二つの世界の交差点~三浦孝太対ジョーカー、ラジャダムヌンスタジアム、2023年7月1日・ジョーカー編
2023年7月1日、ラジャダムヌンスタジアムのRWS(ラジャダムナン・ワールド・シリーズ)興行のメインイベントで、タイで人気スターとなった総合格闘技選手の三浦孝太対タイの地下格闘技の有名選手、ジョーカーとの試合がマッチアップされた。
今回、ジョーカー・ファイトクラブタイランドと名乗り、地下格闘技団体である「ファイトクラブタイランド」の代表としてムエタイの聖地に乗り込んだ感のあるジョーカー。彼は、ファイトクラブタイランドや他の地下格闘技団体、ストリートファイトタイランドでも戦い、好戦的なファイトでタイの地下格闘技で名前を売ってきた。
元プロのムエタイ選手や、プロボクシングで地域王者だった元ボクサーも地下格闘技で戦う中で、彼は根っからのストリートファイターとしてタイの地下格闘技シーンを引っ張って来たと言える。
MMA選手である三浦孝太選手との”キックボクシングマッチ”のマッチアップは、タイの格闘技ファンには意外であるが、"STAR vs STREET"と名付けられたこの異色の対戦は、あまりに対照的な2人の対戦ということで一般層からの興味も惹きつけたようだ。
ジョーカーの主戦場のファイトクラブタイランドは、タイのブレーキングダウンとも言えるイベントで、2015年にスタートした。
元囚人ボクサーのコントゥアラーイ(RISEにも出場した、コントゥアラーイ・JMボクシングジム選手)やその仲間が始めたファイトクラブタイランドは、若い不良たちのパワーの発散の場とするのが意図で、橋の下や空き地、ショッピングセンターの前などで、時にはゲリラ的にイベントを催してきた。
ルールは、ムエタイルールかボクシングルールで、3分1ラウンドで決着なし(全て引き分け)としている。
3分の試合が主戦場のジョーカーは慣れない3分3ラウンドの三浦孝太戦を受け入れたことになる。
三浦孝太戦の前に、タイのメディア(Brandthinkme)のインタビューでジョーカーは自身について、こう語っている。
地下格闘技なんて、素人の不良が殴り合って、何しているんだ、とずっと色んな人から言われて、すごく見下されていた。
自分は格闘技を、しっかり子供の頃からやってきたわけはないので、路上の大会が自分には似合っている。そう思ってやってきた。(タイではムエタイ選手の殆んどが幼い頃からキャリアをスタートする)
プロのムエタイなどのリングとは違うから、キャラクターを作った。見た人が楽しめるように。最初は本名だったけど、2回目から”ジョーカー”と名付けられた。
試合中にダウンしたことは何回もある。だけど、レフェリーがストップしない限りは、負けを認めない。その度に立ち上がって戦い続けた。
今回、孝太とは10キロの体重差がある。でも、それは関係ない。地下格闘技の選手でもしっかり戦えるということを魅せたい。
今、自分は21歳だけど、中学校を卒業して働き始めた。モノを売ったり、建設現場で働いたり。現場では50キロの資材を運ぶことだってある。
現場でみっちり働いて、大体月2万バーツ(8万円)くらいになる。そして地下格闘技で戦えば、ファイトマネーが幾らか入る。(ファイトクラブの場合、動画配信の収益やスポンサー料など)
そこから祖母に毎月お金を送っている。自分の為に、お金を貯めて勉強もしたい。高校に進みたいと思っている。ファイトマネーが上がるか分からないがお金を貯めて高校の学費にしたい。
未来のことは分からない。子供の頃はファイターになるなんて思ってもみなかったが、勉強して高校を卒業して、自分自身のしっかりした仕事を見付けたい。恋人や家族と商売をしてもいい。
今は、自分のできることを頑張ってするだけ、自分のことをプロ格闘家とは呼ばないで下さい。自分は路上のストリートファイターです。
そして、7月1日の試合当日はファイトクラブタイランドのチームが大挙してラジャダムナンスタジアムにジョーカーの応援に駆け付けた。
ファイトクラブのチームは、お揃いの黒いTシャツで、腕や首などにびっしりとタトゥーを入れているものも多く、アウトローの雰囲気を醸し出している。一方の三浦孝太のファンは、若い女性が多く、両方とも普段のラジャの観客層とはまた異なる層であると言える。
