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【楽曲紹介】Spread It Thickly

浅く狭くしか生きていけない非オタクによる自己満足楽曲紹介シリーズ・第3弾。
好評も不評もゼロにつき、ついに第3弾。
これまでの楽曲紹介記事はこちら。


私、朝はパン派なんですが、滅多にジャムを使わないんです。
しかし先日ひさびさにジャムを塗ってパンを食べました。
そんな日に思いついた記事。

何が言いたいかというと、「ジャム」と題する曲には素晴らしい曲が多い、という話。
ここに挙げたものくらいしか知らないですが。

これを読んでいる方の頭には今、外国で墜落した飛行機に日本人が乗ってなかったことを嬉しそうに報道するニュースキャスターが思い浮かんでいることと思います。
思い浮かんでなかった人もこれを読んだ瞬間に思い浮かべましたよね?

まあ思い浮かんでなくてもいいので本編へどうぞ。


1.jam (with iri) / milet

声がかっこ良すぎる令和の女性シンガーの双璧、miletさんとiriさんによる作品。
miletさんの2ndアルバム『visions』に収録されています。
作詞・作曲はmiletさんとRyosuke“Dr.R”Sakaiさん。

イントロ1発目で同時に鳴る2つの音だけで、もう引き込まれます。
ウッドベースと...なんだろうこの音...分からないけどすごく気になる...。

1番はmiletさんパート。
リズムをカッチリとはめて固く歌いつつ、エッジボイスにハスキー成分を含ませた声を随所で利かせてきます。

個人的に好きなのは、歌い出しの「I’m alright.」、次のフレーズの最後の「into my words.」、さらにその次のフレーズの最後の「I know ya.」。それぞれ声のニュアンスがまるで違います。
これらはまだAメロですが、ここまででもう既にmiletさんが極めて多彩で繊細な表現力の持ち主であることを、これでもかというほど思い知らされます。
アルバムの中の1曲ですが、この曲のこの部分を聴いただけでも、アルバムを買ってもお釣りが来る。それほど素晴らしい。

さらにその先のBメロの最後、「Can I be honest? Can I be honest with you?」の部分、1音目から鳥肌が立つほどかっこいい。
私は若干ファルセットフェチみたいなところがあるんですが、ここはほんとに垂涎もの。

単なるかっこよさ・強さだけじゃなくて、少し切実さ・弱さ(あるいはかわいげ)が混じっていて、とても惹かれます。
文頭の「can」をはっきり発音しすぎずに、カタカナでいうと「キャン」と「クン」の間くらいで発音していたり、「honest」の「ho」部分を結構長めに引っ張ってから「nest」部分で音を鋭く下降させたり、最後の「with you」の部分をそっと置くように・届けるように歌ったり。素晴らしすぎる。
ここだけで幾らでも語れそうです。

2番はiriさんパート。
しかし、1番サビのmiletさんから切り替わったポイントがかなり分かりにくい。
それほどmiletさんに近い質感の声で歌い始めて繋げているように感じます。気づかない間に斬られてるみたいな。

iriさんお得意の歌唱法で、日本語詞もところどころ英語のような耳触りに仕立てられています。これぞiri節、というところでしょうか。

例えば「妄想ばっかな私ってblind?」というフレーズの「私」は、「わ」の音がほとんど脱落していて「touch」に近いような音に聞こえます(発音記号的には「tʌ'ʃ」に近いでしょうか)。
他の方がこういうことをやると、どうしても「日本人が考える英語っぽさ」みたいなエセ感が拭えないんですよね。必要以上に「r」の音をこもらせたりとか。
iriさんはそういうところを全く感じさせない(この点はmiletさんも同じくらい上手いと思います)。
かと言って別に全て英語詞として意味を持たせようとしているわけではない。
日本語として聞こえるところも残して、丁度良い塩梅で両方をミックスして、気持ちの良いリズム(グルーヴ?)を生み出す。
そのバランス感覚がiriさんは研ぎ澄まされているなと感じます。

