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日本私立大学協会令和元年度就職部課長相当者研修会講演録より(4)〜「キャリア教育と教学マネジメント」

日本私立大学協会主催「令和元年度就職部課長相当者研修会」(2019年11月14日)の講演録をもとに加筆・修正したものを数回に分けて転載します。転載を許可いただいた日本私立大学協会の関係者の皆様に感謝いたします。今回が最後です。今回はかなり加筆しました。A課長補佐というキャラクターは、この文章を編集中に突然舞い降りてきて、勝手に動き始めるので困りました。おかげで文章がとっちらかったものになってしまいました。ですが、これからはこんな大学職員が求められるんじゃないでしょうか。

■大学組織の類型を構想する

キャリアセンターがカリキュラム開発に参画したり、リカレント教育を仕掛けたり、企業との連携を強化したりすればいいじゃないか、というと、必ず、それはウチがやれることではないとか、他部署との調整が必要だとか、そういった組織の論理が必ず出現します。

そもそも、教学マネジメント体制の構築を目指し、教育の質保証の観点をふまえた新たなキャリア教育を構想するためには、学内のどの部署が主管になればよいのでしょうか? 現時点ではこうした疑問に答えられる部署はあまりないはずです。

教学マネジメント時代における大学のあり方をふまえ、大学がこのような取り組みを自由に行えるようになるために、大学はどう変わらなければいけないのでしょうか? 私は、そのためには教育改革だけでなく、大学組織のあり方について再検討が必要だと考えています。

ここで大学組織のタイプを類型化してみました。ぱっと考えただけなのですが、私としては、3つに分かれるのではないかと思います。

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まずは伝統的なピラミッド型組織です。この就職部課長相当者研修会も、事務局側の教務課、学生課、就職課というピラミッド型の組織を前提としています。この研修会には、教員がほとんど参加していないのが現状です。

しかし、出口の質保証はどこが担うのでしょうか?、 学位プログラム単位の教学マネジメント体制はどこが担うのでしょうか? それは学部・学科です。このギャップというかズレがあるせいで、ピラミッド型組織だと、縦割りの弊害とか、教育と大学組織の遊離とか、教員と職員の意見の不一致とか、様々な問題が出てくるわけです。

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先進的な大学では、マトリックス型組織みたいな感じで、事務局と学部・学科がクロスファンクショナルにチームをつくっているところもあるようです。ただし、これには、教員側、事務職員側ともにマンパワーが必要で、ある程度規模の大きな大学でないと実現できないのと、各部門のトップに高い能力が求められます。そういった意味で、人材も豊富でないと、このようなクロスファンクショナルなマトリックス型組織というのはうまくいきません。そうでないと、漏れ、抜けがいっぱい出てしまいます。

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では、小規模な大学はどうすればよいのか。マンパワーは十分ではありません。部署ごとに学部担当者がつくなんて夢のまた夢です。他方で、現実には、課題がどんどん増えています。Society5.0もそうですが、AIやデータサイエンス対応とか、高大接続とかですね。どれ一つとっても、それにまつわる課題がどんどん増えていきます。そのときに、これはどの部署が担当なのかと言っていたら、全然話が進みません。

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むしろ、小規模な大学では、学部・学科が持っているカリキュラムというか学位プログラムを中心に、教員、職員、それに企業、学生、地域関係者や、さらには保護者などを含めた広い意味でのステークホルダーが一体となって、チームとなって質保証システムをつくっていく、教育を行っていく、関わっていくという発想が必要ではないかと考えています。学位プログラム単位でまず自立的な組織をつくり、それを全学にひも付けていく。

もちろん職員は全学に所属しているわけですが、学位プログラム組織を担当するときは、ある意味「何でもやる課」みたいなもので、自分が所属する部署の業務を通じて形成される専門性は核としながらも、学位プログラムレベルの教学マネジメントのために、隣接分野はなんでもやるわけです。その際には他の部署を気にする必要がありません。むしろ積極的な協働が求められます。さらには、学外のステイクホルダーと協働することもあります。

■ここで突然、未来の大学のA課長補佐が出現します

それでは、いきなりですが、未来の大学における就職課職員の1日を想像してみましょう。中洲未来産業創造大学のA課長補佐は就職課に所属しながらも、文系学部であるB学部の担当として、B学部事務室に机があります。現在の課題は、教学マネジメント体制におけるキャリア教育のあり方について、B学部のキャリア教育プランを作成することです。

