夏公演の配信映像づくり
お芝居の公演に映像で携わっている話の続きで、実際のお仕事内容について書き残す。
既に取り組んでいる人にとっては「何を今更」な内容であるし、もともと関心ない人には何の参考にもならない記事ではある。
そうだとしても、表現活動が制限されているご時世に、映像でお届けする選択肢があることで誰かの背中を押すことができれば嬉しい。
前回までのあらすじ
「○○でメシを食う」活動の一環として求職(求食)していると、劇団の夏公演を配信するお仕事依頼があった。
ホームセンターで材料を買って、スーツケースに機材一式が入る「移動式オンライン配信セット」を作った。
なんやかんや関係者の頑張りにより、夏公演の当日を無事に完遂した。
この記事は、夏公演の模様を遠隔の観客にもお届けする内容について。
収録映像かリアルタイム配信かそれが問題だ
現場に足を運べない人にも映像をお届けする手段として「収録映像」と「リアルタイム配信」がある。切り口はいくらでもあるところ、この記事では時間軸に着目した。
テレビで言うところの「収録音源」と「生放送」の違いと言えばイメージしやすい。バンドマンにとっては「スタジオ音源」と「ライヴ」の方が馴染みあるだろうか。ライブ音源の収録映像もあるのが話をややこしくするけれど、奇しくも今回の例は「舞台の収録映像」だったりする。
前者の「収録映像」には、ネットワークや放送で配信する方法もあれば、DVDやブルーレイなどの媒体でお届けする方法もある。それなりに作り込まれていてクオリティが高いことに価値がある。
後者の「リアルタイム配信」は、テレビだとスポーツや選挙など情報の鮮度に価値がある場合に採用される。自分達がやるようなオンライン配信では、視聴者の質問にその場で答えるような双方向性に価値を持たせる場合もある。
制作の苦労で比較してみる
どちらの手段でお届けするのか検討する際に、制作の苦労やリスクについて考慮することは役立つだろう。どちらも乱暴に言えばお届けする映像をつくる手段ではある。
収録映像は「撮影→編集→エンコード」とプロセスが多く、作業時間としても長い。クオリティが追求できるメリットの裏返しとして、無尽蔵に作業時間が食われるのが悩みの種である。
一方のリアルタイム配信は、まさに「配信」の瞬間だけで勝負が決まる。上達すれば一発勝負でイケてる映像が創れるけれど、そうは言っても一発勝負のクオリティには限度もある。トラブルや失敗のリスクも高く、それを「生々しさ」という魅力に昇華できたりもするけれど、神経を消耗して疲れる。
譲れない価値と手段が合っているのか、労力に見合うかどうかで判断すればよい。今回どちらを選んだかと言えば、人数の制限などで現地入りできない関係者向けに「リアルタイム配信」していて、ゲネで撮影した素材をお客さん向けに動画編集して「収録映像」の配信もやる。両方やってる私、倍は働いてるやん。
映像の撮影はどうやるのか?
収録映像にせよリアルタイム配信にせよ、カメラで映像を撮影する必要がある。
映像の撮影に関しては、スチル撮影でカメラの扱いに慣れていればハードルは低い。ただし、「30fpsならばシャッタースピードは1/60が相場」やら、音の収録やら、動画ならではのノウハウがある。
ソニーのTipsがめっちゃ解りやすいので、紹介する。ここおさえれば動画撮影は怖くない。
収録映像の編集はどうやるのか?