さらに驚くべき点は、この曲に関しては自分が歌う部分の歌詞をiriさん本人が書いていないということ。
2人が共演したラジオ番組でこの楽曲の制作経緯が少し語られていたのですが(動画は下記)、iriさんパートの歌詞については、iriさんに歌ってほしいというオファーを出してからmiletさんが書いたとのこと。いわゆる当て書きのようなもの。
miletさんは日英両言語の言語感覚に優れているだけでなく、iriさんと楽曲制作の仕方が近い面もあるようで(下記動画参照)、そんなmiletさんが書いた歌詞だからこそ、ここまでの仕上がりになったという面もあると思います。
とはいえ、他人が書いた歌詞を、こんなに綺麗に消化してかっこいいリズムとフローに仕上げられる人って、なかなかいないのではないでしょうか。iriさん恐るべし。


ちなみに歌詞はかなりシンプルなラブソング。
こんなにガーリーな歌詞でも、ポップすぎず、それでいて爽やかさとかっこ良さを同居させた曲にできるんだなと、感嘆を禁じ得ないですよね。


2.じゃむ (feat. iri) / 鈴木真海子

私の過去の記事を読んでいる人はほとんどいないので誰も気づかないと思いますが、この曲を出すのは約3週間ぶり2回目。
これを含めて10本近くしか書いてないのにもうネタ被り。浅く狭いにも程があるってもんです。

ともあれ、いくらネタ被りしようと無論この曲の素晴らしさが損なわれるわけではありません。良い曲の良さは、どれだけ語っても語り尽くせるものではない。

さて、この曲は鈴木真海子さんの1stソロアルバム『ms』の中の1曲。
またiriさんが客演として登場しています(笑)
iriさんは「ジャム」に何か縁があるんでしょうかね。1アーティストの楽曲に同名の曲が複数あるってたぶん相当珍しいですよね。
ちなみに作詞・作曲も2人でされています。

とにかくめちゃめちゃ良い曲。

1番の前半は真海子さんパート。
これほんとにめちゃくちゃ凄いなと思ったのが、韻の踏み方。
以下はHIPHOP素人の戯言なので鼻で笑ってもらえればと思いますが、HIPHOPやってる人ってみんなこんな凄いんですかね?

分かりやすいように、韻を踏んでる箇所を以下のように太字にしてみました。
「ai」とそれに近い母音で韻を踏んでますが、それだけではないんです。

a dayの君とhi さてラインナップは
もってライ
揺れる うねる
たり語り合い
夢をてまだの途中
新しを見てまた泳ぐ

ぜひ曲を聴いてみてほしいんですが、2行目くらいまでは「ai」の「a」にアクセントがあるんです。
しかし、3行目で徐々に「a」と「i」が同じくらいになって、4行目以下は完全に「ai」の「i」の方にアクセントが移ってるんです。それも凄く自然に移行している。

そのせいかは分かりませんが、2行目まではノリが前の方(少し走る感じ)なんですが、3行目くらいから徐々にノリが後ろ側(少しタメる・モタる感じ)に移行していくように感じられます。
ちなみにこの部分の前にも2行ほど歌詞があるんですが、そこも後ろノリ。

これによってリズムに揺れというか「うねり」みたいなものが生まれます(たぶん)。
ゆったりした曲なのに自然と体が動いてしまうように仕組まれているのです(たぶん)。
こんなこと、こんな自然にできます?

続いて1番後半はiriさんパート。
iriさんの素晴らしさは1曲目で既に語ったのでここでは少しにとどめます。

歌詞はそこまで韻を踏んでないんですが、やはり独特の発音と節回しで気持ちいいリズムを作り出しています。
それでいて、この曲のiriさんの声は他の曲よりも優しい質感。
このバランスが凄く好きです。
体はノっちゃうけど、心はほっこりしてもいる。

iriさんと真海子さんは親友同士らしいのですが、その親友に向ける優しさや、親友と一緒だからこその飾らない・気取らない素の部分が、つい声に現れてしまっている感じ。
そんな様子を見せてもらっているようで、少し気恥ずかしくも、暖かい気持ちになります。

