門的な解説を聞きながら、文化財と集落の住居には歴史的な連続性があり、ともにほとんど同じ価値をもった存在だと実感しました。生業や生活環境によって変化した昭和30年代以降の住宅にも、曲り家の特徴を見出せます。土地の固有性に根差した建築によって形成されている集落は、茅葺きの曲り家でなくとも、未来の文化財だと思いました。

 さかのぼって8月の「三田屋オフキャンパス」では、「町並み調査」、「路地(表通りに面した店舗と裏庭をつなぐ通り土間。ロウジ)」の屋根や建具の修復、3年目となる「庭園調査」に取り組みました。
 かつて裏庭を流れた水路を掘り出すこの活動をみて、町の方が「昔は、街中に豊かな水の流れがあり、美しい庭園があちこちにあったものだ」と語られました。その誇りを蘇らせることも、オフキャンパスの大事な効果のひとつかもしれません。
(文・安宅研太郎)

2019年度「遠野オフキャンパス」の取り組み

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HEii pressについて
 HEii pressは、新しいまちづくりの情報を伝えるフリーペーパーです。「HEii」とは、かつての遠野から沿岸部までを含んだ地域をさす「閉伊(へい)」と「平易(へいい)」を合わせた造語。「内陸から沿岸部までを含めた広い視野に立って、当たり前のことを大切にする」そんな地域づくりを目指して発行しています。 
 編集:松井 真平 尾内 志帆
 記録:松井 真平
 ディレクション/デザイン:安宅研太郎


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