ですが、A課長補佐は、そもそもB学部のDPに違和感を覚えています。「様々な教養を背景に近代的自我を形成し、良き市民としての資質を身につける」なんていう前に、職業人としての最低限のスキルを身につけさせるべきではないかと考えています。学生にはPCを買わせておきながら、4年間でエクセルをまともに使う機会もありません。カリキュラムも科目数が多すぎて、学生が迷い子になっています。

今日のA課長補佐は、朝イチで、他の学部担当職員と一緒に、B学部長やB学部教務代表と打ち合わせを行います。「地域の企業ではやはりICTを活用できる人材が不足しているという声が上がっています。インターンシップでもエクセルが使えるかどうかを問う企業が出ています。B学部では、せっかくPC必携にしたんだから、卒論でエクセルを用いた分析を行うことを必修化できないんですか? そのためにも1年生の情報リテラシーで徹底的にエクセルを使い込ませる内容にする必要があると思うんですが」と投げかけます。その上で、「次のカリキュラム改革では、そうした地域企業の声を踏まえてDPを修正する必要があると思います」と釘を差すことも忘れません。

帰り際に、教務担当職員からは、「カリキュラム改革のワーキンググループを立ち上げる際には、Aさんも必ず入ってね」と言われました。

次の打ち合わせは、C企業とです。C企業にはB学部から卒業生が多く就職しています。C企業からは、採用の話に加えて、従業員のICTレベルを向上させたいので、卒業生を含めた若手人材のICT研修を行ってくれないかという打診が寄せられました。エクセルはもちろん、クラウドやAIに関する知識も教えてほしいというオーダーです。C企業の担当者はB学部の先生たちのこともよく知っているので、B学部ならできるだろうと読んでいるのです。A課長補佐は、B学部にいる情報担当のD教員と打ち合わせをした上で、返答することを約束しました。

打ち合わせがおわると、D教員のオフィスアワーを確認した上で、研究室訪問です。D教員の部屋には、3Dプリンタや様々なセンサやドローンが転がっています。D教員の情報学の授業は、激しく高度な内容であるため、学生の阿鼻叫喚図が展開されていることで知られています。ですが、この授業を受けた学生は、PCを使って何かを作り上げることに躊躇しなくなります。A課長補佐は、この授業をB学部の必修科目にすればいいのにと常々思っています。

打ち合わせでは、D教員とは、C企業の研修を引き受ける方向で打ち合わせが進みました。ただし、D教員からは、自分の授業を受けている3年生の学生をその企業研修に参加させられるかが条件だと言われました。これまでの打ち合わせの雰囲気から言えば、C企業が受け入れる可能性があります。そこで、A課長補佐は、C企業が本学の学生を受け入れやすくなるためのロジックをあれこれと考え始めました。

最後に就職課に戻り、最新の就職状況の動向をフォローします。コロナ禍でオンライン就活が進行していますが、ある学生は面接の際に、ディプロマサプリを画面共有しながら自己アピールを行うと、その後の企業側からの質問もずっとディプロマサプリ絡みだったというエピソードを聞きつけました。こういう情報をB学部と共有したいんだけど、という話をしたら、他の課員がC学部でも同じ話が出ていたと言います。じゃあ、就職課として、コロナ時代における就活エピソードを全学生に効率的に共有する仕組みをつくるか、という話になりました。

A課長補佐は大変忙しい一日を送っているわけですが、自分の裁量で動ける部分が大きいので、充実感は非常に高いです。しかもB学部担当の他の職員やB学部の教員と協働しながら、B学部の教育改善に貢献できているという実感もあるため、やりがいも感じています。

さて、こういう大学組織は、今後ありえるでしょうか? 私は、全学にひも付きながらも、学位プログラムごとに自律分散型組織をつくり、そこに全学の各部署から人を出して、学位プログラムごとにチームをつくってやっていくというイメージの「自律分散型組織」が、小さい大学では必要だと最近考えています。

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この点については、まだまだ多くを説明できませんが、内部質保証という視点から就職、あるいはキャリア教育を見ていくと、教育改革だけでなく、組織改革の両方が不可欠ではないかと私は考えています。

(以上)

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