ひそひそ昔話 -その3 風をきって きって 風をきってゆくよ。またしても破れかぶれな夕陽の疾走 -

高校生の僕は自転車を漕いでいた。パーカーにジーンズの簡単な恰好。簡単とは言っても安くはない。ジーンズなんか1万はする高価なやつだ。そよいでいた風を置き去りにするようにギアを上げ、加速した。この自転車も安くない。ガチャリンコ。二重鍵。中学に入学して、自転車登校が許可されたときに、じいちゃんが買ってくれた。6万する。

 大きな川が、夕陽を反射してキラキラと輝いている。堤防沿いの、色を失い、生命の灯を失いつつある植物が、夕陽色に強制的に染め上げられていた。

 僕はテレビゲームがあまり得意ではない。ドンキーコングもクラッシュバンディクーさえも。ゲーム機なんか、ゲームボーイカラーくらいしか持っていなかったし、ポケモンの銀かカービィ・デラックスくらいしかソフトも持っていなかった。それで、四天王を5回くらい倒した後はもうゲームをしなくなった。
 そういう僕が休日にどう友達と遊んでいたかと言うと、だいたい河川敷か大きな公園でキャッチボールをするのが常だった。高校2年生の僕と友達はそうやって遊んでいた。

 日没も近くなったので僕らは帰ることにした。また明日、学校で、と。
今日の晩御飯はなんだろう? 肉料理ならなんでもいいな。今日の風呂当番は誰だ?弟はしてくれたろうか。そんなことをつらつら思いながら家路を急いだ。

 風をきって車輪を急がせる。なんだかどこまでも行けそうな気分だった。まだ明日の宿題もやっちょらんけど。なんとかなるだろう。

 それにしてもいい風だ。少し肌寒いが、秋も深まってきたってことだろう。風が自分を通り抜けていく感覚があり、それは風と一体化したような感覚でもあった。

 いや、ちょっと待って? なんかスース―しない? 僕はジーンズを見下ろした。
なんということでしょう。股が破れている。
あぁ、僕のセクシーゾーンが…。
風を切っていたのではなく、ジーンズを裂いていたのか。風が自分を通り抜けていくって、まさにその通りだよ。おいおい。

 当時(今もか)、僕はふくよかな体つきをしていたので、たくさん歩いたり、激チャなんかしたりするとよく股ズレを起こした。それでまず第一防衛ラインのジーンズが犠牲になったのだ。あぁ、なんてことだ…なんてこった。どんどん裂けていく。

 僕は家路を急いだ。裂けるジーンズ。恥を知る心。迫る夕陽。最終的にジーンズは尻ポケットの繋ぎ目部分で辛うじてつながっているだけで、あとはもうビロンビロン状態だった。

 夕陽に映える、右の生足だけ寒空に晒す、妙な恰好の変態が自転車を漕いでいた。

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