歌詞の内容についてはぜひ実際に読んで良さを実感していただきたいので、ここでは私の無駄な解説は割愛します。
1番好きな箇所だけ貼っておきますね。

慣れない日々に
手を伸ばすたび
大事なことさえ
忘れてしまいそう
でもまた会う日を
頼りにここで君を待とう

ちなみに、ここで挙げた曲の中だと私はこの曲が1番「ジャム感」がある気がしていますが、どうでしょうか。


3.Jam and Milk / ストレイテナー

非常に迷いました。選定する曲を、曲名が「ジャム」「じゃむ」「JAM」だけのものに限るか否か。
2秒ほどじっくり考え、限定しないことにしました。

というわけでストレイテナーの4thミニアルバム『Blank Map』からこの曲を選定。
作詞・作曲はホリエアツシさん。

ストレイテナーはあまり詳しくなくて、ちょこちょこ好きな曲がある程度なのですが、この曲は好きな1曲。

注目すべきはやはり歌詞の形式ですかね。

全体を通して短めの句の羅列という感じですが、ほとんど全ての句で、終わりがア段になっている(「だった」、「空」など)、またはア段の音がその句の中で最後にアクセントが置かれる音になっている(「Stay by my side」、「コンパス」の部分など)。

日本語の場合、述語を過去形にすれば「〜だった」、「〜した」で全てア段になります。
しかしこの曲は、それだけで統一しているわけではなく、他の単語や英単語も使った上で上記のようになっています。

16分でカッチリ規則的に刻まれるドラムパターンで、周期的な運動を見せる天体と無限に続く宇宙の様子を、そしてこの脚韻のような「ア段」とその語尾の歌い方の多様さ(ハネるような歌い方、フォール気味な歌い方、ルーズめに音を上昇させる歌い方など)で、宇宙空間(outer space)での浮遊感を、それぞれ表現しているように感じました。

続いて歌詞の中身。

1番では、こぼれたミルクや空っぽのジャムなど、少しばかり不運な、しかし日常の範疇と思える風景が並べられています。
しかし、「開いた口が塞がらないまま」「あの時君は何を思ってた?」と、やや不穏な、その風景と不釣り合いにも思われるフレーズが差し込まれます。

続く2番では、壊れたコンパスや白紙の地図、「住所不定音信不通」など、ワードが醸し出す不穏さが加速していきます。
「不揃いの靴」で「廃線を歩く」というフレーズからは、今まで日常的に過ごしていた場所から突然抜け出て、全く知らない場所に迷い込んだような印象を受けます。

ここでようやく1番の歌詞の不穏さの理由が少し明らかになった感があります。

1番の歌詞の風景は、自分が飛び出した後の、今まで過ごしていた場所の様子だったのかもしれません。
あるいは、いつも過ごしていた馴染みの場所が、なぜか突然、初めて訪れた場所かのように感じられ、違和感・居心地の悪さ・自分がそこに似つかわしくないような感覚(「異邦人」(stranger)的感覚とでも言えばよいでしょうか。)に襲われたことを暗示しているのかもしれません。
さらにそれは、今まで自分を縛っていたものから放たれた状態、拠り所のない反面、一切のものから自由になった様子を表しているのかもしれません。
その感覚がサビの「想像を絶していた/何だって意のままさ」に繋がる気がします。

Cメロ(?)の「赤いアンブレラ/白い銀河に咲いた」の部分は冒頭の「こぼれたミルク/ジャムは空っぽだった」との対比になっている気がしますが、残念ながら解読できませんでした。
歌詞解釈に自信のある方はご知見をお借りできれば幸いです。


4.Mellow Jam / Steady & Co.

3曲目で曲名の縛りがなくなったのでもうなんでもアリ。
ということで、Steady & Co.の1stシングル『Stay Gold』に収録されているカップリング曲、「Mellow Jam」をセレクト。
作詞はILMARIさん、kjさん、Shigeoさん。

ここまでかなりダラダラ書きすぎている自覚があるので、文量調節のため、この曲については好きなフレーズとその理由だけ書きます。

水溜り覗けばほらディスカバリー
振り返んな過去の傷ばかり

ここはkjさんのパート。
「水溜り」、「ディスカバリー」、「傷ばかり」の韻が完璧なのは言わずもがなですが、「水溜り」を覗いて「ディスカバリー」という発想が凄い。

水溜りなんて普通に歩いてたら避けるだけですし、なくてもいい、むしろない方がいいくらいのものじゃないですか。
そこを覗くっていう行為自体、大人になったら普通はしないわけで。
そこから発見なんてあるわけないと思ってるわけで。
でも普通はしない行為だからこそ、やってみたらそこから見えるものがあるかもしれない。

鏡みたいに自分を映し出すものでもあるし、そこに反射する空や風景を見ることもできる。
そういう見方じゃないと見えてこないものもありそう。きっとある。
水溜り、捨てたもんじゃないですね。


