【コラム】音と空間の隙間で踊る
音楽のある場所で踊る場面で、音楽に沿ってなぞるように踊ると、オーディエンスはそのシンクロニシティにも似た現象に感動を覚え声援をあげる時があります。
正に音と踊りが意味のある偶然の一致を見せた事で、場所の温度が上がる事があり、踊っている側にとっても幸せな瞬間だったりもする。
しかしその幸せを求め過ぎるが故に、音を求め過ぎる場合があり、それは音に踊らされるという状態になる。
何かに左右されるのがあまり好きでない僕は、この音を欲する踊りからいつしか遠ざかったように思う。
音がなくても踊る、場所がなくても踊る、重い空気でも踊るを繰り返していると、僕なりに見えてきた隙間があるんです。
重たく硬い空気で1歩も動けないように感じる時も、よく空気を観察すると必ず足を踏み出して良い隙間があって、そこに足を入れる事で周りの空気が少し緩んで動く。
するとまた次の1歩を踏み入れる事の出来る隙間が生まれてまた歩く。いつしかそこは重たく硬い空気ではなくなり、今度は隙間ではなく空気とコンタクトをしながら踊れる空間になってしまう。
物理的に狭い場所でも、この隙間を見極める感覚を使うことで人にも物にもぶつからずユラユラと踊る事が出来た。
ぶつからないと知った周りの人達は、一気に僕がそこで踊っても良い空気を作ってくれた。
このころから、音楽と踊っても以前のように音に包まれて踊らされている感覚ではなく、音が僕の隣にいるような感覚になり、音の隙間に体をなげだし自分もその場を埋め尽くす要素の1つになれたように思える事が出てきたのだった。
僕の『踊る』は音や空間や空気の隙間に居る事なのかもしれない。
平成の時代は色々な事が起き、多くの方々が悲しんでいる場面をよく見た年だった。
そんな空気で踊る事は不謹慎なんだろうか。。。
でもきっとその空気にもわずかな隙間があって、そこに足を踏み入れるのがやっとだとしても、人から見たら踊りには見えなく、ただゆっくりと歩いているだけだとしても、空気は少しずつ動いて、新しい何かを運んでくれるのではないかと思う僕が何かの為になるはずもないが、僕は歩くし踊るし。
ダンス劇作家
熊谷拓明
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