動画編集に関しては、Adobe Premiere Proでも、DaVinci Resolveでも動画編集ソフトのメーカーが多様なチュートリアルを準備しているので、それらを参照すればよい。以下は教材曲がエモいPremiereチュートリアル。
https://helpx.adobe.com/jp/premiere-pro/how-to/beginners-tutorial-0.html
Vlogなどの動画編集だと「動画素材のどこからどこまでを制作動画のどこに使うか」という判断が入る。お芝居の場合は基本的には演技の実時間に合わせて動画素材と制作動画の対応するため、「どのタイミングでどのカメラ映像を選ぶか」だけ判断すればよい。簡単なようで、落ち着いて観られることと、飽きないテンポ感のバランスを取ったカット編集は奥が深い。
タイムライン上に複数カメラで撮った素材を並べる準備作業のところで、音声をもとに位置合わせしてくれる便利機能がある。2カット間(全選択では動作しない)で先走るカットを後ろに移動させるというクセだけ押さえておけば、メチャクチャ作業が効率化できた。リンク先はPremiere Proだけど、Davinci Resolveにも似た機能がある。
細々したところでフレーム単位で切り替えのタイミングを調整したり、カメラ間の色味を合わせたり、カラグレしたり、音のノイズ除去をかけたりしていると、あっという間に時間が溶ける。
2021/9/7追記:視覚効果でオープニングとエンドロールも付けた
2021/9/13追記:この記事にて制作した映像でファイル配信やった。
リアルタイム配信はどうやるのか?
リアルタイム配信でも、成果物として得るのは動画編集と同じく「収録映像の動画編集」である。すなわち、「どのタイミングでどのカメラ映像を選ぶか」をその場で判断して操作することになる。
画像のようなスイッチャーに、HDMI入力で複数のカメラ映像を入力しておき、「1」ボタンを押せばカメラ1映像を採用し、「2」ボタンを押せばカメラ2映像を採用する直観的な操作となる。細々したボタンは音のスイッチング、PinP、クロマキー、トランジションなどである。
実際に持ち込んだ機材は画像のようになる。長机を音響さんと分け合っている。
配線図は以下の通りで、カメラ1はGoPro、カメラ2はVLOGCAMを使った。収録映像用にGoPro本体で録画するとHDMI出力が荒れたため、予備の3カメラも駆使した。HDMI入力した映像を録画するための機材や、モニターとして観るためのHDMIキャプチャー+PCなどを付けるとワチャついた。
機材まわりのノウハウを体系的に得るには、VIDEO SALON 2021年2月号がオススメ。
今回のセッティングはカメラ1(GoPro)が俯瞰で構えていて、カメラ2(VLOGCAM)で寄りの絵を捉えた。カメラ2→1に逃がしている合間に、カメラ2の画角やパンを振って、カメラ1→2に戻すような操作をやると映像がブレず見やすい。
失敗が許されない配信だと、ワンオペはトラブルに弱いのでオススメしないけれど、今回は関係者向けワンオペ配信なので良しとする。副産物として、公演が終わった瞬間YouTube共有するようなこともできる。
回を重ねるごとに配信の絵作りも上達してきた。もし一発勝負の配信の質を高める必要があるならば、役者ほどまでいかなくても練習の場に足を運んで空気感を掴み、演出さんと話をして理想イメージを引き出すような必要がある。
竹槍で闘ったらええんや
それまで出来なかった配信ができるようになって「わぁ凄い!」と言っていただけることもある。だけど、その感動も永くは続かない。なぜなら、普通の人でもテレビで眼が肥えているため、いったん出来てしまったことは「当たり前品質」となって粗に気付いてしまうためである。
内容が面白いかは置いといて、映像のクオリティとして見ればテレビは凄い。最上級の機材と、専門性の高い制作者がチームでつくった上質のコンテンツがほぼ無料(公共放送は有料だけど)で垂れ流されている。
ライブ配信の界隈では「自分達は竹槍でB29に挑んでいる」という言い方をする。B29にあたる仮想敵はテレビである。こちとらワンオペ配信だし、カメラの値段で比べても100倍は違うため、勝負になる筈がない。
...それを言うとお芝居だって、演奏だって、noteだって、大半の人にとっての創作や表現は竹槍である。著名な登山家がエベレストに登頂したからと言って、自分が近所の山を登ることを辞める必要はない。Climb Every Mountainの精神で、自分の表現をやればええんや。
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