音楽よもやま話 -第6回 SMAP- 君は今すぐ翔び立てるのさ
僕は今でも、時々SMAPのことを想う。空気のように常にそばにあった存在だから。
特別大ファンというわけでもなかったし、CDを借りたのだって解散騒動が起きてからだ。でも、彼らの音楽は、ずっと街のいたるところで流れていたし、テレビをつければいつでも彼らがいた。彼らの音楽っていい歌ばかりだし、カラオケで歌いやすいし、色んな人に受けがいいのだ。中居くんパートを声真似して歌ってみたり、キムタクを真似して崩しまくって歌ってみたり。
彼らが解散したあとでも、毎週月曜夜10時になるとTwitterのトレンドに「スマスマ」が登場する。ファンの方々の彼らを想う気持ちというのは永遠なんだなと、とても暖かく感じる。もしかしたら、憤怒や戸惑いや哀しみや色んな思いがあるのかもしれないが、とにかく想っているのだ。
僕は、上辺をなぞって指に付いたほこりをしばらく眺めるしかない。それはかつて空気中を舞っていた何かで、僕の肺を満たしていた何か、だ。(その"何か"は決して汚いものじゃないよ。)ほこりというのは、時間が経って、誰も触れていない間にどんどん溜まっていく。誇りというのは未来にあるのではなく、常に過去もしくは今現在にしか存在できない。そして、なんというか、SMAPには今がないのだ。"今"のSMAPはない。僕が求めているのは、誰かに不躾に拭き取られ、簡単に綺麗事にされてしまうようなものではない。時間が経って、部屋の隅っこに溜まった彼らの誇りを寄せ集めて、無茶苦茶で偏った編集をして、これが平成の伝説だ、とか簡単に言わないでほしい。でも、僕はここで昔話をするしかないのだ。それはちょっぴり悲しいことだろう?
2003年、小学四年生。学校では毎日、J-Popの合唱楽譜が配られ朝だか帰りの時間だかに皆で歌う時間があった。7月はKinki Kidsの『フラワー』、5月はV6の『WAになって踊ろう』、という風に月替わりの課題曲があったのだ。それで2003年のある月の課題曲は『世界に一つだけの花』だった。いつかの朝、めざましテレビで軽部アナが紹介してたなそういえば、とかなんとか思い出しながら歌った。今でもカラオケで歌うけどいい歌だ。
「うたばん」を見てゲラゲラ笑いながら夜ご飯を食べる。「西遊記」の慎吾ちゃんを見る。テレビに映るキムタクを見て姉が「パパがキムタクくらいかっこよかったらいいのに」とどうしようもない文句を言う。父は唇を尖らして拗ねる。仕方ないさ。歌が下手な僕でも「中居くんだって下手だし」と思うとなんとなく勇気もでたものだ。でも実際は中居くんは音域狭いだけで「君色思い」とか「なごり雪」、「HOWEVER」とか「夜空ノムコウ」とかの歌声は傷にしんと染みてくる薬くらい優しい。らいおんハートの体現者なのかな、中居くん。らいおんハートのダンスもかっこよくて好きだ。
君はいつも僕の薬箱さ どんな風に僕を癒してくれる
2005年小学六年生。下校時、友達がよく替え歌を披露してくれていた。『BANG!BANG!バカンス』の替え歌なんか最高にあほらしかったな。
2010年くらい、高校生。『Dear WOMAN』資生堂TSUBAKIのCMがとても好きだった。「日本の女性は美しい」と美しい髪をゆらしながら軽やかに歩くひとたち。圧倒的肯定感。今考えるとそうそうたる豪華な女優陣が共演されているもんだ。強くてかっこよくて可憐で美しい。
2013年、大学1年生のとき聞いた『Joy!!』。疲れ果てた時に聞くのが好きだった。求められる事が多く、課せられることは重く、だけど応えられることは少なく、耐えがたいほどに辛く、ひどく空回りして意気消沈していた時にそっと差し伸べてくれる柔らかなてのひらみたいな温もりのある曲だ。
2017年を迎えた時、中学の同級生と焼肉を食べていた時、ふとこの先のSMAPが見れないんだと思うと悲しくなった。なんかわけもわからず箸入れの袋に「thank you SMAP」と書き置きして会計を済ませ、すぐに二人でカラオケに入った。そしてたくさんたくさん歌えるだけSMAPの曲を歌った。『オレンジ』、『この瞬間、きっと夢じゃない』、『らいおんハート』、『がんばりましょう』、『夜空ノムコウ』、『Triangle』、『ありがとう』…。
「世界仰天ニュース」は見てるし、吾郎さんの「ほん怖」だって見たし、キムタクの『マスカレードホテル』も見た。あの映画面白かったなぁ。草彅くんの「コップのツヨ子」とか「スパイダーマン」のコント大好きだったなぁ。「はじめての5人旅」も延々と見ていられる。
空気みたいなものがなくなると、苦しい。別にSMAPが僕の周りの空気すべてを司っていたわけでもないが、なくなればその分、空気の層が薄くなって苦しいものだ。でもありがたいことに、音楽は一生残る。感謝しないわけにはいかない。
あんまり僕は「他人が頑張っているから僕も頑張らなくちゃ」みたいな鼓舞の仕方は責任放棄しているみたいで好きではない。けれど、ソロアルバムを出したり、舞台したり、コンサートしたり、司会したり、彼らは彼らでそれぞれの空を羽ばたいてるのを見ていると、僕もちゃんとしなきゃな、なんて思う。そして、なんかあまりにもベタな話だけど、それぞれの空は繋がっている。
君は今すぐ 翔び立てるのさ
傷んだ愛を 迎えに来たんだ
そうさ過去も未来も 関係ないさ
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