5.JAM / the peggies

the peggiesの1stミニアルバム『PPEP1』より。
この曲を挙げたくてこの記事を書いたと言っても過言ではないです。過言ですが。
ギタージャキジャキロックが大好物です。ほんとに。
作詞・作曲はギター・ボーカルの北澤佑扶さん。

さて、例によって歌詞。

心臓の右半分という発想、何処かにいる誰か・自分の求める人の心臓がこれにあたるという発想。
これは私の知る限りではRADWIMPSの「オーダーメイド」が初出です(違ったらすみません)。

「どこかの誰か」はこの世に生まれる前の「僕」に対して、心臓も両胸につけてあげるね、と言う。
「僕」は、大切な人を抱きしめる時に初めて両胸で鼓動を感じられるように、1人で生きていかないように、右側の心臓はいらない、と答える。
「オーダーメイド」では、人体の構造に準えてそんなロマンチックな物語が語られます。
これは野田洋次郎さんにしか書けない歌詞でしょう。

the peggiesの「JAM」は、この発想を反転させ、自分の救われなさを拾い上げてしまう。

自分のことが大切でかわいくて仕方がない自分。そんな自分にも嫌気がさす。
しかしそれでもやはり自分を大切にせざるを得ない。
しかしそんな自分であっても、他人を求めずにいられない。ひとりでは満足できない。
というある種の原罪。

今のこの自分は満ち足りておらず、本当の自分ではないかのような。
今のこの自分は、あくまでも右半分を見つけたときには乗り捨てられてしまうことが決まっている、仮の乗り物であるかのような。

そんな自分の救われなさ・誰からも見放されている自分に目を向ける歌。

歌詞だけでも物凄いんですが、曲も物凄い。

細かく分析したわけではないんですが、リズムにところどころ違和感を置いておく感じ。「字足らず感」「字余り感」とでも呼べばよいでしょうか。
それによって、強制的に曲を聞かせる・メッセージを届かせるような作りになっているように感じました。

特に顕著なのは1番のサビ前〜サビの部分。
それまでは4/4拍子ですが、サビ前の「自分に生まれてきたはずなのに それなのに」という部分だけ、6/4拍子というんですかね(あるいは、4/4と2/4?)、そういう変則的なリズムになっています。
4拍目まで歌詞が続き、6拍目まで演奏が入ります。
そして、小節が変わりサビの頭1拍目。ここで驚くべきことにブレイクが入る。演奏が入るのは2拍目からです()。

おそらく特に意識せずに聴いていると、サビの歌詞が始まる「振り落とされた」の「振」の部分がサビの小節の1拍目だと感じるのではないかと思います。
しかし、その聞き方で、それ以降も4/4拍子で進んでいると考えると、おそらく拍がズレたような感覚を覚えるのではないかと思います(おそらく、それ以降、小節の頭で入れるようなシンバルの音が全部4拍目に聞こえることになります)。

ここまでながら聞きしてたような人も、おそらくこの部分で「え、何このリズム...?」とならざるを得ません。

他にも歌詞の「字余り感」などもところどころありますが、リズムで違和感を覚えさせ、強制的に曲に意識を向けさせるという仕掛けになっている気がします。

このブレイクの部分が何を意味しているのかは分かりません。
この世に産まれ落ちてしまった、苦悩の始まりの瞬間か、はたまた耐えきれず終わりを迎えてしまった瞬間か。
もし後者だとすれば、「何回でも繰り返すその先にある物が/僕を救ってくれますように」という最後の歌詞は、この輪廻から抜け出せない「僕」がいつか救われることを願っているようにも...。

:ここは、もしかするとサビ前が7/4拍子(ブレイク部分までがサビ前の小節)で、サビ頭だけ3/4拍子(「振り落とされた」の「振」が1拍目)という整理もあり得るのかも、あるいはそれが正しいかもしれません。しかし、いずれにしたって普通そんなことしないですよね。凄い。


さて、以上5曲が「ジャム」シリーズでした。
正直に言えば、これらの曲がなぜ「ジャム」という名が付いているのかについても考えたかったのですが、全く思いつきませんでした。他日を期したいと思います。

冒頭のニュースキャスターの話はなんだったんだとお思いの方もいるかもしれませんので、最後にこれだけ貼っておきます。


お耳に合うジャムが見つかりましたら幸いです。

それでは。

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