試合は、ノックアウト以外は引き分けという特別ルール。試合が始まると、観客はヒートアップ。孝太コール6割、ジョーカーコール4割といったところか。
3回戦で行われたこの試合、技術的には高いものではないが、それぞれが出せるものを出し尽くし、格闘技の本質に触れたような貴重な戦いだった。このコラムで何度か例に挙げたが、漫画あしたのジョーの”矢吹丈対カーロスリベラ”の一戦を彷彿させたような戦いだった。
白熱した試合は、ジョーカーのヒザ攻撃が孝太のボディを襲い、また孝太の左右フック、ストレートがジョーカーの顔面に当たる。2ラウンド初めに鼻を負傷して流血が目立ったジョーカーは、地下格闘技では3分1ラウンドの試合に慣れていたが、スタミナ切れもなく、最後まで戦い抜いた。
終了間際、俺はまだスタミナあると言いたげなジョーカーは、ダッシュ走をするマネをしてステップを踏む。そして、ジョーカーが孝太にグローブタッチを要求したところで試合は終了。お互い膝をついて健闘を讃え合った。
試合後のリング上でのインタビューで、三浦孝太は「体重差があったにも関わらず、試合を受諾してくれてありがとう」と、ジョーカーへの感謝を述べた。
また「実質的には自分の負けだろう」とも話していた。「もっと練習して、ラジャに戻ってくる」とインタビューを締めくくった。
そして、3ラウンドを戦い抜いたジョーカー、試合後はバク転を見せて、コーナーに登り、観客に勝利をアピールするところはさすがにタイ地下格闘技随一のエンターテイナーである。
以下、リング上のジョーカーの試合後のインタビューを紹介する(タイ語→日本語意訳含む)
――ジョーカー選手、今回の試合どうでしたか。
普通のファイトではなく、自分の胸から100の山が出てくるくらい(タイの独白の言い回し)非常にタフだった。こういう機会をつくってくれた(主催者の)ラジャダムヌンスタジアム、RWSに感謝したい。
そしてさらに感謝したいのは、私のチーム、家族、そしてファイトクラブタイランド、ファイトクラブタイランド、ファイトクラブタイランド!(大歓声)
ーーネット上では、地下格の選手に何ができるんだ、ホンモノのリングでは、すぐ倒されると、多くの人が試合前から厳しい声を寄せていましたが、この試合、はるかによい出来だったのでは。そんな人たちに何か言いたいことはありませんか。
オレはやりきったぞ、どうだ。誰だ、できないって言ったやつは。どこだ!(笑いながら冗談ぽく)
ーー将来は、次はどうですか。今回のような大きな会場のリングにまた上がってみたいですか。
こういう大きな舞台は好きではないが、それが自分の使命であれば、しっかり準備して挑みたい。
(ファイトマネーを得て)オレは家族を、おじいちゃん、おばあちゃんを養っていかないといけないのです。おじいちゃん、おばあちゃん、どこに座ってるか分からないけど、今日はこの会場に見に来てくれている。
ーー最後にコメントを
応援に来てくれた皆さんありがとう。ネットなどで色々言ってくれた人たちは、オレの人生を苦しいものにしたが、今回の試合を通じてそれを乗り越えることができたので、逆に感謝したい。
この2人のトレーナー役の仲間にも感謝したい。2人は、練習後、オレが毎日、ひとりで泣いていたのを知らないでしょうけど。(練習がきつくて泣いた) ありがとう、ありがとう。
リング上では、期待以上のパフォーマンスを見せたジョーカー選手、ファイトクラブタイランドが公開したSNSでは、試合前に控室に訪れた祖父、祖母が激励すると、緊張の糸がほぐれたのか、泣き出していた。
筆者が観戦した1年ほど前のファイトクラブの試合では、見事なKOを魅せたり、今回のラジャダムナンスタジアムでは三浦孝太を喰うパフォーマンスを魅せたりと、大胆なところが目立つジョーカーだが、まだ21歳の若者、繊細なところも持ち合わせている。そのジョーカーの格闘家としての今後のキャリアについては興味を引くところである。
↓ ↓ 「三浦孝太対ジョーカー」三浦孝太編
別記事で三浦孝太側目線でこの試合を取り上げました。
↓ ↓ ファイトクラブタイランド潜入、ジョーカー対ヨマトット戦など。
↓ ↓ 「三浦孝太対ジョーカー」試合映像
↓↓ Brandthinkme でのジョーカーインタビュー
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